【噂の新店】慈雨(jiu)
あの最も予約が取れない店の一つ「渡辺料理店」が斜向かいに新店をオープン。店造りもコンセプトもメニューも一切妥協せず時間をかけて完成させたという店は予約開始時の問い合わせが1,000件以上! 早くも今年の最注目店誕生か?
オープン前にして予約困難店が誕生!

門前仲町に店を構え3年、今や街の顔的存在となった「渡辺料理店」が斜向かいに「慈雨(jiu)」をオープンしました。「慈雨は万物を潤し育てる雨、日照り続きの時に降る恵みの雨という意味。そんな存在になれたらと店名にしました。ウムラウトをつけたuを入れてローマ字にすると上に点が4つ並びます。それは雨の滴であり、炎でもあります」と語るのはオーナーの渡邉幸司さん。

「『渡辺料理店』を始めて1年ほど経った頃、この場所の御縁をいただきました。2号店のイメージはあったけれど遠い未来のことだったので、こんなに早いと分不相応ではないか、時期尚早ではないかと考えました。でも内装や料理のコンセプトに納得するまで時間をかけ、建物も造りから話し合って進めることができたので、これは運命なのだと覚悟を決めました。この建物には僕の“こうしたい”との思いがすべて詰まっています」と話します。

目の前に流れる大横川の両岸には桜並木というのも決めた理由の一つだそう。お花見シーズンには水面に映る桜を眺めながら食事ができる、と想像するだけでワクワクします。

料理についてはシェフとなる大和田龍之介さんの意見を尊重し、薪を使うことに。伝統的なレシピに新しい要素を入れて進化してきたのがフランス料理。薪という要素を入れたらどんなフランス料理となるのか、これは楽しみでなりません。
薪がフランス料理に新風を起こす!

はじめに口にする「アミューズ」は店の真価が問われてしまうもの。そんな“お手並み拝見モード”は一瞬にして払拭されました。「フォアグラのテリーヌとブリオッシュ」は“ザ・フランス料理”な味わい。薪火で焼いたセミドライトマトの凝縮した甘みと酸味と薪の香りが花を添えます。燻製マッシュポテトの上に菜の花とサヨリをのせたタルトも、薪と藁を燻して香りをつけた馬肉のステークタルタルも、伝統的なフランス料理に薪を融合させた見事なアミューズです。

熾火の中で1時間ほどゆっくり火を入れて甘みを十分に引き出した新玉葱をスープ仕立てにし、具材にはコシアブラのベニエフリット、うるいのビネグレットサラダ、牛乳の中に燃えている薪を入れて香りをつけた泡、薪の香りをつけた蕗のとうオイル、タップナードパウダー、パンドカンパーニュのクルトンと盛りだくさん。「塩も酸もしっかり利かせているのに繊細で調和が取れている渡邉シェフの料理を理想としています」との言葉通り、特徴のあるそれぞれの味が不思議と調和する感動的なスープです。

メインは薪火、熾火、火のそばという異なる温度を巧みに操り、表面はカリッと、中はしっとりと焼きあげたフランス産ビゴール豚のロースト。薪で炙った香味野菜を白ワインとフォン・ド・ヴォーで煮詰めたソースには野菜の端材を一緒に煮込み、より一層野菜を深く感じさせています。BBQ味になりがちな薪焼きがソースでフランス料理に昇華する、これぞ大和田さんの目指す“薪火フランス料理”の意図がハッキリとわかる一皿です。

シグネチャーディッシュは熾火でゆっくり火入れして蕪の甘みを引き出した「蕪のアイス」。まるで蕪!という味わいはメインとグランデセールを繋ぐ役割をしっかり果たします。
門前仲町に行く理由が増えた!

フランス料理人の父親を持つ大和田さんにとってフランス料理人になることは至極当然だったそう。18歳の時にフランス料理の知識を広げるために渡仏。北から南まで回り帰国後は「キャトリエム コレド日本橋」に入店し、当時シェフだった渡邉さんと出会います。そのまま渡邉さんの下、「ブラッスリーレカン」「ルシャスリヨン」などレカングループの店舗で研鑽を積み26歳でシェフデビュー。ビストロなど数店で腕を振るい、この度「慈雨」のシェフを任されました。

薪料理の経験はなかった大和田さんですが、薪料理を初めて食べた時に薪の食材へのアプローチや香り、熱量を今まで培った自分のフランス料理に組み合わせてみたいと思ったそう。あえてどこかで薪の勉強はせずに薪火と熾火の使い分けや、香りの付け方、焦げ感など、薪と日々向き合うことで理解を深め、実践から生み出した誰にも真似のできない薪火フランス料理を完成させたのです。

提供するのはランチがアミューズからデザートまでの8皿にコーヒー付きの9,000円、ディナーは9皿にコーヒー付きで16,000円のおまかせコース。「フランス料理らしい構成」「メニューは旬の食材からイメージする」「ソースのある料理にする」「バターや生クリームやビネガーを薪と組み合わせる」ことを重んじた渾身の料理はどれも舌を魅了します。それにしても食材、ソース、フォン、調味料など、ほぼすべての調理工程に薪を使っているのに飽きさせることもなく食べ疲れもしない、大和田さんの舌のセンスと技術の高さに驚かされます。

チームワークもこの店の魅力。厨房では一人一人がいま成すべきことを考えた無駄のない動きを見せ、ホールでは若さを感じさせない礼儀正しく一歩先を読んだ配慮あふれた接客に心から癒やされます。時を経ることで味わいも深みも増していく店と同じように日々進化する料理とスタッフをずっと見続けていきたい、そんな気分にさせられる「慈雨」。予約解放した瞬間にディナーは3カ月先まで埋まってしまったそうですが、平日ランチは空いている日もあるそう。予約はインスタから。
https://www.instagram.com/jiu.makibi/
食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/
文:高橋綾子 写真:山田大輔
※価格は税・サービス料込み