アートホテル「白井屋ホテル」だからこそ生まれる料理

レストラン内観
レストラン内観   写真:お店から

本田:「the RESTAURANT」を開業してから4年目。どうですか。変化はあるの?

片山:コロナ禍の真っ只中での開業だったので、その当時と今との比較は難しいですけど、開業当時より料理は安定してクオリティの高いものを提供できていると思っています。当時より、ホテルあるいはレストラン自体のチームができあがっていて、僕自身の思考の整理だったり、クリエーションのロジックやフォーマットができていて、そこに、川手さんからの刺激や他のレストランのシェフのエッセンスを加えて、バランス感覚が安定してきたかなと思っています。経営的な面でみると、ホテルやレストランの稼働も、前年比でどんどんお客様に来ていただけているという実感です。

「上州地鶏」 ⽕⼊れをした上州地鶏に地鶏のレバームース、ナスのピューレ、トマトのジュレを重ねた前菜。ドリンクのペアリングとともに 写真:お店から

本田:もはや、地産地消は当たり前で武器にはならない。自然環境に従うことは料理人にとって必然ということだね。今は、その一歩先に行かなければいけないというのは、確かにある。「白井屋」はホテル自身がアートデスティネーションを掲げている。これも面白い考え方だよね。料理の中でアートはどう表現しているの?

片山:ゲストにとって一番わかりやすいのは、色彩感覚や切り方、フォルムなどのビジュアル的要素が一番大きいと思います。上州キュイジーヌは別にして、「白井屋」らしさというか、アートホテルで食べる意味をビジュアルで表現する。全部じゃないですけど、コース料理の中に鮮やかな色彩や、一見奇抜なビジュアルをはめ込むようにしました。それで、ゲスト満足を捉えつつ、そこにリメイクした郷土料理「おきりこみ」を散りばめて、バランスをとっています。あとは味わいとして、誰が食べても圧倒的においしいフランス料理のベースをテクニックとして使った一品と、香りもテクスチャーも複雑で、考えながら味わう、まるでアート鑑賞をするような一品を入れています。料理はアートだと思ってはいないんですけど、共通する、リンクするような要素は料理にあると思います。映画やアート作品を見た時のちょっとした高揚感をコースの中に意識的に入れ込む。そういったバランスで考えています。

本田:シェフってアーティストだと思うんだよね。美的センスがない人がやると、なかなか難しいじゃない。料理は皿の上のアートみたいな部分もあるから。でもそこに、単なるアートじゃなくて、「おきりこみ」のような群馬的なものを入れながら、アートにしていくというのは、センスがないとできない。「おきりこみ」とフレンチって、一歩間違えると野暮ったくなる。

片山:最近ホテルでは宿泊者向けに夜食として「おきりこみ」を提供しています。メインダイニングでモダンな「OKIRIKOMI」を食べて、ラウンジで夜食として「おきりこみ」を食べる。皆さんにすごく喜んでもらっていて、デスティネーションらしさというか、群馬を感じてもらっています。

レストラン内観
レストラン内観   写真:お店から

本田:群馬で7、8年レストランをしていて、この食材がすごいというものがある?

片山:すごく有名になった代表だと赤城牛、赤城和牛。今、フォーシーズンズとかリッツ・カールトンとかからも引き合いがあって、相当お願いしないと、キープできなくなってきています。シンガポールやフランスでも結構人気があります。赤城牛、赤城和牛は徹底的に品質管理されていて、こだわり抜いた食材で、他の上州牛とかとは肉質も全然違います。開業してからずっと鳥山牧場さんと取引をさせてもらっているんですが、とにかくこだわりが半端ではない。当時から肉への思いというか、熱がすごくて、そういう人がやっぱり、全国的にも世界的にも名前が通ってくるようになるんだなと思います。あとは沼田市、金井農園さんのブランド米、小松姫。「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で金賞を取った米で、90点以上という高いスコアを毎年キープしています。僕はこの小松姫がブレークするんじゃないかなと思ってます。

本田:最初の頃に見つけたものがやっぱり、今もいい感じなんだ。

片山:そういったものが多い気がしますね。この生産者さんはすごい思いがあるという人は、長く付き合いができていますね。品質も未だに向上し続けています。

赤城牛を使った一皿
赤城牛を使った一皿   写真:お店から

本田:デスティネーションレストランをやるからには、そういう生産者さんとの付き合いがすごく大事になってくる。自分で全部育てるわけにはいかないし、その人たちの協力あってこそだから。他、どっかあるの?

片山:小さな生産者ですけど、前橋に「スリーブラウン」という家族経営のチーズ工房があります。赤城山の現地まで行かないと基本、買えないチーズ。「7 Samurai」で使ったカチョカバロはここのチーズです。あれから、もっとクオリティが上がっています。ブラインドで食べてもフランスのチーズと思うぐらいです。ただ、毎週末にしか売り出さないので、僕もスタッフと交替で買いに行っています。

本田:買いに行ってんだ。

片山:行っています。そこでコミュニケーションしています。今年の出来はどうですかとか、暑くなってきたから、牛は大変そうですよねとか。母方の実家が、高崎の農家で、乳牛を飼っていたんです。生産者さんのところを訪ねると、幼少期の頃の記憶が蘇って、そこから出てくる風景や体感、感覚がクリエーションになって、料理に繋がるんじゃないかなと思っています。なので、直接、生産者のとこには行くようにしています。

本田:こういう食の情報は、地元の他のシェフたちに広げていった方がいいよ。他のシェフたちも使ったりしているの?

片山:赤城牛や米に関しては使っています。「Beef Laboratory(ビーフラボラトリー)」の岡田さんは多分ご存じだし、「ファン・ダルクオーレ(FAN×DALCUORE)」の星野さんも「ヴェンティノーヴェ」の竹内さんも絶対知っていますね。皆、めちゃくちゃ仲良くて、お互いの店を行き来しているんですよ。いい食材は皆で情報を共有しています。

本田:いいね。でも、ひろは最初の7年前から発掘していたわけだ。

片山:ものすごく、今、シェフとして幸せです。