世界を視野に入れて、シェフという可能性を広げる

「オーフ」のスタッフ
「オーフ」のスタッフ   写真:お店から

本田:オーフに関して、これからはどんな感じにしていきたいと思っているの?

糸井:もちろん料理とか、提供していくものは常にレベルアップしていきたいですね。それはチームの目標です。オーフをどう成長させていくかは、オーフ自身が評価されないといけないと思っています。日本だけじゃなく、世界中からお客様を呼べることを目標にしています。今の時代、世界は近くなったと思うので、本当にいいものがあれば、ここに来てくれると思っています。チームと話し合いながら、そういう動きを今後はしていきたいですね。

豊かな自然に恵まれたオーベルジュ周辺
豊かな自然に恵まれたオーベルジュ周辺   写真:お店から

本田:デスティネーションレストランが、ここ5年、オーフができる前後ぐらいから一気に認められて、広がってきている。そういう土壌ができてきたのかなって気はしている。俺とか辻さん(辻調グループ代表の辻芳樹氏)や岳(浜田岳文氏)がやっている「デスティネーション レストラン アワード」。2020年ぐらいからやろうという話になったんだけど、その頃の候補ってさ、まだ限られていた。そのときから比べると、今は4、5倍になっているんじゃないかな。新しくできたところもあるし、レベルが上がって認知されるようになってきたところもある。オーフもそうだよね。面白い動きだなと思っている。

糸井:今、外国から大勢の人が日本に来ているじゃないですか。そういう人たちは、東京、京都、大阪、福岡とかに行くんですけど、なんとか、日本のデスティネーションレストランに来てもらいたいですね。知ってもらうきっかけさえあれば、多分、もっと来てくれると思うんです。その一つのコンテンツにオーフもなりたいし、なれる可能性がある。頑張りたいと思っています。

本田:本当、そういう時代になってきているよ。「OAD Top Restaurants(OAD世界のトップレストラン)」にも日本の都会以外の地方のレストランまで完全に入ってきているから、面白い。よくこんなところ、知っているなというところまで入っている。でもね、オーフには海外から来るよ。キーになる人が来れば、その人のインスタ見て、また人が来る。きっかけさえ上手くハマれば。空港から近いというのもメリットだしね。

糸井:今、来られているのはアジアの方ですね。たまにアメリカとヨーロッパからもちょこちょこと。

本田:これからもっと増えると思うけどね。オーベルジュとしてもさ、かなり完成している。なかなかないじゃん、ここまでやっているとこって。あとは、タシ(タシ・ジャムツォ氏)の「ENOWA YUFUIN(エノワ 湯布院)」とか。あれはかなりの熱意、労力、時間、投資をかけてやっている。

糸井:タシ氏は多分、僕と年齢が近いんじゃないですか。僕も行ってみたいなと思っています。

本田:あそこは行く価値があるよ。よかった、すごく。気合が違うというか、本当にいいもの作ろうとして何年もかけている。タシもオープンの3年前ぐらいから呼んでいる。あんなこと、普通はしないからね。

糸井:3、4年前、畑作りから始めているんですよね。

本田:ペイするかどうかという観点で考えていると無理だけど、すごいものを作ろうとしている。レベル感が違うなと。タシの料理、すごくいいと思うし、絶対行った方がいいよ。

糸井:タシ氏や、その世代のシェフたちともうちょっとコミュニケーション取りたいなと思っています。

屋上からの景色
屋上からの景色   写真:お店から

本田:小松にいることのメリットもたくさんあると思うんだけど、デメリットの部分でいうと、なかなか、外の地域の人とコミュニケーションが取りにくい。世界的なシェフたちを見ても、シェフ同士の横の繋がりがある。昔は、海外って、シェフ同士で競争して、ずっと蹴落としあったりしていたけど、今は、共に戦うようになっている。そういう人たちの方がうまくいくんだよね。もちろん、一匹狼で、誰の話も聞かなくて、オリジナリティをとことん突き詰める人とかもたまにいるけどさ。章太はどっちかといったら、一匹狼でゴリゴリやるタイプじゃないよね。シェフ同士の繋がりがあった方が利益にもなるだろうし、新しい何かが生まれるかもしれない。

糸井:それは間違いないですね。今後、そういう機会を増やせていけたらいいなと思っています。今年6月、タイのバンコクでシェフのイベントがあって、行ってきます。

本田:海外の人とは繋がっておいたほうがいい。刺激にもなるだろうし、料理人のあり方とか生き方とかが日本とはまた違う。せっかくバンコクに行くんだったら、トン(トン・ティティッ・タッサナーカチョン氏)に連絡して、会いに行ったらいいんじゃない。トンのレストランは、去年、アジアNo.1になっている。すごく人もいいし、いろんな繋がりあるシェフだから、仲良くなると一気に広がるよ。

糸井:Sorn(ソーン)」にも食べに行こうと思っています。

本田:あとは、トンがやっている「NUSARA(ヌサラー)」や「Le Du (ル・ドゥ)」。

糸井:どちらも去年も今年も「アジアベストレストラン50」に入っていますよね。

写真:お店から

本田:糸井章太という個人で考えると、将来はどういうふうにしていきたい?

糸井:現場が好きなんで、現場に居たいというのはあります。あと、親が教師なので、その影響があるかもしれませんが、教育にも興味があります。レストランの若い料理人たちへの教育とか子供たちの食育とかやってみたいですね。シェフなんですけど、いろんなところに良い影響を与えられる動きをしていきたいです。シェフっていろんな分野に影響を与えられると思うんですよ。シェフの持つ料理などの知識が加われば、もっと良くなる業種とかがたくさんあるんじゃないかな。そういうことに絡んでいきたいですね。

本田:シェフって今までだと自分で店持って、店にずっと立ってというキャリアしか考えられてなかったけど、今はそんなことないからね。いろんな可能性がある。

糸井:料理は、もちろん大事なんですけど、それが全てではないとも思っています。

本田:料理ってコミュニケーションツールでもあるかなと思っていて。料理を媒体にいろんなことが起こる。料理があると、言葉も超えるしね。

糸井:本当にそうだと思います。

本田:まだ今32歳だっけ

糸井:今年、32歳になります。

本田:やれることはたくさんあって、いいね。楽しみだね。

糸井:やれることをやりきりたいですね。楽しんで。

本田:ありがとう、非常に面白かったです。

糸井:ありがとうございます。

取材:本田直之、食べログマガジン
文:小田中雅子