最高の料理人とはそこにある素材で至高の一皿を作ること

地元の食材を使った多彩なアミューズ
地元の食材を使った多彩なアミューズ   写真:お店から

本田:オーフがオープンするまでの間、アメリカ「フレンチ・ランドリー」に行っていたんだよね。

糸井:アメリカもすごく良かったです。フランスは、こうあるべきだみたいなことがたくさんあると思いますが、アメリカはすごく自由でした。「マンレサ」という、今もう閉店したレストランがあって、そこでは日本の調味料やメキシカンなスパイスをガストロノミーに落とし込んでいるのが新鮮でした。フレンチでは、本当の意味で焦がすことはあまりないんですが、彼らは焦げをうまみと捉えていて、それがおいしいし、面白い。滞在は長くはありませんでしたが、今の自分にとっていい経験だったと思っています。

本田:伝統的な料理といっても進化しているからね。フレンチだってさ、伝統的といったらボキューズの料理になっちゃうけど、今、それを作っているシェフ、いないじゃん。ボキューズでさえ進化している。ああいうクラシックなフレンチを出すとこも、昔のスタイルじゃない。

糸井:絶対変わってきていると思います。

甘エビ ビーツ 加賀蓮根 薔薇 紫蘇
甘エビ ビーツ 加賀蓮根 薔薇 紫蘇   写真:お店から

本田:クリエーションはどうしているの? よくそんなにアイディア浮かんできて、おいしいもの作れるな、すごいなと思う。組み合わせもそうだし、引き出しが相当ないとできない。

糸井:やっぱり経験と知識。どれだけ食べたり、作ったりしてきたかみたいな。2022年7月にオーフがオープンして、今年の7月で丸2年になります。季節を2周して、ここの風土の香りや味が自分の中でやっと少し見えてきたかなと思います。この食材はこうだからこういう味付けにしようとか、香りはこうしようとかいうのを2年で少しわかってきた。風土を自分の体に落とし込むことがすごく大事だと思います。特に、自分の地元ではない地方で料理を考える上で。そういう意味で「レヴォ(L’evo)」の谷口シェフはすごいなと思います。それを15年ぐらい前からやっているんですよね。谷口シェフの料理を食べたとき、最初は自分の中でいまいち理解できなかったんですよ。3、4回研修させてもらって、食べているうちにどんどんよくなる。こういう理由でこうしているんだなと納得してくるんです。

小松うどん すっぽん
小松うどん すっぽん   写真:お店から

本田:いやすごいよ。いろんな思いがあってやっている。普通の料理人の域を超えちゃっているよね。章太の料理はこういう料理ですと言うとしたら、どういう料理?

糸井:まず僕が意識しているのは、うまいこと。うまくて、クリアなんですけど、力強いみたいな。ワインでいうと細マッチョ。余韻がすごく長いワイン。

本田:ブルゴーニュみたいな感じ?

糸井:そういう料理かなと思います。香りとかそういうものは、ここの土地の食材自身が持っているので、それを損なわずに重ねてあげたいですね。僕が思っているすごい料理人というのは、身近にある山菜や野草とか、近くの農家さんの野菜、たとえそれが一級品でなくても、そういった素材で最高の料理を作れる人。それを表現するために技術があると思っていて、スタッフにもそのことを伝えています。もう一つ、意識していることがあって、今、小松、観音下(かながそ)という町で料理をしていて、ここでしか食べられない料理を作るべきなんですけど、ここでしか料理が作れない料理人になってはいけないということです。どこに行っても最高の料理を作れるように知識と技術を身につけること。それをスタッフにも伝えています。

菊芋 アオリイカ 大麦
菊芋 アオリイカ 大麦   写真:お店から

本田:2年間やってみてどう?

糸井:やっと、オーフらしさみたいな空気感とか、料理やドリンクも含めて、少しずつ形になってきたかなと思います。この2年は土台作りみたいなイメージで、3年目を一つの起点にしたいですね。それが、今、チームとして表現できつつあると思うんですよ。そのことをより多くのお客様に伝えていきたいですね。