小松さん絶賛! 季節を感じるこの4品

鱧松

では、今回作ってくれた料理を一品ずつ見てみよう。まず、日本料理の神髄とも言える椀は、季節の「鱧松」。椀と言えば、だしへのこだわりもひとしおで、一回一回、鰹節削り器で自らが掻いた削りかつおで丁寧にだしを引く。脂ののった鱧は淡路の沼島産、松茸は亀岡産。淡い品のいいだしに、鱧の旨みが加わって、なんともふくよかで香り高い味わいの椀となる。その余韻の深さと長さはさすがだ。

 

小松宏子さん

かつお節を自分で掻いていらっしゃるということにまず感心させられました。料理人の中でもそんなに多くはないですから。さすがにだしの香り高さが違います。9月になってまた脂ののってきた鱧と松茸が出会う最高の時期ですね。

天然鰻の炭火焼き

「天然鰻の炭火焼き」は一尾で1.5キロもある、大きなもので、錦市場の川魚専門店「山元馬場商店」に、特別大きいのが入ったからと、声をかけてもらったものだ。その大きさになると、締めてすぐには身がかたくて使えず、今日でちょうど10日ねかせたものだという。ぶつ切りにして、炭火でじっくりじっくり焼いたそれは、身にぷりっぷりと弾力があり、鰻の骨を醤油やみりんと煮出してとったたれをからめると、口の中で旨みが躍るようだ。

 

小松宏子さん

これだけ大きな鰻というのは初めて見ました。身の厚みがすごいですね。じっくり炭火の上で炙ると、脂が滴り、炭に落ちて煙でいぶされる。その香りがまずご馳走です。口に入れた瞬間の食感には驚きました。噛みしめるほどに、熟成された旨みがあふれ出るようです。

くじらベーコンのぬた

次の一品は、先付や、コースの途中の箸休めとしても人気のある「くじらベーコンのぬた」で、人気の通年メニュー。今の時期は、とうもろこし、アスパラ、枝豆などと和えているが、冬場は九条ねぎを加えるなど、季節の変化を楽しませる。くじらベーコンは和歌山県産で、ほどよい塩気と脂気がどんな素材とも相性がよいので常備しているそうだ。

 

小松宏子さん

甘辛い味噌の味と塩みの強いくじらベーコンが引き立て合って、なんともお酒の進む一品です。とりあえず、お造りとくじらベーコン、などと常連の方たちが頼んでいる気持ちがよくわかります。

秋鮭新銀杏ごはん

締めのご飯は季節の炊き込みご飯なので、所望する人は先に頼んでおくといい。今回は「秋鮭新銀杏ごはん」。細く切った新ごぼうと、翡翠色の新銀杏、鮭の切り身をのせて、炊き上げる。炊き立てをほぐして茶碗によそえば、秋が香りたつ。自家製の糠漬けや昆布を丁寧に盛り込んだ漬け物と、赤だしを添えていただけば、満足このうえない。

 

小松宏子さん

最後の季節の炊き込みご飯、土鍋のふたをあけたときの湯気と香りは、何度いただいても感動しますね。もっちりとした新銀杏は大好物。脂ののった秋鮭と、土の香りのごぼうと合わせれば、すっかり、実りの秋を感じます。

またリピートしたくなる魅力

大げさなしつらえの中ではなく、食材を取り出す大野さんの手元を見たり、素材の話を聞いたり、料理の感想を口にしたり、そんなさりげないやり取りの中で、普段忘れがちな、日本の四季を思い出させてくれる。「食場大野」の食事は、おいしいいものをいただくというだけでなく、そんな貴重な機会と言える。大野さんの柔和な笑顔にいやされながら、京都に寄ったらまた来たい、そう思わせられる、覚えておきたい一軒だ。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:久保田狐庵
文:小松宏子・食べログマガジン編集部