〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

自然派ワイン通の店主によるL字カウンターのワインバー

内観。カウンターのほか4人が座れるテーブル席もある

かつて東京・御徒町にパスタチェーン店でありながら、自然派ワインを数多く取り揃えた伝説の店舗がある。当時は自然派ワインの人気が出始めた頃。そこから自然派ワイン好きになった人もたくさんいた。その「ポポラマーマ御徒町店」でマネージャーを務め、ワインをセレクトしていたのが黒崎亮輔さん。店舗は2023年に惜しまれつつ閉店したが、黒崎さんが独立して2025年にオープンしたのが「il Nero(イルネーロ)」だ。

店主の黒崎亮輔さん

もちろんイルネーロでは自然派ワインが店の中心にあり、パスタやワインに合う魚料理、肉料理が提供されている。黒崎さんは自然派ワインのやわらかでピュアな味わいを気に入り、イルネーロでもイタリアワインと日本ワインを多く取り扱っている。独立の準備期間にはフレンチ料理店で働いたり、手打ちパスタを覚えたり、料理の腕を磨いた。

店内の陳列ボトルは入手困難な北海道のワインがずらり

そしてワインは黒崎さんが注目する北海道の産地をぐるりと巡ってきたという。余市や岩見沢はもちろん函館や蘭越にも足を運んで、ドゥエ・プンティなど新しい生産者のもとも訪ねた。そのため、入手困難な北海道のワインもグラスで楽しめる頻度が高いのが魅力的だ。

サワラの炙り✕爽やかミネラリー白ワイン

サワラの炙り 根セロリのピュレ 季節の野菜のサラダ仕立て(2人前 2,200円)お一人様はハーサイズでの対応も可能。*写真は1人前

イルネーロでは産地から直送された鮮魚を使って、魚料理の前菜が出されることも多い。「サワラの炙り 根セロリのピュレ 季節の野菜のサラダ仕立て」は、高知から直送されたサワラを皮だけ炙ってレアなままで皿に盛り、根セロリを使ったまろやかなソースで野菜と一緒に提供。セロリのような爽やかな風味がねっとりしたサワラの身とともに味わえる。

ドメーヌ・カトリーヌ・エ・クロード・マレシャル ブルゴーニュ・アリゴテ2022(グラス1,300円、ボトル8,000円)

サワラの炙りに合わせたいのは、ブルゴーニュのアリゴテ。アリゴテはグレープフルーツのような酸味が特徴の白ワインだが気候変動もあり「味わいが変化している」と黒崎さん。「一昔前より果実味がふくよかになっていますが、みずみずしい透明感はあって、石灰岩由来のミネラルもあるので魚と合います」。魚介料理といえばブルゴーニュではシャルドネのイメージだったが、アリゴテも果実味とミネラルのバランスが良く、ほんのりハーブのニュアンスも感じるのが好印象だった。

トルッテリーニ✕硬派なオレンジワイン

トルッテリーニ イン ブロード(2人前 2,400円)お一人様はハーサイズでの対応も可能。*写真は1人前

前職がパスタ専門店のマネージャーだったこともあり、パスタのメニューは豊富。季節によってはお店で仕込む手打ちパスタもメニューに上がる。この日はイタリアのエミリア・ロマーニャ州の手打ちショートパスタを澄んだスープで味わう「トルッテリーニ・イン・ブロード」がオンメニュー。ブロードとは牛肉や野菜などでとった出汁のこと。イルネーロでは国産牛すね肉も使われているため、コクや甘みがしっかり出ていた。

ダリオ プリンチッチ ヤク2020(グラス1,700円、ボトル11,000円)

「トルッテリーニ・イン・ブロード」におすすめはイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の人気生産者のオレンジワイン。「スープと一緒に食べるパスタなので、出汁と相性のいいオレンジワインを合わせました。香りが華やかでタンニンや酸味もしっかりあるワインなので、ワインの重さで落ち着かせた組み合わせです」と黒崎さん。シンプルなパスタとやさしい味のスープをワインが引き締めてくれるような見事なアッビナメントだった。

牛ロースト✕ピュアで濃密な赤ワイン

豊後・米仕上牛のシンシンのロースト(2人前 3,800円)お一人様はハーサイズでの対応も可能。*写真は1人前

イルネーロでは牛肉も信頼する産地のものが使用されている。イチオシなのが大分県の豊後・米仕上牛を使ったメニュー。豊後・米仕上牛は大分県産の米で育った牛で、ほどよいさしの入った赤身で旨味とやわらかさがある肉質が特徴となっている。

「シンシンは脂身が少なめでやわらかく赤身肉のうまみが楽しめる部位なので、それをシンプルに活かせるようにローストして、ルッコラなどの生野菜を添えてバルサミコ酢で食べていただけるようにしています」と黒崎さん。赤身がきれいなロゼ色でしっとりと仕上げられていた。

ラルコ ラルコ ロッソ2022(グラス1,300円、ボトル8,000円)

豊後・米仕上牛におすすめなのは、イタリアの赤ワイン。「ラルコという生産者のワインです。自然派のアマローネの生産者として知られていますが、カジュアルなレンジのワインでもおいしい。特に牛肉にはピュアで濃密な果実味があって、誰にでも喜ばれるワインです」と黒崎さん。赤ワインのタンニンやハイアルコール感が苦手な人でも飲みやすく、赤身の牛肉のうまみにも負けないバランスが秀逸だった。

黒崎さんの「私が恋した自然派ワイン」

イレンカヴィンヤード ピノノワール2023(ボトル14,300円)

黒崎さんの恋したワインは、北海道のワインを追いかけるきっかけになったイレンカヴィンヤードのピノ・ノワール。

「北海道で2012年からスタートした、ピノ・ノワールでワイン造りをされている生産者です。初めて出会ったのは2016ヴィンテージのワインでした。当時はいろいろな条件が重なってロゼワインでのリリースでしたが、色からは考えられないくらい華やかで色気のある香りで、とても感動したワインです。それからイレンカのワインを追いかけはじめて、秋には収穫のお手伝いをさせていただくようになりました。

イレンカのピノ・ノワールは味わいがやわらく繊細でピュア、冷涼な北海道らしい酸もあるので、食事に合わせやすいのが魅力。収穫も手伝っているので、自分が収穫した一部がワインになっているのもいいですね」

イタリアや日本のワインを中心にラインアップ

イルネーロではイタリアの自然派ワインや日本ワインを中心にラインアップ。ピュアな果実味を活かしたワインが多く、日本ワインは8割が黒崎さんが推す北海道のワイン。そのほかフランスやオーストラリアなどのワインも用意されている。グラスワインは常時8〜10種類(1,200〜2,000円)が日替わりで用意されている。カウンターの後ろにワインセラーがあり、ボトルワインはそこから自分で選ぶこともできる。約100種類のボトルワイン(6,000〜20,000円)から好みのものを探してみよう。

落ち着いた街にあるゆったりできるカウンター

イルネーロは湯島駅のほか本郷三丁目駅からもアクセス可能

イルネーロは黒崎さんがパスターチェーン店で培ってきた自然派ワインへの思いをかたちにしたようなワインバーだった。ピュアな果実味のイタリアや北海道のワインセレクトも、直送の食材を中心にした一皿も、自然派ワイン好きがうれしくなるようなものばかり。

外観

店は湯島駅からも本郷三丁目駅からも歩いて行けるエリアにあり、落ち着いた年代の客層が中心。店主と言葉を交わしながら、ゆったりとワインを楽しみたいときに思い出したい一軒といえる。

※価格は税込

文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔