食通が見いだした、今月の新店
新しいお店がどんどん出店し、ますますの盛り上がりを見せる飲食業界。「気になる店が多すぎてどこの店に行ったらいいかわからない!」という人も多いのではないでしょうか。
そこで、グルメ情報に精通している方々に、最近訪れた新店に関するアンケートを実施。特に注目している「今月の新店」について教えていただきました。
今回は、フードパブリシストの高橋綾子さんにお答えいただきます。
教えてくれる人

高橋 綾子
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
今月のベストワン
Q. 直近で行った新店の中で、特におすすめしたいお店を教えてください
A. 「鮨 和久」です

最近、海外で活躍されて凱旋する寿司職人が増えたように感じます。半蔵門にオープンした「鮨 和久」の店主、吉田道和さんもその一人。「築地寿司清」でみっちり基礎を学び、和食を経験してからシアトル、ニューヨーク、香港の寿司店で10年間にわたり腕を磨き、独立するために帰国。海外経験を活かし、地元である福島の名産を江戸前寿司に昇華させた新しいスタイルに早くも賑わいを見せています。

おまかせコースはお腹を温めてくれるスープから始まるつまみが5品、握りが9貫、あら出汁にデザートが付いて22,000円です。春らしい「塩桜のスープ」は削りを厚くした鰹節に大量の昆布を使ったかなり濃い出汁でインパクト十分。初めにガッツリ胃袋を掴まれます。出汁ではなくスープ、“海外経験豊富な吉田さんの江戸前寿司”をイメージさせるにはもってこいの一品です。

お造りは2種類。塩締めして昆布で熟成させた石鯛にはネギと生姜をすりおろした青薬をのせたものと、菜の花、紫蘇、キュウリ、ガリ、胡麻を醤油漬けしたメジマグロで包んだ巻物です。宮崎県産の生胡椒がアクセント。こういう江戸前の技術も素晴らしい!

北海道産のあん肝を赤酒に漬け込んでから炊いて奈良漬けを忍ばせたあん肝のパテはミニチュアの蛸壺に入れています。「漬け込む」というのも吉田さんの味のキーワード。これはお酒が進んで困ります。

「理想は57℃の少し温かいくらいで1貫目をお出しします」と、握りはシャリ切りしてから約15分後に始まります。「金目鯛」は緩めに握って出汁醤油を一刷毛。ほんわかしたシャリがスッとほどけて金目鯛と一体となって喉を通ります。

スミイカは糸作りで提供。昆布に漬け込んだ白醤油がねっとりとなまめかしいスミイカにピッタリ!

桜でスモークした鰆には3週間熟成させた玉葱醤油を。スミイカには白醤油、中トロには昆布醤油など、寿司種によって煮切りを変えるとは驚きです。

網板で挟んだ炭を上から当てて炙った「大トロ」は脂がじんわりと溶けてトゥルントゥルンの舌触り。

「帰国する時に先輩から“地元を愛せ”という言葉をいただきました。故郷の味が自分の味という意味なのですが、実際に訪れたら食材も器もスッと自然に馴染む感覚があったので、酢や醤油、盛り板に茶器など、出身の福島県産のものをできるだけ使っています」と話します。

吉田さんは一体感に対するこだわりがものすごい! シャリは酒粕から作った赤酢と白酢を使い分け、もちろん大きさや硬さも寿司種によって変えてほどけ方を徹底しています。その酢は酸を飛ばすために温めてから昆布を入れています。ガリも初めは白シャリに合わせて白酢のガリ、中盤には赤シャリに合わせて赤酢のガリを出すほど。つまみも握りも口にすると、そういう吉田さんの意図を感じられるのです。吉田さんならではの味、ハマります!