地方ならではの美食を実現し、さらにその先の景色を描く

「オーフ」外観。廃校となった小学校の建物を再利用している
「オーフ」外観。廃校となった小学校の建物を再利用している   写真:お店から

本田:「RED」でグランプリをとって、そこから4年でオーフのシェフになった。タイミングもだけど、そういう声がかかるというのも強運を持っているよね。なかなか、ないじゃん、そんな話。

糸井:出身地でもなく、まだ海外に行きたい気持ちがあったんですけど、北陸ガストロノミーが注目され始めている時期だったので、とりあえず1回見てみようと、小松に行ったんです。行ってみると、とてもいいところで、しかも規模が大きい! 行った日の夜の会食で「やります」と言いました。やらない理由もたくさんあると思うんです。でも、何をもって成功かはわからないですけど、「オーフ、すごいね」みたいになったときに多分見える景色があると思うので、それを見てみたいなと思いました。自分の地元ではない地方で料理を表現していって、どういうことができるのかにも魅力を感じましたね。迷っていても仕方ない、とりあえずやるという感じです。

レストランダイニング
レストランダイニング   写真:お店から

本田:いい決断だよね。相当チャレンジングだけどね。

糸井:官民連携してこの廃校をどうするのかというところに僕みたいなシェフが絡む。そういう側面もありながら、トップレストランを目指す。そんな例は世界的に見てもあんまりないと思うんです。ここで、これからの時代の飲食店の働き方とか、あり方とかを考えていきたいですね。シェフって、スポーツ選手と一緒で、何年も修業して身につけた知識や技術があって、やっとスタートラインに立てる職業の一つだと思います。海外に出て強く感じたのは、シェフは素晴らしい職業なんですが、日本ではなかなか欧米のような地位ではないし、世間一般からもそうは見られていません。一気には変わらないと思うんですけど、オーフみたいな新しいやり方、表現をする店で自分が表舞台に出ることで、少しでもシェフの地位がいい方向に向いていったらいいなと思います。

レストラン個室
レストラン個室   写真:お店から

本田:結構、チャレンジングな選択だけど、面白い。その年齢だからこそ、こういうチャレンジをしておいた方が、先々面白いよね。

糸井:今しかできないと思って決めました。あと、ちゃんと理解してくださるオーナーがいて、民間だけでは無理なことが、行政が絡むとできるというのも決め手ですね。自分にとっていい経験になっています。これまで、シェフって、自分で店を開いて、一つの城をつくるみたいなイメージだったと思うんですけど、もっと視野を広げて、その中の一つに店があるみたいな。そういう目線でやっていきたい。今後はもっと物事を俯瞰して見る力を身につけていきたいですね。

本田:この若さで任されるのも、すごいよね。それも出身地じゃない小松でね。まず食材も知らないわけじゃん。

糸井:本当にそうです。食材だけでなく、作家さんの器とかも一からリサーチしました。山菜を探しに山に入ったりもしています。