〈福岡の麺料理〉

皆さん、啜ってますか? ラーメンライター上村です。多彩な新味が登場し、博多ラーメンもボーダーレス化が進む昨今。選べる幅が広がりうれしいことですが、九州の豚骨戦士を名乗る僕としてはやはり、バリッと濃厚な豚骨ラーメンの新店ができるとうれしくなります。今年3月にオープンした「拉麺處 丸八」のラーメンもまた「福岡はやっぱ豚骨ったい!」と語りかけてくるような、どっしりとした味わいが魅力。そして、緑に囲まれた環境、店のしつらえ、作っている職人。すべてが特別なんです。店の歴史から詳しく紹介していきましょう。

九州一のラーメンライターがレポート

上村敏行
1976年鹿児島市生まれ。J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3,000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務める。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介された。「九州の豚骨ラーメンこそ最強!」を掲げる「RAMEN WONK KYUSHU(ラーメンワンク九州)」主宰。

え、ここ福岡市内!? 緑に囲まれた二つ星割烹店の豚骨ラーメン

これが今回の主役「拉麺處 丸八」の門構え。奥に見えるラーメン専用の入口からアプローチを進む

「拉麺處 丸八」は、400坪の敷地がある二つ星のフグ割烹店「油山山荘」の一角にあります。3月にオープンしたと申しましたが、正確には“伝説的ラーメン店の復活”と言った方がいいかもしれません。

こんなラーメン店へのアプローチってあります? 非日常のラーメン体験へGO!

「油山山荘」の創業は1972(昭和47)年。現在73歳になる店主の渡邉健さんが、16歳で和食の道に入り大阪での修業の末、20代後半で開業しました。そして昭和60年代、和食職人との二足の草鞋を履いて始めたのが福岡市・西月隈にあった豚骨ラーメン専門店「丸八」です。

緑の小道を進むと、無垢板の看板が掛かった店舗が現れる

「若い頃からラーメン好きで、自分で作ってみたいという気持ちがあったと。醤油や塩ラーメンはそれまでの日本料理の経験ですぐに作れた。職人としての厚みを出すため、やるなら未知の豚骨ラーメンにしたいと。しばらく久留米に勉強に行って、自分なりに作り込んでいったんだけど、和食のセオリーは通じんけん、それは大変やった。豚骨ラーメンの奥深さに一気にハマっていったね」と渡邉さんは振り返ります。

写真奥が、「油山山荘」「拉麺處 丸八」の店主、渡邉健さん。フグ割烹、豚骨ラーメン業界でもレジェンド的な職人。手前は渡邉さんと長年親交のある「名島亭」創業者の城戸修さん。現在「丸八」を手伝っている

「丸八」は大人気を博し15年ほど営業しますが、老朽化した物件を立ち退かねばならなくなったため閉店。そして、月日は流れコロナ禍になった2020年の6〜9月、「油山山荘」の期間限定ランチで「丸八」のラーメンが復活。庭園を横目に啜る非日常のラーメン体験で人気を集めました。

「かつての『丸八』の味を知る年配のお客さん、そして若い層にもご好評いただきうれしかったね。手応えを感じたのはもちろん、何より僕自身の豚骨ラーメン職人の血が再び沸き上がってきた。もう1回店舗を作って勝負してみるかなと」

邉さんは「油山山荘」の元宿泊棟であった一角を改築しラーメン専門店へ。