〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

いまの池尻を感じるクリエイティブな空間

内観

池尻はクリエイティブでファッショナブルな人たちの遊び場として、渋谷や中目黒とも違うローカルさで注目されている。池尻から中目黒に向かう中間地点の“中目尻”は、そんな雰囲気が最も感じられるエリア。その中心地の一つとなっているのが2023年夏にリノベーションされた、築50年の大橋会館。1階で朝から夜まで営業するカフェ&レストラン『Massif(マッシーフ)』は、気さくに人が集まる場となっている。

左からソムリエの保谷翔太さん、シェフのタン・ジャクソンさん

マッシーフのディレクターを務めるマックス・ハウゼガさんは「池尻に縁のある人たちがこの街の雰囲気に合った、コンテンポラリーだけどカジュアルな店を作ろうとオープンしました」と話す。実際、建築は池尻にオフィスを構える元木大輔さんとマックスさんの共作。そして、シェフには「INUA」での研修経験のあるタン・ジャクソンさん、ソムリエには保谷翔太さんが迎えられた。

ワインセラーはショップにもなっている

マッシーフにはさまざまなルーツを持つ料理人が集まっており、シェフのタン・ジャクソンさんはマレーシア出身。そのため、アジアンテイストのイノベーティブな食事が楽しめる。それに合わせているのは、自然派ワイン。レストランフロアのテーブルの隣にワインセラーが設けられ、1,000本ものワインが眠っている。直接入ってワインを選ぶことが可能で、ショップにもなっている。ハーブやスパイスをふんだんに使った一皿に合わせて、セラーからワインを選んでもらおう。

マッシーフ風ウフマヨ✕甘い香りの白ワイン

ティーエッグ・フムス・梅・実山椒(1,600円)

アラカルトで楽しめる前菜のおすすめは「ティーエッグ・フムス・梅・実山椒」。アジア料理にインスピレーションを得たウフマヨで、台湾風の味付け卵とフムスにマリネしたたまねぎを添えた一品。フムスのふんわりクリーミーさをマヨネーズに見立てている。

アジアにインスピレーションを受けたウフマヨ

ドレッシングには実山椒と梅、しそ、ピンクペッパーを使い、さっぱりした味付け。梅酒なども入っているため、甘酸っぱさのあるマッシーフ風の“ウフマヨ”となっていた。

ジェラール・シュレール ゲヴュルツトラミネール2022(グラス1,500円、ボトル9,500円)

こちらの前菜に合わせたいのは、フランス・アルザス地方のジェラール・シュレールという生産者のゲヴュルツトラミネール。「こちらはライチなどの東洋の香りが特徴のワインです。フムスのうまみやアジアスパイスとの相性がいいですね。特に2022年のヴィンテージは残糖感があるので、よりフムスと合います」と保谷さん。ワインにミネラル感があるため、きちんと引き締めてくれる感覚もあった。

魚介のタマリンドポン酢✕ミネラル白ワイン

白子 グアンチャーレ タマリンド ポン酢(2,200円)

冬においしい白子を使った一皿もマッシーフ風に。こちらは白子を紹興酒で蒸して、タマリンドを使ったポン酢でいただく。通常の白子ポン酢よりも甘酸っぱさがあり、さらに冷たく提供するのではなくやや温度を上げて提供されているため、風味が増した仕上がりになっている。魚介は時期によって変更される。

アレクサンドル・バン ピエール・プレシューズ2018(グラス1,600円、ボトル10,000円)

白子の一皿に合わせたい保谷さんのおすすめは、フランス・ロワール地方のアレクサンドル・バンのソーヴィニヨン・ブラン。「彼のワインは蜜のような甘みときれいな酸、しっかりしたミネラル感があります。今回は白子の香りを活かすために。樽発酵ではなくステンレス発酵のタイプを選んで、ブドウのピュアなうまみと合わせました」と保谷さん。白子同様に温度も少し上げてあったため、ワインの持つ蜜の要素も感じることができた。

ハラミステーキ✕ハーブ香る赤ワイン

ハラミステーキ ナスの発酵ペースト 葉っぱ(4,500円)

メインのハラミステーキにはナスの発酵ペーストなどのソースとたくさんの種類の葉っぱが添えてある。ナスの発酵ペーストには魚醤やレモングラスも入っており、トムヤムクンのような味でステーキを食べる一皿。ナイフとフォークではなく、葉っぱで巻いて食べるので、カジュアルに楽しめるようになっている。

ルドヴィック・ボネル ル・ペッシュ・アビュゼ 2017(グラス1,400円、ボトル9,000円)

ハラミステーキにおすすめなのは、フランス南西地方のボルドースタイルの赤ワイン。「肉のボリューム感だけでなく、葉っぱやハーブの爽やかさも味わえる一皿なので、ボルドースタイルでもメルロ主体のまろやかな赤ワインを選びました。こちらのワインにはリコリスや甘草のようなほのかな甘味とビターなニュアンスがあって非常に相性がいいですね」と保谷さんが解説してくれた。

保谷さんの「私が恋した自然派ワイン」

ククー リースリング2022(グラス1,400円、ボトル9,000円)

保谷さんが恋したワインは偶然の巡り合わせがあった一本。

「こちらは2年くらい前からの新しい銘柄なんですが、発売した年は即完売したほど人気があって注目していました。去年、当店でペアリングイベントをやることになって、そこでフィーチャーしたのがこちらのククーでした。このラベルもマックスの友達が描いていることを知って、なにかと縁を感じるワインです。

こちらのリースリングはペトロール香やミネラル感がしっかりあって、りんごの蜜のような凝縮感もあります。単体でも楽しめますし、キッシュロレーヌのような料理とも合います。ラベルもかわいいので、ぜひご注文ください」

ハーブやスパイスに合うワインをラインアップ

マッシーフではフランスやイタリアを中心にした自然派ワインがずらり1,000本ある。レストランではハーブやスパイスを使った料理が出されるので、それに合うワインが豊富に揃っている。ハーブやスパイスというと選択肢としてオレンジワインが思い浮かぶが、白ワインや赤ワインでもマッチするワインがたくさん用意されているのが特徴。グラスワイン(15種類以上)1,000円〜2,400円、ボトルワイン(200種類)5,500円〜10万円前後で提供されるほか、小売もあるので帰りに買って帰ることもできる。

いまの池尻の空気感をもっとも感じられる場所

さまざまなルーツを持つ料理人たちが立つキッチン
外観

マッシーフでは、アジアのスパイスやハーブを使ったクリエイティブな一皿と自然派ワインが楽しめた。なるほど池尻や中目黒を散策しながら楽しむ人の感性を刺激しながらも、居心地よく過ごせる空気感がよくわかる場所だ。この池尻ならではの渋谷にはないローカル感をぜひ味わってみてほしい。

※価格はすべて税込み

取材・文:岡本のぞみ
撮影:山田大輔