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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
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岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
自家製生ハムと自然派ワインが競演するビストロ

2022年1月以降、イタリア産の生ハムやサラミは輸入停止となっている。それを機に多くのレストランではフランス産に切り替えを図ったが、自家製へと舵を切ったのが飯田橋の「ル・ジャングレ」だ。オーナーシェフの有沢貴司さんは「来なければ作るしかない」と料理人の作り手としての本領を発揮。レストランで作る唯一無二の自家製生ハムを完成させた。同店は2016年のオープン以来、さまざまなスタイルのメニューを提案してきたが、現在は自家製生ハムを中心にしたメニューを展開。生ハムやサラミ、モルタデッラなどが多いときで7種類を盛り合わせで提供している。

もちろん“自家製ハム”を作るのはたやすいことではない。多くの料理人が二の足を踏むのは温度管理や湿度管理が必須で、熟成に時間がかかるため。当然お金も時間もかかり、レストランとして大きなリスクになるからだ。さらには塩の当て方、発酵のコントロール、熟成期間の見きわめなど経験や勘どころも要求される。有沢シェフはできない理由を一つ一つクリアにし、調理工程にも試行錯誤を重ね、豚肉だけでなく和牛や鴨を使った生ハムやモザイク模様が美しいイカスミのモルタデッラまで作りあげた。

自家製生ハムが完成したのは、店内にウォークインワインセラーがあったことも功を奏した。開店当初から自然派ワインを提供していたため、自家製生ハムの熟成や保存に役立ったのだ。そしてゲストにとっては4人以上なら生ハムやサラミが3時間おかわり自由のコースがあり、ボトルワインとともに味わうことができる。呑兵衛にとっては夢のようなビストロとなっている。
うにバターのせブリオッシュ✕極辛口シャンパン

ル・ジャングレでアミューズブッシュ感覚でチョイスしたいのは、ブリオッシュに発酵バターとうにをのせたフィンガーフード。うには有沢シェフが市場に通い詰め信頼を寄せている仲買人から上等なものを仕入れられている。「おすし感覚で作った」と有沢シェフが表現するとおり素材の良さを引き出した一皿。あえて全体の味付けを控えめにし、ブリオッシュをカリッと焼き上げることで塩味を感じさせ、そして発酵バターで爽やかな酸味を重ねて、うにのとろけるような食感と甘みを主役にしている。うにの食感と甘みをブリオッシュやバターの香りで堪能することを極めたメニューとなっていた。

「うに 発酵バター ブリオッシュ」に合わせたいのは、極辛口のキレのあるシャンパン。「うにを贅沢に使った料理なので、熟成したニュアンスのあるシャンパンを合わせました。ドラピエはシャンパンの複雑さの中にも、リンゴ酸のようなフレッシュでドライな口当たりがあるので、うにの甘みが際立ちます」と有沢シェフ。食事のスタートから、濃厚なうにの甘みとシャンパンのキレが最高のマリアージュとなった。
自家製生ハム・サラミ盛り合わせ✕甘口ワイン

前菜で口を楽しませた後は、いよいよ「自家製切り立て生ハム・サラミ盛り合わせ」を食べたい。注文すると切り立てが提供されるため、香りとしっとり感が違う。この日は、イカスミのモルタデッラ、鴨の生ハム、和牛のブレザオラ、プロシュート、プロシュートコット、和牛のサラミ、トリュフのモルタデッラと7種類が盛り合わせで登場した。

いざ運ばれてくると歓声をあげたくなる美しさ。和牛のブレザオラやサラミ、鴨の鮮烈や鮮やかさや、イカスミのモルタデッラの黒とピンクのモザイク美は料理人ならではの繊細な感覚がうかがえる。いずれも香りが豊かで塩分ひかえめ。牛肉や鴨、豚肉の素材のうまみをしっとりと味わえ、いくらでも食べられてしまうおいしさだった。

自家製生ハム・サラミ盛り合わせにおすすめなのは、ドイツの甘口ワイン。「当店のハムやサラミは極薄切りなので口の中の滞在時間が短いんです。なので脂分が多いからと酸味の強いワインで合わせると、酸だけが残ってしまいます。生ハムやサラミのような塩分のある肉は甘みと相性がいい。なので甘口ワインが良いですね」と有沢シェフ。合わせてみると、生ハムやサラミのほのかな塩味や脂身をコクのある甘口ワインが引き立てる絶妙なペアリング。どのタイプにも合う意外な万能選手だった。
エゾジカのカツレツ✕果実味のある赤ワイン

ル・ジャングレの肉料理といえば、鹿肉。なかでも開店当初からの人気メニューが「エゾジカのカツレツ」。有沢シェフは猟師の猟に同行したこともあるくらい鹿肉にこだわりがあり、現在も上質な鹿肉を卸す会社と取引きしている。その鹿肉をカツレツにして、アーモンドとヨーグルトのソースを添えて提供。サクサクの衣をまとったレアなカツレツに酸味と甘みのあるソースがマッチした肉料理だ。

エゾジカのカツレツには、イタリアのサンジョベーゼ主体の赤ワインが有沢さんのイチオシ。「このワインの産地でもあるイタリアのトスカーナ州はビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが名物。鹿肉にももちろんぴったりです」と有沢シェフ。ややドライな果実味が鉄分のある鹿肉と相性が良かった。
有沢さんの「私が恋した自然派ワイン」

有沢シェフ恋したワインは、店の名前と同じ“ル・ジャングレ”という赤ワイン。
「もう十数年前に初めて飲んだ、ボールナールというジュラ地方の生産者の赤ワインです。まだ自然派ワインが流行る前でしたが、すごくおいしいなと思って、そこから自然派ワインにはまりました。ジュラのワインらしいチャーミングでむずかしくない味がいいですよね。
2016年に店をオープンするときには、店の名前にしました。当時の当主だったフィリップ・ボールナールさんがビデオメッセージをくれたのはいい思い出です」
飲んでいて楽しいワインをラインアップ

ル・ジャングレには入口付近にウォークインワインセラーがあり、たくさんのワインが収蔵されてえいる。有沢シェフにワインを選ぶ基準を聞くと「飲んでいて楽しいワイン」ときっぱり。「フレッシュなフルーツの酸味があって食事を楽しめるワインや心地よく飲めるワインなど、とにかく飲んでいて楽しいのが一番です。あまり高すぎると楽しくないので、特別なワイン以外は1万円までのワインがほとんどです」と解説。グラスワイン10種類(1,430〜1,760円)ボトルワイン800種類(7,480〜約300万円)が用意されている。
生ハムを存分に味わえるコースを用意

料理はアラカルトが基本となっているが、自家製の生ハムやサラミを存分に味わえるコースや飲み放題付きコースも用意されている。おすすめは4人以上で自然派ワインをボトルで頼み、さまざまな肉で作る生ハムやサラミの盛り合わせと合わせてみること。素材の味が生きた2つのマッチングは至福の時間をもたらしてくれるだろう。
※価格は税込



