食通が見いだした今月の新店

新型コロナウイルスの流行により苦戦を強いられていた飲食店は、少しずつ元の活気を取り戻し始めています。私たちも我慢の連続から少し解放され、おいしいものを食べて明日への活力に、そして、飲食店をより盛り上げて行きたいですね。

そこで、グルメ情報に精通している方々に、最近訪れた新店に関するアンケートを実施。特に注目している「今月の新店」について教えていただきました。

今回は、フードパブリシストの高橋綾子さんにお答えいただきます。

教えてくれる人

高橋 綾子
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。

今月のベストワン

Q. 直近で行った新店の中で、特におすすめしたいお店を教えてください

A. 「cépages(セパージュ)」です

写真:お店から

5月7日にオープンした「セパージュ」は群馬県前橋市の「まえばしガレリア」内にあります。都心から新幹線を使っても2時間はかかりますが、それでも来る価値がここにはあります。

写真:お店から

何と言っても料理とワインのマリアージュが素晴らしいのです。「え、そんなこと? レストランならどこでもやっていることじゃない」と思われるかもしれませんが、ここまで完璧なマリアージュができるお店は東京でもそう多くはないのです。シェフの石橋和樹さんは「アピシウス」「レフェルヴェソンス」などで修業されたので、フランス料理には欠かせないソースを重んじる一方で、食材の本質を深掘りしたり新たな可能性を引き出したりします。さらにこのお店のミッションである群馬県産をはじめとする日本特有の食材や調味料はなかなかのソムリエ泣かせ。どんなに熟練だとしても合わせるのは本当に難しいと思います。ところが公私ともに親交が深く料理人経験もある内藤大治朗さんのセレクトするワインはそんな石橋さんの料理に見事に寄り添うのです。このマリアージュにならお金と時間を惜しまない、そう思わせる実力があるのです。また宿泊できるなら21時から開くバーもおすすめです。基本的には簡単なおつまみメニューですが、石橋さんのオムライスなんかも食べられるかもしれません。

Q. そのお店でおすすめしたいメニューを教えてください。また、おすすめの理由を教えてください

A. 「ノドグロ 雪ほたか 木の芽のリゾット」と「栗本牛乳 海塩 きび砂糖のアイスクリーム」(おまかせコース33,000円内)です

「ノドグロ 雪ほたか 木の芽のリゾット」 写真:高橋綾子

コース料理すべてにおいしい驚きがあり、どれもおすすめなので迷いましたが、フランス料理にはない「〆ごはん」だったリゾットを。スペイン「Garcima」社製の「オジャ」という「カルドッソ(スペイン風雑炊)」を作るのに使われる鉄製の蓋つき鍋で群馬県川場村産のコシヒカリ「雪ほたか」を帆立の貝柱の出汁で炊き、上州鶏のコンソメでおじやのように仕上げたところに炭火で焼いたノドグロと木の芽をのせて蓋を閉じて蒸らします。

写真:高橋綾子

土鍋ごはんのように蓋を取って見せるパフォーマンスの後、ノドグロをほぐすように全体を混ぜてから取り分けてくれます。ふんわりと焼きあがったノドグロ、帆立と上州鶏のうまみをたっぷり吸った上にノドグロの脂をまとったお米、ノドグロの薫香、木の芽の香り、生姜のピリッとした刺激、アルデンテの食感……、おいしすぎて五感がパニック寸前でした。バターやチーズに頼らず素材のうまみだけでこれほどのリゾットを完成させる石橋さんの技術とセンス、お見事です。

「栗本牛乳 海塩 きび砂糖のアイスクリーム」写真:高橋綾子

もうひとつは高崎市の栗本牛乳と与那国島の海塩と喜界島のきび砂糖だけで作ったアイスクリームです。食べるスピードを見計らって1時間前に仕込み、アイスクリームマシンにかけ、できたてを提供します。なめらかとかクリーミーとか甘さが絶妙とか、あらゆるおいしい言葉を費やしても表現し得ない私史上最高のアイスクリームです。

※価格は税込。

※アンケート内容をもとに、料理名・金額を掲載しています。最新の情報はお店にご確認ください。

文:高橋綾子、食べログマガジン編集部