〈「食」で社会貢献〉

2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。

今回訪れたのは、2023年12月に東京・四ツ谷にオープンした「うんてん洋菓子店」。表通りからちょっと入った住宅地、という落ち着いたエリアにあり、カフェも併設された気持ちのいい空間だ。

周辺には公園や小学校もあり、駅から近いとは思えない穏やかな環境

「うれしい」がめぐるお菓子

コンセプトは「うれしい」がめぐるお菓子。

「食材を生産する農家さん、食べてくださるお客様、作っている私たちと、関わる人みんながうれしい気持ちになり、さらには、私たちを取り巻く環境にも配慮したお菓子を作りたいと考えています」と、販売を担当する池田麻衣さん。製造担当の運天智絵さんと2人でお店を切り盛りしている。

左から、販売担当の池田さん、製造担当の運天さん。2人とも沖縄出身

本店があるのは、沖縄県豊見城市。もともと那覇のパティスリーで働いていた仲間5人が2021年に立ち上げたお店で、お菓子のおいしさはもとより、コンセプトへの共感もあって評判が広がった。

「農家さんが手間ひまかけて育てたおいしい作物も、流通上の規格に合わないと市場に出せません。でもそれは、サイズが少し小さかったり、ほんの少し傷がついていたりするだけで、味は『規格内』のものとまったく同じです。ちょっと規格に合わないだけで『訳あり』として安く売られたり、時には売ることもできなかったり……。作物を育てるためにかける手間や時間は、規格内も外も同じなのに、それは悲しいこと。そこで私たちは、規格に関係なく買い取らせていただき、お菓子の材料に使いたいと考えたんです」と、池田さん。

生産者との距離の近さは、お店を始めた頃からずっと変わらない。「農家さんの方から『うちではこんなものも作っているから、試しに使ってみて』とご提案いただくこともあります。農園を訪ねて、畑を見たり、農家さんと話をしたりすることも。作物がどんなところでどんなふうに育てられているかを実際に目にすると、大切にしなくては、という気持ちが強まります」

搾りかすも無駄にしない。材料へのこだわり

お菓子の材料は、食べる人のことを考えて安心できるものだけを選び、添加物は使わない。さらに、小麦粉やバターは国産、砂糖は沖縄産のきび砂糖や黒糖と、なるべく身近で手に入るものを選んでいる。特徴的なのが、きび砂糖を作る時に出る搾りかすを細かくした「さとうきびバガス粉末」だ。「めぐるクッキー」や焼き菓子などに使われている。

「さとうきびは搾りかすにも栄養があるのですが、従来は捨てられていました。そこで、これを粉末状にしたものをお菓子に使えないかと考えたんです。無味無臭なので、風味には影響することなく栄養だけがプラスされ、しかも廃棄物を減らすことができる。いいことばかりなんです」

めぐるクッキー(プレーン・黒糖・紅芋)各250円、スッキリおいしいミャンマー産コーヒー 700円

沖縄の食材も積極的に使っている。「紅芋や黒糖、シークヮーサー、マンゴーなどはいかにも沖縄らしい食材。紅芋は生のままだと県外に持ち出せないので、東京へはペーストやパウダーにしたものを運んでいます。意外と思われそうなところでは、キャロットケーキのにんじんも沖縄・津堅島(つけんじま)のものです。津堅島は、県内では“キャロット・アイランド”と呼ばれるほどのにんじんの一大産地で、ここでとれたにんじんは強い甘みが特徴。にんじんそのものの味わいを楽しめるように、原材料はシンプルに仕上げています」

左から時計回りに、さとうきびバガス粉末、黒糖、紅芋パウダー

沖縄の食材は、東京に支店を出した理由の一つだったそう。「沖縄にはたくさんのおいしい農産物があります。県外の人たちにも、私たちのお菓子を通してその味を楽しんでほしいと思ったんです。季節のフルーツは沖縄産に限らず使っていますが、土台にあるのは沖縄のものが多いですね」