Asia’s 50 Best Restaurants 2026 – Group shot

今年で14回目となる「アジアのベストレストラン50」の授賞式が、3月25日に香港で開催、本年のベスト50のランキングが発表された。アジア各国地区内で活躍するフードジャーナリストやシェフら350人余りからなる「Asia’s 50 Best Restaurants Academy」の評議員の投票により、レストランのランキング、種々のアワード受賞者が選出される。本年の授賞式は香港での開催、体感温度の高さとも相まって現地の熱気もひとしおだった。

香港の「The Chairman」が2021年以来の首位に返り咲き、日本からは8店舗がランクイン

Asia’s 50 Best Restaurants 2026 – No.1 shot

昨年No.1の座に輝いたバンコクの「Gaggan(ガガン)」はNo.3にランクダウンし、その牙城を切り崩したのは「広東料理の革新者」として名高い香港の「The Chairman(ザ・チェアマン)」。忘れられつつある中国南部の高級食材や伝統的な技法を讃える広東料理で、地元香港のみならず世界中のグルメ人の間でも高い支持を集めてきた同店が、2021年以来となる首位の座に返り咲いた。昨年のNo.2からさらなる一歩を踏み出す形での戴冠に、会場も大いに沸いた。

首位奪還を機に、今年は香港の年とでもいうべき存在感がランキング全体に漂った。シェフ兼オーナーのヴィッキー・チェン(Vicky Cheng)氏が、中国八大料理の伝統をフランス料理の技法で革新的に再解釈している「ウィング(Wing)」がNo.2に続き、「ネイバーフッド(Neighborhood)」(No.24)、ナポリ料理の「エトロ(Estro)」(No.32)、フォーシーズンズホテル香港内にある「カプリス(Caprice)」(No.35)、ラテン・アメリカスタイルの「モノ(Mono)」(No.46)と、計6軒が香港からランクインした。授賞式の開催都市としての底力を、存分に示したかたちだ。

都市別では、バンコクが計9軒で最多となった。「ガガン(Gaggan)」はNo.3に入り、タイのベストレストラン賞も受賞。「ヌサラー(Nusara)」(No.5)、「ガガン・アット・ルイ・ヴィトン(Gaggan at Louis Vuitton)」(No.8)、「ソーン(Sorn)」(No.12)、「ズーリング(Sühring)」(No.18)、「ポトン(Potong)」(No.25)、「ミス・マリア&ミスター・シン(Ms. Maria & Mr. Singh)」(No.27)、「ル・ドゥ(Le Du)」(No.36)、「ワナ・ユック(Wana Yook)」(No.47)とバンコクのレストランシーンの層の厚さを印象づけた。

ソウルからは「ミングルス(Mingles)」(No.4)が韓国のベストレストラン賞を受賞し、「オンジウム(Onjium)」(No.14)のチョ・ウンヒ(Cho Eun-hee)氏がアジアの最優秀女性シェフ賞を獲得するなど、計6軒がランクイン。

シンガポールからも同じく6軒が選出され、「オデット(Odette)」(No.19)のソムリエ、レスリー・リュウ(Lesley Liu)氏がアジアのベスト・ソムリエ賞を受賞した。バンコク(9軒)を筆頭に、東京(7軒)、香港・ソウル・シンガポール(各6軒)が拮抗する構図が今年も際立つ中、杭州の「如院(Ru Yuan)」(No.10)が最上位の新規入賞レストラン賞(Highest New Entry Award)を受賞するなど、中国本土からも刺激的な動きが見られた。

日本勢は8店舗のランクイン、シェフ交代のタイミングと重なった今年

「La Cime(ラシーム)」
「La Cime(ラシーム)」   写真:お店から

昨年の11店舗から3軒を減らした今年の日本勢は、計8店舗がランクインした。日本のベストレストラン賞(The Best Restaurant in Japan)は、大阪の「La Cime(ラシーム)」が獲得。昨年のNo.8からNo.13へと順位はやや落としたが、高田裕介シェフが丁寧に積み上げてきた独自のフランス料理が、引き続きアジアのトップシーンで高い評価を受けていることを示す結果となった。

「セザン(Sézanne)」
「セザン(Sézanne)」   写真:お店から

東京からは7軒がランクイン。日本の食材を駆使したフランス料理で昨年No.4に輝いた「セザン(Sézanne)」は今年No.16と、順位こそ落としたものの東京勢の中では最高位を維持した。ただし、同店を世界のトップシーンへと引き上げたダニエル・カルバートシェフは3月31日をもって退任し、4月1日付でシンガポールの「Poise(ポイズ)」を一つ星獲得に導いたスティーブン・ランカスター氏が新たに総料理長に就任する。カルバート氏自身は年内に東京で自身のレストランをオープンするという噂もあり、こちらの動向にも注目が集まる。

「茶禅華」
「茶禅華」   写真:お店から

昨年No.34だった「茶禅華(Sazenka)」はNo.21へと大幅に順位を上げ、「フロリレージュ(Florilège)」はNo.31、「クローニー(Crony)」はNo.34と続く。そして昨年No.43だった「マス(Maz)」が今年No.28へと大幅にランクアップしたが、こちらも4年にわたりヘッドシェフを務めたサンティアゴ・フェルナンデス氏が3月末に退任し、4月より新ヘッドシェフとして中村侑矢氏が就任することが発表されている。スロベニア、スウェーデン、ペルーなど国際的な経験を積み、奈良・宇陀市で自身のレストラン「INA」を運営しながらコンクール「RED U-35」で準グランプリを受賞した実力派の抜擢だ。

「明寂」
「明寂」   写真:お店から

「明寂(Myoujyaku)」はNo.33へと昨年No.45から大きく躍進し、中村英利料理長の食材本来の滋味を引き出すシンプルな料理が着実に浸透していることを示した。里山文化を料理で表現している「ナリサワ(Narisawa)」はNo.37にランクインし、長年リストを支え続けるその存在感を改めて見せつけた。

51-100位にも日本の実力店が並ぶ、広がる裾野

トップ50から姿を消した名店も、51-100位のリストにしっかりと名前を残している。昨年No.22だった「傳(Den)」はNo.51と、かろうじて拡張リストの首位に踏みとどまった。昨年No.33の「鮨 さいとう」はNo.72へ、昨年No.36の福岡の「ゴウ(Goh)」は今年No.60にそれぞれ下落している。いずれもトップ50を争う実力を持ちながら、競争の激しさの中でわずかに押し出された形だ。

一方で日本の地方都市からの存在感が増しているのも今年の特徴で、金沢から「片折(Kataori)」(No.82)と「レスピラシオン(Respiración)」(No.92)が新規ランクインを果たし、山形・西川からは「出羽屋(Dewaya)」(No.93)がデビューした。 東京・大阪以外の都市が次々と世界の舞台に顔を出すことで、日本のガストロノミーシーンが本当の意味で多極化しつつあることを感じさせる。51-100を合わせた日本勢のトータルは計18店舗に達し、その層の厚さは他の追随を許さない水準にある。

8店舗という数字の向こう側に見える、日本シーンの底力と変化

昨年の11店舗から8店舗へ。数字だけを見れば物足りなさを覚える向きもあるかもしれないが、51-100まで含めれば計18店舗がリストに存在しており、この規模感はアジア全体でも突出している。タイの9軒には届かないものの、韓国やシンガポールと並ぶ水準をトップ50では維持しつつ、100位内全体でみれば圧倒的な厚みを誇る。

昨年の「アジアのベストレストラン50」速報レポート

それよりも今年の日本にとって大きな出来事は、むしろランキングの外にある。アジア最高峰のランキングを引っ張ってきた「セザン」のダニエル・カルバート氏、「マス」のサンティアゴ・フェルナンデス氏の2人が同日(3月31日)に退任という偶然の一致は、東京のファインダイニングシーンにとってひとつの時代の終わりを告げるようでもある。両店が次のシェフの下でどのような変化を遂げるか、そしてカルバート氏自身の独立がどんな形で結実するか、来年以降のランキングを占う意味でもこれ以上に目が離せないトピックはない。今年の授賞式は香港での開催だったが、来年はどこでの開催になるのか、そして東京での単独授賞式がいつ実現するのかというのも毎年の楽しみのひとつ。「マス」や「明寂」のように順位を着実に伸ばしてきた店が来年どこまで食い込むか、また地方からの新たな顔触れがリストに加わる瞬間を、念願のアワードの東京開催とともに楽しみにしながら来年のランキングを待ちたい。

受賞店一覧

教えてくれた人

山本憲資
1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、Sumallyを起業、2023年10月末に代表を退任し顧問に就任。食だけでなく、アートやクラシック音楽への造詣も深い。

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https://www.instagram.com/tabelog/

文:山本憲資