群馬ガストロノミーの歴史の1ページを刻む

郷⼟料理の「おきりこみ」をリメイクした料理「OKIRIKOMI」 ⾓切りの根菜にうどんのムースと昆布とコンソメの熱々のスープを合わせ、さまざまなフレーバーのオイルをまとわせる

本田:今後はどういうふうにしていきたいの、ひろは?

片山:シェフとしては、上州キュイジーヌを広めていきたいですね。まだ東京にも世界にも十分に届いていないと思っているので。「the RESTRAUNT」は「白井屋ホテル」の中にあるという利点もありますが、ホテル内のアートや建築に埋もれて、食の力が発揮できてないような気もします。シェフとして、食だけで呼べる、デスティネーションレストランとしての「the RESTRAUNT」を加速させたいと思ってます。もう一つ、ホテルの総料理長としての役割があります。レストランだけでなくベーカリーやパティスリー、アートラウンジなどの営業も見ているんです。そういったマネジメント能力も成長させていきたいですね。日々、難しさを感じています。今後を考えるなら、シェフとしての成長と、自分の料理をクリエイトする責務、それから「白井屋ホテル」としてのチームビルディング。「白井屋ホテル」というのを広く認識していただき、群馬、上州の魅力がより一層高まるようにしていきたいですね。

本田:今は、ベーカリーとラウンジの朝食、パティスリーを見ている。

片山:ホテル内に4つの食の部門があって、それぞれに担当者がいます。例えばパティスリーだったら「EMME」の延命寺美也シェフが監修してくれているので、この季節はこのタルトで、こういう色彩でいきましょうといった打ち合わせをして、現場のパティスリーのスタッフと原価や価格、販売構成などの全体のスケジュールを共有するといった作業をしています。ベーカリーやラウンジも同様ですね。それぞれにシェフがいるので、新メニューやメニュー変更などをその都度話し合っています。

群馬県産マスカットに川場村ヨーグルトのブランマンジェ合わせたデザート
群馬県産マスカットに川場村ヨーグルトのブランマンジェ合わせたデザート   写真:お店から

本田:最後に聞いておきたいんだけど、「白井屋」に入る前に、自分のレストランを経営していたわけでしょ。その店を閉めて、「白井屋ホテル」をやろうとなったのはなぜなの?「JINS」の田中さんから声がかかったという話だったけど。

片山:田中さんが店に来た時、上州キュイジーヌという群馬の食にフォーカスしたシェフがいることを喜んでくださったんです。その縁があって、田中さんが主催する「群馬イノベーションスクール」という起業家や地域活動家を発掘・育成するビジネススクールに、2017年、4期生として参加させていただきました。料理は好きだけど経営者としての学びや知見が本当に乏しかったので、ビジネスって何かという基礎を田中さんのスクールで1年間、勉強しました。そこから田中さんと関わる機会も増えていく中で、前橋「白井屋ホテル」の話も耳に入るようになってきたんです。当時はまだ設計図程度でしたが、何かすごいものができるという予感がしていました。目標の一つだったオーナーシェフになることはできたけど、まだまだ上州キュイジーヌも理解してもらうのが難しい時代。シェフとして何が足らなかったんだろう、他に何かチャンスがあるんじゃないかと悩んでいる時に、田中さんから声をかけてもらいました。これはもうセレンディピティが訪れたと思って、店を閉めて「白井屋」でやっていく決断をして、今に至ります。

本田:それはなかなかの決断だね。

片山:大きな決断だったと思います。当時は、料理もリーダーシップも全然できていなくて、皆さんが、僕を耐え忍んで育ててくれたという感じです。今もまだまだ足りませんが、少しでも恩返しをしたい。「白井屋」でシェフとしてどんどん活躍して、個人としてのクリエーションも、「白井屋」としての存在も、群馬の歴史の1ページになるようにしたい。そういう思いは、決断した時から、ずっと変わらないですね。

左:「フロリレージュ」川手シェフ、右:片山シェフ

本田:これからも楽しみだね。いい話が聞けました。群馬を盛り上げたいと思っているので、次、群馬ツアーを秋ぐらいにやろうと思っています。

片山:その時はぜひ「白井屋」も経由に入れていただいて。

本田:ぜひぜひ訪れたいです。引き続き頑張ってください。

片山:ありがとうございます。

取材:本田直之、食べログマガジン
文:小田中雅子