東京屈指の食エリア、人形町にスペイン料理店がオープンしました。伝統的なスペイン料理をベースに数々の人気店で腕を磨いたシェフのセンスとアイデアが光る絶品料理にリピーター続出です。

人形町駅徒歩5分ながら閑静なエリアにオープン!

看板はないので見逃さないように!

人形町駅から徒歩5、6分の場所に本格的スペイン料理がお手頃価格で食べられる店がオープンしました。オーナーシェフの坂田慎吾さんは神楽坂「エルプルポ」「エルブエイ」でシェフを務め、鎌倉「アンチョア」ではオープンから厨房を支えた実力者です。

カウンターは最大14席。立ち飲みスペースも

「どこにも無いような店」にしたいとの思いで空間デザイナーと完成させた店内は、ナチュラルトーンでモダンな雰囲気の中にクラシカルな要素が所々にあしらわれ、落ち着きがあり何だかホッとします。

オーナーシェフ坂田慎吾さん

こちらで振る舞われるのは、典型的なスペインバル料理や洗練されたモダンクラシカルスパニッシュで腕を振るってきた坂田さんの経験が映し出された「アペタイザー」「前菜の盛り合わせ」「冷たい前菜」「温かい前菜」「魚料理」「肉料理」「米料理」「デザート」からなる8,800円のおまかせコースです。季節はもちろんのこと、来店数や好みによって内容をカスタマイズしてくれるとのこと。こういう配慮はうれしいですね。

食材を生かしたシンプルな味付けで心震わす一皿に!

右上から時計回りに「黒バイ貝塩茹で」「亀の手」「ヒルダ」「春子鯛」「生ハムコロッケ」「エンパナーダ」「手羽先揚げ」

そのおまかせコースの中からいくつかご紹介しましょう。「アペタイザー」の後に供されるのがこちらの「ピンチョス」。日本料理の「八寸」のように“おいしいもの”が皿の上を彩ります。揚げた手羽先の中には自家製のチョリソーが入っていたり、ピンチョスの発祥と言われるオリーブとアンチョビと青唐辛子を合わせた「ヒルダ」など、伝統的なものとオリジナルのものを混ぜて楽しませてくれます。

「ピキージョ」

「冷たい前菜」の後には「温かい前菜」。本日は肉詰めピキージョです。ピキージョとは小さめで肉厚の赤ピーマンのこと。スペインでは炭火でローストし、皮を剥いて水煮にしたピキージョに詰め物をしたり、ブイヨンで煮込んで付け合わせにして食べるそう。

中にはトロトロの馬肉が!

坂田さんは故郷である熊本産の馬肉のテールとタンを6時間かけてやわらかくなるまで煮込み、細かくほぐしたものを詰めています。

感動を超える一皿

ソースはテールとタンを煮込んだ出汁と野菜を一緒に煮てコンソメに仕立てています。ピキージョも、詰めた馬肉もやわらかくてとろっとろ、とろみとコクはあるけれどクリアな味わいのソースを絡めて食べた途端、その想像を遥かに超えたおいしさに絶句します。世の中においしいものは溢れているけれど、これだけシンプルな絶品料理に出合えることは本当に稀。スペシャリテと言える逸品です。

食材から出るうまみを食べる!

魚料理と肉料理の後はお待ちかねの「パエリア」。「スペイン料理は食材を煮込んで出たうまみをそのまま使います。パエリアでイメージできると思いますが、米と具材を一緒に煮込むだけでおいしい料理になるんですよね」と話す坂田さん。

「イカ墨のフィデウア」

本日は「イカ墨のフィデウア」です。米の代わりにパスタを入れるいわゆる“パエリアのパスタ版”である「フィデウア」、坂田さんはイタリアのパスタ「カッペリーニ」をバキバキ折って使っています。初めての人にはこちらを提供しますと言うだけあって、米とは違った魅力があります。特にパスタならではのツルッと食感に箸が進みます。

ニンニク、卵黄、オリーブオイルなどで作るアイオリソース

半分くらい食べたところで添えてある自家製アイオリソースをつけてみると、ニンニクの香りと甘みでまろやかさが加ります。これが食欲に拍車をかけ、大きなパエリア鍋が空っぽに。デザートは手作りの「バスクチーズケーキ」。焦げの具合といい、中のとろとろ加減といい、専門店に勝るとも劣らないほどの出来栄え。事前に連絡すればテイクアウト(1ホール4,400円)も可能とのこと。これは数多のバスクチーズケーキマニアも虜にします。

日本人が日本で作るからおいしい!を目指す

「料理が大好きなんです!」

大学を卒業して一般企業で働いていた坂田さんは、学生時代に飲食店でアルバイトした楽しさや充実感が忘れられず、24歳でフランス料理店へ転職しました。その後は系列のイタリア料理店を経て、神楽坂「エルプルポ」でスペイン料理と出合います。元々、居酒屋の雰囲気が好きだったこともあり、めきめき腕を上げ、7年の勤務でシェフを務めるまでに。さらにスペイン料理を追求するために銀座「スリオラ」、神楽坂「エルブエイ」、鎌倉「アンチョア」で研鑽を積み、満を持して「コングスト」のオーナーシェフとなりました。

チャコリや希少ワインも揃います

味付けはできるだけシンプルにして素材の良さを直に感じてもらえるように心がけていると話す坂田さんの料理は和食のように繊細で優しい味わい。「スペインに行った時に感じたのはしょっぱいものはしょっぱくて、酸っぱいものは酸っぱい、すごく大胆な味付けなんです。現地の気候ならそれもいいけれど日本人が日本で食べるなら、“ほんのり”とか“ほのかに”という味がいいなと思いました」と言うように、坂田さんの塩加減と火加減はこれ以上でも以下でもない絶妙な塩梅なのです。食べ疲れることなく、けれど味はきっちり決まっている、そんな非の打ち所のない味わいは、程なく予約困難店にさせることでしょう。

※価格は全て税込。

文:高橋綾子
撮影:溝口智彦