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【THEご褒美スイーツ 〜知っておきたい通な店〜】
「食事と同じくらい、スイーツにも絶対手を抜きたくない!」と、日々美味なるスイーツを探し求める甘いもの好きさんにお届けする本連載。スイーツの歴史研究のみならず、製菓にも精通するお菓子の歴史研究家・猫井登さんが太鼓判を押す、ご褒美スイーツを紹介します。
〈第18回〉「パティスリー ユウ ササゲ」

「パティスリー ユウ ササゲ」は、京王線・千歳烏山駅の近くに2013年オープン。数々の有名店で修業した捧雄介(ささげ ゆうすけ)シェフが、魅力的なフランス菓子を提供しており「食べログ スイーツ TOKYO 百名店」にも選出される人気店だ。今回は、季節限定商品を含めたおすすめのプチガトーを3つ紹介しよう。
【ご褒美スイーツその①】「ミルフイユ ペッシュ」1,080円
まずは、旬のフルーツ「桃」を使った季節限定商品である「ミルフイユ ペッシュ」から。こちらのミルフィーユは「桃のジュレ+白ワインのムース+桃のムース」の3層構造。これを両側から香ばしいパイ生地でしっかりと挟む構造になっている。

上には、フレッシュな桃の果肉とクレーム・ディプロマット。カスタードと生クリームを合わせた軽やかでコクのあるクリームだ。桃は、シェフの出身地でもある新潟県三条市の石田フルーツガーデンから特別に取り寄せたもので、時季により「白鳳」「あかつき」などを使い分ける。
まずは上部から。今が旬の白鳳のやわらかく、みずみずしい果肉の甘みと優しいカスタードの味わいがするクレーム・ディプロマットとの相性が抜群に良い。
次にパイ。こちらのパイは、アンヴェルセ(逆折り込み)という高度な製法で作られたもの。通常パイは生地でバターを包んで作るが、アンヴェルセでは逆にバターで生地を包む。焼成すると、バターに包まれて生地が揚げ焼きをされたようになるため、通常のパイよりも、はらはらとした繊細な食感に仕上がり、口溶けも素晴らしいものとなる。
中心部の「桃のジュレ」は、ペッシュブランシュと呼ばれる「果肉の白い桃」とペッシュ・ドゥ・ヴィーニュと呼ばれる「真っ赤な果肉の桃」を合わせて作られているので、赤くみずみずしい酸味と優しい甘みが特徴。これに白ワインのムースが爽やかな酸味を添え、左側の桃のムースが、まったりとした桃の甘みとうまみを添える。

よく観察すると、両側のパイ生地の内側は薄くホワイトチョコでコーティングされているのがわかる。これは中心部のムースの水分がパイ生地を湿らせないための、いわば防水の役割を果たす。時間が経ってもパイ生地のサクサク感が失われないようにとの配慮だが、同時にこのホワイトチョコの甘みが、しっかりとキャラメリゼされ香ばしいパイ生地と優しい味わいの中心部をつなぐ役割もしている。
香ばしくサクサクしたパイ生地の食感、優しい味わいのクリームとともに、今が旬のやわらかで、みずみずしい甘みの白桃の味わいを堪能できる、まさに至高の季節限定スイーツだ。
【ご褒美スイーツその②】「クレーム マングー」680円
2つ目は、今の季節にふさわしいトロピカルフルーツであるマンゴーを使ったヴェリーヌ(グラスデザート)。

上には、爽やかな酸味のあるパッションフルーツのジュレでマリネした、フレッシュマンゴーがたっぷり。マンゴーの濃い黄色に、グロゼイユ(スグリ)の赤色が鮮烈なアクセントとなり、映える。その下には、ココナッツのブランマンジェ。さらにその下は、マンゴープリンとなっている。
酸味のあるパッションフルーツのジュレが、マンゴーの味わいをより一層引き立たせ、完熟マンゴーの濃厚な甘みとうまみを存分に味わうことができる。グロゼイユが口の中で、ぷちっとはじけ、一気に鮮烈な酸味を放出する食感がアクセントになり楽しい。

ココナッツのブランマンジェは、穏やかでミルキーな味わい。濃厚な味わいの完熟マンゴーと下部のまったりとした味わいのマンゴープリンをつなぐ重要な役割を担っている。マンゴープリンは、濃厚で重厚な味わい。
筆者のおすすめの食べ方としては、上部のフレッシュマンゴーの角切りをいくつかそのまま味わったら、次はココナッツのブランマンジェと合わせて、次はマンゴープリンも合わせ、3つを一緒に食べていく。マンゴープリンが重厚な味わいなので、グロゼイユを残しておいて、その酸味と合わせて味わうのも楽しい。
【ご褒美スイーツその③】「シシリエンヌ」702円
最後は、やはりこちらのお店のスペシャリテを紹介したい。

シシリエンヌは、ピスタチオとグリオットチェリーを組み合わせたケーキだが、全部で6層にも及ぶ味わいのグラデーションを楽しむことができる。上部はシャンティー・ピスターシュ、フランボワーズで飾りつけしており、ケーキの構造としては、上からババロワ・ピスターシュ→ビスキュイ・ピスターシュ→ジュレ・グリオット→ムース・グリオット→ババロワ・ピスターシュ→ビスキュイ・ピスターシュとなっている。
上部のシャンティー・ピスターシュには、ピスタチオと生クリームのほかにホワイトチョコとキルッシュが加えられており、上品な香りと甘みが楽しめる。
ババロワ・ピスターシュは、ピスタチオに加え、アングレーズソースのカスタードの味わいが加わり、濃厚なうまみがたっぷり。それを受け止めるのが、ピスタチオのほかアーモンドも含んだ、ナッツの味わいが豊かなビスキュイだ。

中心部のジュレ・グリオットは爽やかでみずみずしい甘酸っぱさで、ムース・グリオットは優しくて味わい深い酸味。味わいに変化とアクセントを与えつつ、濃厚なピスタチオのうまみを軽やかにする。まわりを包み込むナッツのホワイトチョコが食感にアクセントを与え、優しくミルキーな甘さで全体をまとめ上げる。
こちらのケーキの魅力は、何と言っても各パーツが一体となって織りなす味わいのハーモニーだ。なので、食べるときは上から下まで一気にフォークを突き刺して、全体として味わってほしい。各パーツの味わいの合計をはるかに上回る、素晴らしい味わいのオーケストラが口中に展開される。
「パティスリー ユウ ササゲ」の捧シェフが目指すのは、五感に響くフランス菓子
シェフの捧 雄介氏は、新潟県三条市出身。専門学校を卒業後、「ルコント」「オテル・ドゥ・ミクニ」「アロマフレスカ」といった名店で修業を重ね「ロワゾー・ド・リヨン」「パティスリー・エ・カフェ・プレジール」でシェフを務めたのち、2013年、千歳烏山に「パティスリー ユウ ササゲ」をオープンした。

捧シェフが目指すのは、五感に響くフランス菓子。見た目だけでなく、香り・食感・味わいなど細部まで徹底し、記憶に残るお菓子。ひとつで満足できるボリューム感より、あれもこれも食べたい、そんな気持ちに応えられるケーキ。年1回のお祝いやご褒美よりも、日々のうれしいとき、ちょっとしたご褒美がほしいとき、疲れたとき、悲しいとき……そんな瞬間に身近な存在でいられるお店でありたいという。

店内に入ると、すぐ手前の大きな台の上には、レモンケーキやクッキー缶が陳列され、奥には煌びやかな生菓子が並ぶショーケースがある。

ショーケース下段には、苺のショートケーキ、メロンのショートケーキ、シシリエンヌといったスペシャリテからシュークリームまで、プチガトーが約20種類並ぶ。上段には、左側にアントルメ(ホールケーキ)が大小5種類ほど、贈答用に最適なブランデーケーキのほか、マカロンが6種類。その右側にはパウンドケーキが6種類ほど並んでいる。

右側の棚には、コンフィチュール(ジャム)が4種類、フィナンシェなどのバラ売りの焼き菓子が9種類、クッキーも9種類ほどある。そのほかに焼き菓子やクッキーの詰め合わせなども陳列されており、かなりの品ぞろえだ。基本的にはショーケースの左側から並び、ケーキを注文し、右側のレジで精算という流れになっている。
取材に訪れたのは土曜日の午前中であったが、開店と同時にひっきりなしに客が訪れ、季節限定販売のケーキを中心に次々と売れていき、厨房ではパティシエたちが追加商品の製造に追われていた。
昼前には完売となる商品もあるので、お目当てのケーキを入手したい場合は、 早めの来店がいいだろう。
※価格はすべて税込
※2025年7月28日〜8月6日は夏季休業


