〈福岡の麺料理〉

皆さん、啜ってますか? ラーメンライター上村です。食べ手として選べる幅が広がりとてもうれしいことですが、豚骨の聖地・福岡でも多種多様なラーメンが楽しめるようになりました。特に台頭しているジャンルはやはり、中華そば(醤油ラーメン)。鶏清湯、鶏煮干、さらには鮮魚系など、さまざまな中華そばが、普段は豚骨派の地元民からも支持を集めています。中でも、“焼きアゴ”を前面に出した“絶品!”中華そばが今回の主役。糟屋郡志免町の人気店「博多あご出汁 中華そば 六味亭」をレポートします。

九州一のラーメンライターがレポート

上村敏行
1976年鹿児島市生まれ。J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3,000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務める。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介された。「九州の豚骨ラーメンこそ最強!」を掲げる「RAMEN WONK KYUSHU(ラーメンワンク九州)」主宰。

県道68号、通称「ドラゴンロード」で異色の存在

「博多あご出汁 中華そば 六味亭」の魅力を紹介するにあたり、まずは店のある場所について説明せねばなりますまい。

「ドラゴンロード」。店前を走る県道68号(ロッパチ)は、福岡のラーメン好きからこう呼ばれています。「幸龍」「喜龍」はじめ、屋号に“龍”の付く豚骨ラーメンの老舗が点在していることから付いた通名なのですが、「六味亭」は、その“超激戦の豚骨ラーメンロード”に2018年、鮮烈デビューしました。屋号に“龍”はあえて付けず、メニューに豚骨ラーメンはなし。焼きアゴが香る中華そば&担々麺の2本柱で勝ち抜いてきた、地域きっての気鋭店なのです。

店主の銘田俊介さんは、1977年糟屋郡須恵町出身。京料理「たん熊」はじめ、日本料理の経験を積んだ後の2014年、地元福岡で居酒屋「六味旬蔵」を開業。その4年後に、ラーメン部門の「六味亭」を開きました。

屋号は、苦味、酸味、甘味、辛味、醎味(かんみ)の“五味”に、食材の持ち味を生かした“淡味(たんみ)”を加えた“六味”に由来しています。和食だけでなくラーメンでも“六味”を大切にしたいという銘田さんの思いが表れています。

「僕のキャリアのスタートは日本料理ですが、幼少時から無類のラーメン好きだったこともあり、いつかは麺専門店もやりたいという気持ちを持っていました。独立開業した和食居酒屋が、ある程度軌道にのった時期に出会ったのが現在の『六味亭』の物件で、ラーメンへの思いが弾けての出店。柱となるメニューを試行錯誤し辿り着いたのが、これまでの経験も生かした“焼きアゴダシ”の中華そばです。豚骨ラーメンの名店はたくさんありますし、何より福岡も豚骨一辺倒じゃおもしろくないと思っていましたから」と銘田さん。

“伝統的な和食と、自由な発想のラーメンを融合した唯一無二の一杯”。それが「六味亭」の原点です。

五島産焼きアゴ+アゴ油で“アゴっぷり”全開

博多あご出汁中華そば

「博多あご出汁中華そば」(680円)は、焼きアゴの味と風味がしっかりと主張しながらも、雑味、エグミがなく飲みやすいピュアなスープが魅力です。別取りした焼きアゴと鶏ダシを8:2の割合で毎朝合わせるダブルスープ。昨今は2018年の開業時よりも、焼きアゴの要素を強めています。

「和風ダシの最高峰の素材だと僕自身惚れ抜いている長崎五島産の焼きアゴ。中でも、より繊細な旨味と脂の甘さが染み出る“幼魚”だけを厳選しています」と胸を張る銘田さん。

焼きアゴは丸2日かけて水出しした後に、火加減に細心の注意を払いながらダシを引きます。

「焼きアゴに“呼吸させるように”ゆっくり、じっくりと炊いていくと、綺麗な黄金色のダシがジュワリと出てきて、香りが花開くポイントがあります。鍋に張り付きながらそのベストな状態を見逃さないのが肝要ですね」と銘田さん。

店主の銘田俊介さん。手に持っているのは、スープの素材である長崎五島産の焼きアゴ

銘田さんが手間暇かけたスープを飲むと……深い(しみじみと)。鼻腔をくすぐる焼きアゴの風味と共に、鶏、節系の旨味が幾重にも広がります。塩気、甘味のバランスも絶妙で、「うん、うん」と、溶け込んだ素材の味を確かめるように、レンゲですくう手が止まらなくなる! ダシだけでなく、仕上げ油にもアゴ油を使っているので、とにかく“アゴっぷり”が見事。パンチと上品さを兼ね備えた、拍手喝采の中華そばです。具は、味がよく染みた豚バラチャーシューに、どこか懐かしさを感じるナルト。そして、シャキシャキ感がいいアクセントになる茎ワカメが名脇役ですね。