【噂の新店】「焼鳥空」
名古屋の知る人ぞ知る焼き鳥の名店だった「焼鳥 空-SORA-」。名古屋コーチンをダイナミックに焼き上げるその旨さで着々と評判を上げていた人気店が、東京に進出。2026年1月15日、東京・広尾にてリニューアルオープンした。

「焼鳥の名店が群雄割拠する東京で、自分の焼鳥がどう評価されるのか試してみたいと思ったんです」。そう語るのは、店主の須崎淳吏さん(39歳)だ。須崎さんが焼鳥の世界に入ったのは24歳の時。最初に勤めたのはチェーン展開している大衆店だった。何気なくやり始めた焼鳥屋だったものの、次第に、焼鳥はひょっとして自分に向いているのでは?と思うようになっていることに気づいたのだとか。それまでは、さまざまな職を転々としていた須崎さん。どれも長続きしなかったが、焼鳥だけは不思議と続けられた。「師匠が串を焼いている様子も格好よかったですしね」と須崎さん。

ここで数年間修業した後、2017年、念願通り30歳で独立を果たす。名古屋市北区の志賀本通に構えた最初の店は、住宅街に隣接という場所柄、修業先と同じく焼鳥の他にも居酒屋的なつまみを置く庶民的な焼鳥店。ファミリーでも来られるようなお店だったそうだ。が、徐々に進化していくことになる。当初は修行店と同じくブロイラーを使っていた須崎さんだったが、店を始めて2年目頃、鶏をブランド鶏に変えてみたところ「お客様の反応がとっても良くて。それで手応えを感じたというか、やりがいを感じたんです」。
ここから須崎さんの大躍進が始まる。まずは食材の勉強から始め、よりおいしい鶏をと探し求めた結果、行き着いたのが名古屋コーチン。須崎さん曰く「最初に口にした時の香りが素晴らしくて。これまで食べていた鶏とは雲泥の差でした。そして歯応え。弾力があり、ジューシーで、もうこの鶏しかない、って思いでしたね」。

心を奪われたこの鶏のおいしさを、どうすればダイレクトに客に伝えられるか日々試行錯誤。カットの仕方や火入れに工夫を重ねたという。気がつけば、今池に移転した2021年頃には、既に名店の仲間入りを果たしていた。そんな噂を耳にして、訪れたのが末富信さん。ご存じ「鈴田式」や薪焼き鳥「薪鳥新神戸」の仕掛け人だ。
末富さん曰く「焼鳥に愛情のある大将だな、っていうのが第一印象でした」。肉からいっときも目を離さず、肉の声を聞きながら焼く姿に「この人が焼く焼鳥なら旨いに違いない」と確信したという。その直感通り「空」の焼鳥に心を掴まれた末富さん。それからはしばしば名古屋まで足を運んでいたそうだ。そして、ある日、須崎さんから東京進出への思いを告げられる。もとより須崎さんの焼鳥に惚れ込んでいた末富さん、それならばと、一肌脱いで東京へ打って出る須崎さんのサポートを買って出ることとなった由。

2025年6月、名古屋今池の店を閉め上京。すぐにオープンかと思いきや、そこは新店オープンに慎重な末富さんのこと、東京のフーディーたちに通用する焼鳥店にすべく微調整を試みることに。「名古屋のスタイルをそのまま東京に持ってきても、それがそのまま通用するかといえば、(東京の焼鳥シーンは)それほど甘くない。しっかりスタイルを作り込んでいかないと」と末富さん。そこで、試行錯誤を重ねること半年余り、年が明けた2026年1月15日、ようやくスタートした。
おまかせのコース(20,000円)は、焼鳥8本を含む全15品。扱う鶏は、須崎さんが惚れ込んだ名古屋コーチン一本。これは今池時代と変わらない。コースの口切りに登場したのはアツアツのスープ。白湯ベースの卵スープだ。名古屋コーチンのガラ・もみじだけで取ったスープはコラーゲンたっぷり。だからだろうか、心なしかとろみを感じさせる。これで胃袋をウォーミングアップさせたところで、いよいよ怒涛の焼鳥コースの始まりだ。

1本目はもも肉。こんがり狐色に焼き上げられたもも肉は、カットが実に大胆! 一串が大ぶりなのだ。これは?と思ってカウンターの奥に設えた炭台で串と向き合う須崎さんの手元を見て納得。やはり塊のまま焼いていたのだ。須崎さんによれば「もも肉は、上ももと下ももの2つにカットして焼いています」とのこと。塊で焼く肉の旨さをフレンチの肉焼きから学んだそうで、もも肉に限らず、どの串も頬張るほどのサイズ感が印象的だ。末富さんも笑いながらこう語る。「名古屋時代から串に刺す鶏肉がとにかくでかい。これを一口で食べてって(須崎さんは)言うんですよ」。それも、焼鳥にした名古屋コーチンの持ち味を存分に味わってほしいとの思いゆえだろう。

さすがに一口ではハードルが高いが、それでも目一杯被りつけば、パリッと焼けた皮の香ばしさと口中に迸る脂に心を奪われ、グイッと歯を押し返すような弾力感に頬が緩む。透明感とキレのある脂は名古屋コーチンなればこそ。地鶏の良さを最大限に引き出したアクティブな焼鳥だ。

「名古屋コーチンは通常でも飼育日数120~150日と、生後50日前後で出荷するブロイラーに比べ遥かに長いのですが、うちで使っている名古屋コーチンは、それを更に上回る160~180日の長期飼育。だから、肉自体の旨みが濃いんです」と須崎さん。

更に「空」では雌しか扱っていないそうで、その理由は、雄に比べて身が柔らかく、適度な弾力もあるから。その上、皮が厚く皮下脂肪がのりやすいため、その脂に甘みがあるのだ。この皮が「空」の焼鳥の美味なるポイントの一つ。傷つけぬよう一度剥がした皮を、むね肉にはむね皮、せせりには首皮と改めて丁寧に巻きつけて、皮の厚みを均等にして巻くことで、焼きムラのない美しい狐色に焼きあげられるわけだ。もちろん、須崎さんの焼きに対するこまめな対応は言うまでもない。

もも肉に続いて、そのジューシーさに思わず目を見張る丸ハツが出た後、今度はふくらはぎ。下腿の部分だ。こちらも先のもも肉同様、ちょっとした塊状態。歯をぐいっと押し返すような力強い食感に、パリパリ感の一際強い皮が口内で絶妙に呼応する。脂感共々、先のもも肉より更にダイナミックだ。

怒涛の3串が出たところで一休止。帆立と切り干し大根をぺースト状にした皿が供される。この辺りの匙加減は末富さんテイスト。最後まで舌が疲れぬように配慮しつつ、通常のものとは一味違う一品を提供。舌は休ませつつも、高まる高揚感を持続させる技はさすが。自らも食べ歩きを欠かさぬがゆえの裁量だろう。

舌をリセットしたところで、今度はむね肉。しっとりときめ細やかな身質ながら繊維質が緻密。みっしりとした食感の中、噛み締めるほどに滋味深い味わいが味蕾に染み渡る。優しくも逞しい一串だ。

鶏真薯のお椀で舌を潤した後、続いて現れたのはせせり。首の肉で、首皮でぐるりと巻きこむように仕立ててある。皮の中でも脂が強く濃厚な味わいの首皮ゆえ、自らの脂で炙られたクリスピー感はダントツ。そこにせせりならではのシコシコとした歯応えが絡み合い、旨みが爆裂するような衝撃が口中に走る。そこに、濃密なレバーがその旨みを畳み込むように登場し、テンションは最高潮に。箸休めを挟んだ後、ふりそで(肩肉)、つくねが出て、コースの串は終了となる。

〆は、名古屋時代でも評判だった親子丼。名古屋コーチンのガラなどでとった濃厚な鶏スープをベースに、炭火で焼いたもも肉とむね肉を8対2の割合で入れ、卵でやわやわに閉じた後、更に卵黄1個を落とした贅沢な一品だ。これだけでも充分満足だが、加えてもう一つサプライズな逸品が……。なんと炊き立ての土鍋ご飯が目の前に運ばれてきたのだ!
蓋を開けるや、香ばしい香りが辺り一面に立ちこめる。「皮を炭火で炙り、季節の野菜と一緒に炊き立ての白飯と合わせてみました」と須崎さん。

取材日の野菜は旬の菜花。ご飯とかき混ぜる度、薫香が鼻先をくすぐり、満腹のはずの胃袋に隙間を作る。お米は秋田の「サキホコレ」。粒立ちがよくふっくらした白飯に、塩梅よく脂の抜けた皮の旨みとカリカリ感がよくマッチ。皮にこだわる須崎さんらしい佳品といえよう。黒胡椒や九条ネギと松の実のペースト(和風ジェノヴェーゼ)など3種の食べ方で満喫したら、デザートのティラミスで大団円。次の予約を入れるゲストが多いのも頷ける。

お酒は、日本酒、ワインともに充実。おすすめはブルゴーニュワイン。ワインはボトル16,000円~、グラス2,000円〜。

※価格は税・サービス料込


