【噂の新店】黎明

日の出と共に鳴くにわとりは、古来、太陽を招く神聖な鳥として敬われてきた。そんな太陽鳥にちなみ、店名を「黎明」と名づけたのは、ご主人の藤本洋平さん。曰く「何か夜明けにちなんだ店名にと思った時に、この言葉が思い浮かびました。“黎明”という言葉には、夜明けの意味と共に新しい始まりの意味もあり、心機一転、これまでとは違う形で焼鳥店を始める今の自分の心境にぴったりだなと思ったんです」

焼鳥はほぼ独学という藤本さんは北海道出身。室蘭の焼鳥店「やきとりの一平」で8年間働いた後、30歳の時に上京。西麻布の和食店や押上の焼鳥店で研鑽を積み、2020年、森下で念願の独立を果たす。元はハンバーガーやステーキを出すアメリカンダイナーだった店舗を居抜きで引き継ぎ、焼鳥「BLESS」をオープンしたのだ。「洋風の内装のうえ、30席もある大箱だったので、途中からイタリアンの要素を加味し、“トリとワインの店”に路線変更しました」と藤本さん。焼鳥とイタリアンがコンセプトだった「BLESS」に対し、「黎明」のテーマは“和食と焼鳥“。席数もカウンター10席のみとグッとコンパクトに。こぢんまりとした店内は、それだけに臨場感もひとしおだ。

19時一斉スタートの席に着くと、スターターはなんと鶏の握り。タルタル状に叩いた鶏は、一見するとあの「すし匠」の“おはぎ”のよう。使っているのは鹿児島のきさ輝地鶏で、そのナカオチや旨みの強いスネの部位を活用。藤本さんによれば「きさ輝地鶏は衛生面に気を遣って処理をしているので、生食でも大丈夫」なのだそうだ。ちなみに、きさ輝地鶏は、鹿児島県霧島で飼育されているブランド地鶏。

藤本さんは、このきさ輝地鶏を、コースの中でご覧の握りや叩きの生食するメニューに用いている。一方、焼きの方は岩手県の純和鷄。その名の通り100%国産血統の鶏で、適度な弾力とコクのある旨みを持つブランド鶏だ。藤本さんはこの2種を巧みに使いわけ、それぞれの持ち味を引き出している。

1本目の串は“かしわ”こと腿肉。紀州備長炭で丁寧に焼かれたそれは、パリッと軽快な歯触りとジューシーな肉質とのコントラストが魅力。口中が鶏肉の旨みに溢れたところで、旬の“ホタルイカのぬた”が出て小休止。

続いて、ほろりと軟らかな“つくね”、ムチムチの歯応えの“せせり”、希少部位の“食道“と続き、鴨の白味噌椀で口直し。コンセプト通りのコース運びに藤本さんの思いが伝わってくる。切れ目を入れた“砂肝”はより小気味よい食感で食欲を促進。続く“ハツ”はシコッとした中に弾力のある柔らかさが絶妙だ。
この後、“きさ輝地鶏の叩き”、“葛素麺”、ねぎを挟んだ“手羽先”が出た後、串のオーラスは“レバー”。ちなみに、内臓類も全て純和鶏だそうで、すっきりと雑味のない味わいが特徴とか。なるほど、レバーも特有の濃厚さを持ちながら後味のキレが良く、控えめな甘さのタレとの相性も上々だ。「火はきちんと入っていながらも、生のような食感を目指しています」と語る藤本さんの言葉通り、とろりと蕩ける舌触りが命。火が入っているのかいないのか、そのギリギリを狙った藤本さん肝入りの一本だ。

レバーの余韻を“蛤と蕪、若布の小吸い物”でリセットし、次は、鴨肉の出番。こちらは炭の直火ではなく、希少な玉鋼鉄板を使用。玉鋼とは、日本古来のたたら製鉄により作られている世界で最も純粋と言われている鉄なのだとか。熱を均一に保ち、保持力に優れているため、鴨をふっくら焼くには最適なのだそう。鴨でお腹が満たされたところで、シメの登場となる。

シメは3種類。土鍋で炊き立てのご飯を海苔で巻いたおむすび、卵黄をのせたそぼろ丼、そしてごまだれでいただく鯛茶風のお茶漬けで、好きなものをセレクトできる。もちろん、全部という要望にも快く応えてくれる。お米は、新潟の頂米。新潟でも2%しか作られていない、原種に近いコシヒカリで、強い旨みと香りが特徴だ。少しずつ全部、というパターンが多いそうだが、一番人気は“そぼろ丼”。やや濃いめの味付けが卵黄のコクを伴って、白飯との最強な組み合わせを楽しませてくれる。
このフルコースで13,000円。半合6種類の“日本酒おまかせ”もあり、食べて飲んでも2万弱。高騰を続ける焼鳥界にあって、比較的足を運びやすい価格帯といえるのでは?



