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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
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岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
伝説のシェフによる香港料理をつまみにしたワインバー

かつて東京・三河島に「艇家大牌トン」という中華料理店があった。「キハタの清蒸」が名物の上品な広東料理を出す名店で、開店時は食べログで高得点を獲得。中華料理部門で全国1位に輝いたほどだったが、2014年に惜しまれつつ閉店した。その店を運営していた五十嵐祐二さん・麻里さん夫妻が2015年に開店したのが赤羽のワインバー「Nomka」。香港料理のエッセンスを加えた一皿をつまみに自然派ワインを楽しむ店だ。

実は元々「艇家大牌トン」も“香港屋台料理”を謳っており、広東料理をアラカルトで楽しみながら、香港で親しまれているワインを飲む店として開店した。しかし後年はコース利用する人が増えたこともあり、閉店を決意。祐二さんが本来やりたかった「好きなものをつまんでワインを楽しめる店」をオープンした。店内は最大で7席のため、1人や2人で気軽に入れるが、本格的な料理をおつまみとしていただけるのだから、ワイン好きにとってはこれ以上うれしいことはない。
おつまみ盛り合わせ×ペティアン

初めて訪れたときに注文したいのが「本日のおつまみ盛り合わせ」。Nomka自慢の一品料理を少しずつ味わえるため、好みのメニューを見つけるのにぴったり。「豚耳とタンの煮こごり」のような八角の香り漂う本格的な一品もあるが、一見どこにでもありそうな料理でも中国のスパイスや発酵調味料が使われていて、複雑でエキゾチックな味わい。例えば、キャロットラペには生姜やみりんが使われていて、ワインを誘う味つけになっている。

おつまみ盛り合わせに合わせたいのは、南アフリカのペティアン(微発泡ワイン)。「まずはスターターとして楽しめる低アルコールのペティアンがおすすめです。こちらのワインは洋梨や柑橘の風味があって、キリッとしたミネラル感もあるので、色々な味にも合わせやすいです」と麻里さん。陽気なラベル同様の味わいがこれから始まる時間を盛り上げてくれる。
れんこんの腐乳ソースあえ×素朴な赤ワイン

Nomkaの一品料理のおつまみは、中国の珍しい食材を使ったものもあって、おもしろい。腐乳は豆腐を塩水につけてから発酵させたもので、東洋のチーズと呼ばれている。「しょっぱい味がするので、香港ではお粥につけて食べます」と祐二さん。Nomkaでは、れんこんに腐乳ソースをかけてサイコロ状のローストビーフをアクセントに添えてある。腐乳のクセのある塩気がれんこんの食感と合わさって楽しい一品だ。

「れんこんの腐乳ソースあえ」におすすめのワインは、オーストラリアのピノ・ノワールとガメイを使った赤ワイン。「ダークチェリーやプラムにガメイらしい土の香りが混ざっているので、根菜のれんこんに合わせました」と麻里さん。こちらの赤ワインと合わせると、サラサラした腐乳ソースに不思議と厚みのあるミルキーさが加わって、お互いを引き立て合うおいしさに変化していた。
マカオ風ドリア×オレンジワイン

Nomkaは〆でも香港周辺のメニューが楽しめる。「マカオ風ドリア」はポルトガル領だったマカオの人が考えた洋食メニューで、香港でもよく食べられているそう。カレースパイスとココナッツミルクで作られたポルトガルソースが味の決め手。Nomkaでは〆メニューとしてジャスミンライスにチーズをかけてこんがりとオーブンで焼かれている。一見するとカレードリアだが、カレースパイスはターメリックが中心なので辛さはマイルド。ココナッツミルクの甘い風味が異国情緒を感じさせてくれる。

マカオ風ドリアには同じような色合いのオレンジワインがよく合うと言う。「ほどよいスパイス感と柑橘のニュアンスがカレー風味のスパイスとよく合います。ポルトガルソースがしっかりした味なので、ワインのやさしいタンニンが後味をすっきりさせてくれるのもいいですね」と麻里さん。
麻里さんの「私が恋した自然派ワイン」

麻里さんが恋したワインは、自然派ワインの新しい味わい方を教えてくれた一本。
「5、6年前に出会いました。それまできれいなタイプの自然派ワインしか飲んでいなかったのですが、こちらはSO2無添加の自然派ワインらしいタイプです。ラズベリーやイチゴの赤い果実の味わいがチャーミングなんですが、滋味深く、余韻がじんわりとくる赤ワインでした。ワインは好きですが、あまり量を飲めない私でもするすると入ってきて1本飲みきれるほど。体にじんわりくるタイプの自然派ワインを好きになったきっかけを作ってくれました。ぜひその感覚を体験してみてほしいです」
さまざまなタイプの自然派ワインをラインアップ

Nomkaではグラスワインを飲む人が少ないため、ボトルワインを中心にワインが用意されている。ワインは自然派以外を求める人もいるため、3割は通常のワインも置いてある。それ以外の7割は自然派ワインで、クリーンなタイプから通好みのタイプまでラインアップ。フランスワインが多いが、スペインやドイツ、南アフリカなどのコストパフォーマンスがいいワインもあり、どんな人でも好みのワインが見つかる。グラス3種類(800〜1,000円)、ボトル50〜60種類(4,300〜16,000円)。
自然派ワインとともに香港の雰囲気にひたれる

Nomkaは小さなワインバーではあるが、祐二さんの料理はおつまみの域を超えた本格的な味つけが楽しめる。そのため、東京にいながら、香港の雰囲気を自然派ワインのゆるりとした味で満喫できる時間になる。香港の味を自然派ワインで気軽に堪能できる店は現地でもなかなか見つからない。ぜひ東京でそんな貴重な体験をしてみよう。
※価格はすべて税込
※利用は3人まで
※ワインを飲まない人、20歳未満の人はご利用できません