広島人のソウルフードと言えば?と質問されると、真っ先にその存在が浮かぶ「お好み焼き」。老舗の系譜を継ぐ店や、斬新な味で勝負する新進気鋭の一軒など、その進化はとどまることを知りません。「あの店はどこそこの暖簾分け」と情報通の県民も多い中、レジェンド店のひとつ「八昌」で腕を磨いた広島市西区楠木町の「LOPEZ(ロペズ)」が長く人気を集めています。

〈広島人のソウルフード・ローカル飯〉

駄菓子屋で提供していた粉もん料理「一銭洋食」をルーツとしているお好み焼き。戦後、配給で入手しやすくなった小麦粉をベースに、安価でボリュームのあるキャベツや腹持ちを良くするそばを加えたのが、広島お好み焼きの起源と言われています。

当時は鉄を扱う工場が多く鉄板が手に入りやすい環境だったこと、戦争で夫を失った女性たちが自宅を改装して店を始めたケースが多かったことなど、お好み焼きが広島に根付いた理由は、まちが歩んできた歴史と深く関わっています。

「どんな名店よりも近所のおばちゃんが焼く一枚が最高」「毎週土曜はお好み焼きの日!」など、県民にお好み焼き愛を語らせれば尽きることがありません。お好み焼きは間違いなく、広島を代表するソウルフードなのです。

教えてくれたのは

浅井ゆかり
大分県出身、広島市在住。3児の子育ての傍ら育児雑誌で始めたレポーターがきっかけでライターに転身し約10年。タウン情報誌をメインに、県や市町の広報誌、フリーペーパー、Webサイト、書籍などさまざまな媒体で活動する。関わった人が明るい気持ちになれる取材&記事制作がモットー。得意分野はグルメ、観光、地域関連。

2000年のオープン以来、多くの客を虜にしてきた横川の人気店

週末や祝日には行列ができることも

広島市西区楠木町、JR横川駅から徒歩5分の場所にあるお好み焼き店「LOPEZ」。ベンチにはクマのぬいぐるみ、ドアには「おかえり」のバルーンアートが飾られた、愛嬌たっぷりの一軒です。カジュアルな店構えが、誰でも気軽に訪れやすい雰囲気を醸し出しています。

開店の経緯を話してくれたロペズ・フェルナンドさん

店主のロペズ・フェルナンドさんはグアテマラ出身。アメリカ・ニューオーリンズのイタリアンレストランで料理人の道を歩み始め、ハワイのシェラトンホテルでシェフに。同ホテルで広島出身の奥様と出会い、来日したのだと言います。「広島では当初、メキシコ料理のレストランを開こうと思っていました。けれど、メキシコ料理は思った以上に需要がなくて。それで諦めたんです」と話してくれました。

気さくな人柄も店が愛される理由のひとつ

その後、縁あってお好み焼きの名店「八昌」でお好み焼きを学ぶことになったというロペズさん。これまでの経験からさまざまな料理人を見てきたロペズさんは、店を率いる小川弘喜(おがわ ひろき)さんに出会った際、道具の扱い方などから「この人は一流の料理人だ」と感じたのだそう。教えを請い、自身もお好み焼き店を開くことを決意しました。

師の技を忠実に受け継ぎつつ、オリジナリティを加えて

原色のカラーリングとコミカルなフォントが可愛い

2000年にオープンした店の名は、自身の名前を冠した「LOPEZ」。色鮮やかな看板はロペズさん本人がデザインしたもので、グアテマラの国鳥・ケツァールが描かれています。「ケツァールは国旗にも登場する自由を象徴する鳥で、幸福を呼ぶとも言われています。だから、グアテマラの店の看板には全部ケツァールが描かれています。どこも一緒みたいになるけど」と笑います。

ジュワッとあがる湯気と音が食欲をそそる

八昌のお好み焼きと言えば、やや楕円がかった丸形、つぶさず麺をのせる二黄卵、時間をかけてじっくり蒸し焼きにする手法など、いくつかの特徴があげられます。ロペズさんはひたすら忠実に技を覚え、その通りに再現してきたのだそうです。

麺は八昌と同じ「磯野製麺」の生麺を使用。沸騰した鍋の中にほぐしながら麺を入れ、湯の中で泳ぐように浮かんできたら引き上げの合図。そのまま鉄板にのせ、炒めるように焼いていきます。

セロリパウダー入りのオニオンパウダーが旨味をプラス

手順やソースもまったく同じですが、ひとつだけアレンジしたのが、カツオパウダーと一緒にオニオンパウダーを加えること。馴染みがあった調味料のため、野菜の旨味が加わるのではと考えたのだそう。「マスター(小川さん)に相談したら、“あなたはもう一人前の料理人なのだから自分の味を追求しなさい”と言われました」と振り返ります。

野菜肉玉そば(880円)にハラペーニョトッピング(110円)

さらに話題をさらったのが、ロペズさんが考案したハラペーニョのトッピング。ハラペーニョは、中南米でポピュラーな青唐辛子。加えて缶詰めのピクルスを細かく刻んでトッピングしたところ、これが爆発的にヒット。程よい辛さとほのかな酸味が加わり、トロトロ卵やパリパリ麺にマッチすると大好評。甘めのオタフクソースとも相性抜群です。

LOPEZへ修業に入ったのちに開業した店は、今では10店舗以上にのぼりますが、その店の多くがこの「ハラペーニョトッピング」を採用しています。