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〈「食」で社会貢献〉
2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。
今回お話をお伺いしたのは、今回お話を伺ったのは、本店が有名グルメガイドに掲載され、食べログ カレー WEST 百名店にも選出されている「Synergy(シナジー)」オーナーの原彩さん。自身の経験から、子育てをしている女性も働ける店づくりを進めている。
子育てと両立させるため、平日ランチ営業のお店として2013年にオープン

2013年7月31日に大阪、北新地にオープンした「Synergy」。英語で「相乗効果」という意味を持つ店名の通り、薬膳の効果を意識した医食同源のカレーを振る舞う。原さんは元旅行会社出身で、国内外で食べ歩きをしつつ、漢方コーディネーターや薬膳調整師、調理師などの資格を取得し、独学でカレーを作り上げている。名物は約20種類のスパイスとフルーツをベースに仕込んだ「チキンカレー」と「ポークジンジャーカレー」で、スパイスと一緒に炊き込んだターメリックライスがつく。週替わりカレーも人気だ。

このお店をオープンした経緯について原さんは「当時小学生だった子どもが帰宅する時に家で『おかえり!』と迎え、受験期などをサポートしたいという思いもあったからです」と話す。開業当初から、平日ランチのみの営業を貫いているのもそのためだ。2016年より続けているバル営業も月1度のみの営業。「バル営業の開催回数を増やしてほしいというリクエストも度々いただいてはいますが、無理をし過ぎると悪影響が出るため、当初のスタイルを貫き継続できるようがんばっています」と明かす。

そんな原さんが、短時間勤務で店舗運営ができるよう工夫しているのが、仕込みだ。「定番メニューと週替わりキーマのベースを、あらかじめまとめて作っておくようにしています。営業当日は素材と合わせ調整する作業としているため、作業時間を大幅に短縮できています」(原さん)

ニンニク、生姜を細かくし小分けに冷凍、玉ねぎを刻み飴色になるまで炒める、トマトを加え水分を飛ばす、スパイステンパリング後に全ての素材を煮込むなど、タスクを分けて隙間時間に下ごしらえを行っている。これらのベースは冷蔵保存しておくことで、営業中は短時間の作業でカレーを提供することができるというわけだ。
その結果、原さんが店に立つ時間は平日10時頃から15時頃まで。帰宅後に夕食の片付けと共に仕込みを行うことで、子育てと仕事を両立させている。
社会的に働きづらい環境にある人々、シングルマザーを応援すべく東京にも出店
そんな原さんのお子さんたちも、今では成人し大学を卒業した。子育てが終わりつつある今、「これまで仕事と子育ての時間を融通できたのは、カレーとお越しくださるお客
様のおかげだとあらためて実感しています。感謝の気持ちを微力ながら社会に還元したく、社会的に働きづらい環境にある人々や、シングルマザーを応援したい」と原さんは考えるようになった。

2023年8月に中野駅から徒歩2分ほどの場所に「Spices Curry Synergy 中野店」として東京に実店舗をオープン。フルタイムで働く選択が難しい女性、シングルマザーや、女優、ボディビルダーを志す人など個性的なスタッフが参画している。こちらも営業はランチタイムのみで、恵比寿店と同じように短時間で誰でもお店で働けるよう、店舗運営をマニュアル化しているという。

カレーの調理については、大阪で原さんが仕込んだ定番メニューと週替わりキーマのベースを商品化した「スパイスカレーキット」を活用している。これによりアルバイトスタッフが作っても一定以上のクオリティを保ったカレーを、短時間で作り上げることができるようになった。
またカレーの販売数も、1日30食限定にすることでスタッフが残業しない工夫をしたり、支払いはキャッシュレス決済に統一して清算の手間を省けるようにしたりと効率化を進めている。
野菜の端材や、企業や給食の余剰品も活用し食材ロス削減も推進
原さんはだれもが働きやすい店づくりを進めているだけでなく、食品ロス削減の取り組みにも熱心だ。「Synergy」ではカレーのベースだけでなく、トッピングにもたくさんの野菜を使用しており、多くの端材が発生してしまう。そこで野菜の皮もよく洗いフードプロセッサーで細かくして、料理に使用しているのだ。
「野菜の皮と身の間はフィトケミカル、食物繊維、ビタミンなど栄養がたっぷりと含まれているため、捨ててしまうのはもったいないと考えています」と原さんは話す。ちなみにカレーのロスはゼロ。「チキンやポークは翌日も同じメニューなので問題ありません。週替わりのキーマは多めに作り、辛増しのジョロキアを使ったキーマにアレンジして活用しています」と原さんは工夫を凝らす。

また、企業の余剰品も受け入れ、メニューに取り入れている。「レストラン素材の余剰品である穴子の牛蒡巻きを『あなごぼうキーマCurry』にしたり、商品作成時の端材であるスモークサーモンを使って『スモークサーモンキーマCurry』を作ったり、学校給食の余剰品である鰆西京漬切り身で『鰆キーマCurry』を仕上げたり、さまざまなスタイルの余剰品などを利用して週替わりのキーマCurryにしています」と明かす。このほか資源の節約も考えおしぼり、エプロンなど使い捨てになる物を最小限にしている。
誰もが働きやすい職場環境を生み出し、限られた資源を余すところなく使い、おいしいカレーを生み出す原さん。食べる人だけでなく、働く人も笑顔にする原さんのようなお店が今後さらに増えていくことを願いたい。
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https://www.instagram.com/tabelog/
文:中森りほ、食べログマガジン編集部