〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、TVチャンピオンラーメン王選手権で2度の優勝歴を誇る小林孝充さんが教えてくれた、芸人からの転身で話題の店主が作る、和牛のおいしさをとことん楽しめる贅沢ラーメンを紹介。

教えてくれた人

小林孝充
TVチャンピオンラーメン王選手権第8回・第10回優勝。歴代ラーメン王によるラーメン大王決定戦で優勝し初代ラーメン大王に。ラーメンの食べ歩きは全都道府県に及び、これまでに食べたラーメンの杯数は14,000杯を超える。ラーメンに限らずうまいもの好きで、他のジャンルも積極的に食べ歩く。ラーメンWalker百麺人。TV・雑誌登場多数。

こだわりの和牛ラーメンをそろえた土日限定の間借り店

昼夜を問わず多くの人で賑わう東京屈指の繁華街・渋谷センター街。ラーメン激戦区でもあるこのエリアで、店主の知名度のみならず、素材にこだわる本格ラーメンで注目を集めているのが「鬼牛」だ。実はこちらは、あごものまねで知られる芸人、HEY!たくちゃんこと藤谷拓廊氏が店主を務めるラーメン店「鬼そば 藤谷」の系列店。しかし常設ではなく、土日限定営業かつ店主がいる日のみの提供となっているため、食べログの口コミはわずか8件、点数は3.05(2023年8月時点)。今はまだ知る人ぞ知る人気店なのだ。

店頭に「鬼牛」の看板は出ていないが、本店の「鬼そば藤谷」の看板があるこの入口から入り、エレベーターで3階へ

店は渋谷スクランブル交差点を渡った先に伸びるメインストリート沿いに立つビルの3階。本店は同ビル5階の塩ラーメンで有名な「鬼そば 藤谷」で、3階の「onisobafujiya 〜PREMIUM〜」では、土日限定で「ロブスターラーメン」などのプレミアムメニューを提供。その店内で「鬼牛」も“間借り”営業しているという、少々特殊なスタイルとなっている。

店内はカウンター8席と、4人がけテーブルが1つ。厨房は店の奥にあるため、席の周りはすっきりした造りとなっている
 

小林さん

「鬼そば 藤谷」が新しいラーメンブランドを始めたと聞いて訪れました。明らかに高級な和牛を贅沢に使ったラーメンに値段設定が安すぎておかしいというのが最初の感想でした。

どん底からの転身だからこそ、人を魅了する味を本気で追求

「『鬼牛』は、三大和牛とされる松阪牛、近江牛、神戸牛のどれかの肉を使って塩ラーメンを作ってみたいという思いで始めました」と話すのは、ものまね芸人・HEY!たくちゃんとしても知られる店主・藤谷拓廊さん。

店主の藤谷拓廊さん。傍らに飾られているのは2連覇を成し遂げた「ニューヨークラーメンコンテスト」のトロフィー。今年も前人未到の「ニューヨークラーメンコンテスト」3年連続3連覇へ挑戦

藤谷さんは、芸人・HEY!たくちゃんとしてあごものまねで人気に。2006年から2010年頃まで活躍したが、徐々にテレビの仕事は減少。先行きに不安を感じていた時に、ものまねをしていた縁で「支那そばや」創業者の故・佐野実さんと交流を持てたことや、年間200杯ものラーメンを食べるラーメンレポーターの仕事でさまざまなラーメンのレシピを知れたこと、ラーメン好きの父親の影響で幼少期から少なからずラーメンの知識があったことなどから、ラーメン作りの道を考えるように。

8時間炊くスープ、自家製のソース作りなど、仕込みから調理まで真剣に取り組む姿は調理人そのもの

「ラーメンイベントで3日間で6,000杯とか販売しているのを見て、6,000人を魅了するってすごいなと。芸人では数千人規模の会場を満席にすることはできなかったけど、ラーメンならできるかもしれないと思ったんです」
そして2010年「東京ラーメンショー」で司会を務めた際に、次は作り手として参加することを決意。そこから本格的にラーメン作りを始め、翌2011年「東京ラーメンショー 新人グランプリ」で新人賞を受賞。2012年に現在の場所に「鬼そば 藤谷」をオープン。
その後も「大つけ麺博2016」ラーメン部門優勝、ニューヨーク最大のラーメン世界大会「ニューヨークラーメンコンテスト2019」優勝、コロナ禍を経た2022年にも優勝し、2連覇を成し遂げるなど、さまざまな功績を残してきた。 
イベント参加でますますラーメン作りに魅了されていったものの、店舗で安定した利益を出し、客を魅了し続けるのは簡単ではない。
「ラーメン屋は芸人と似ていて、新しいネタを作り続けて、何かしら変えていかないと人気は保てません。だから、スープの味も使う食材も常によりおいしく、新しいものを考えています」。そんな中で行き着いたのが和牛を使ったラーメンだった。

 

小林さん

Hey!たくちゃんによる明るい接客で非常にいい雰囲気を作り出しています。さらに勉強を重ねすっかりラーメン職人となった店主に感心することしきりです。

世界が認める和牛のおいしさをラーメンで表現

旨みたっぷりな和牛の脂が溶け出した黄金色のスープ

「渋谷には上質な肉をそろえる焼肉店がたくさんあるんですが、そこで最後に出てくるスープがすごくおいしい。これをラーメンにして出されたら勝てないと危機感があって。だったら自分が先に出しておこうと思ったんです」
さらに牛肉の中でも和牛は今や世界で高く評価されていることに着目。「鬼そば 藤谷」で提供している「鬼塩らぁ麺」の塩ダレをベースに、三大和牛を使用した「鬼牛らぁ麺」を作り上げ、2021年から期間限定メニューとして提供をスタート。2022年に「鬼牛」のオープンとなった。

しかしそこで歩みを止めないのが、藤谷さんの“ハングリー魂”。創業11年目にして「自分のラーメン人生を見つめ直す」との決意で服部栄養専門学校へ入学。そこで学んだ調理技術を生かして「鬼牛らぁ麺」をさらにブラッシュアップさせた。
基本の塩ダレには、力強い塩味が出る佐賀県加唐島の海塩、甘めでまろやかなモンゴルの岩塩、さらにすっきりした2種の天日塩と、厳選した4種の塩を使用。そこに、玉ねぎやニンニクなど、数種の野菜と三大和牛のいずれか、または佐賀牛の切り落としと、非常に硬いため業者によっては捨ててしまうこともある希少部位「鬼筋」(肩ロースにある黄靭帯)を8〜9時間炊いて旨みを出したスープを注ぐ。

仕入れ値が一般的な麺の1.5倍もする高級特製麺を使用

麺は「浅草開化楼」から仕入れている低加水のストレート細麺。同店のラーメンの調理法や塩味に合わせ、小麦粉の種類や配合を調整した特製麺で、国産小麦の風味と舌触りのなめらかさが特徴となっている。

ローストビーフは肉質の良さはもちろん、極薄くスライスしているのもおいしさの秘密

トッピングには、とろけるような肉質と、芳醇な味わいが魅力のくまもと黒毛和牛「和王」のローストビーフを。
このローストビーフこそ、服部栄養専門学校で学んだ知識と技術によってさらにおいしく進化した部分。一度フライパンで焼き、肉の脂を繰り返しかけて染み込ませ、低温すぎない2〜3℃で1日保存することで、しっとりとろけるような食感と脂の旨みを感じる味わいに仕上がっている。

 

小林さん

ここまで和牛を生かしきったラーメンは他にはそうそうないと思います。スープの和牛の出汁の旨みや上にのる牛チャーシューの柔らかさなど楽しんでください。