旬の素材を活かしきる、技と創意を忍ばせたおまかせコースをご紹介
コースはおまかせのみ。スープ、カルパッチョ、フリット、魚料理、パスタ、リゾット、肉料理、デザートの全8品で25,000円〜(価格は季節により異なる)。
味づくりで最も大切にしていることは?との問いに「ずばり、素材選びです」。愛知・三河湾の恵みはもとより、佐賀・唐津の魚屋からは、自家製のボッタルガに用いるボラの卵のみを。徳島の魚屋からはノドグロを、福井・三国からは越前がに……といったように、「各地に信頼のおける食のプロがいらっしゃいます。毎日のように農家や漁師、浜の人たちとコミュニケーションをとり、その都度、納得のいく食材を仕入れています」。
和魂洋才の精神が光る皿が続々と
素材ありきのクリエーション。そのベースとなる手法はイタリアンだが、食材やテクニックなどで巧みに和の要素も盛り込むのが青山シェフの真骨頂。
たとえばカルパッチョに使うクエは、最低6日間は寝かせ、旨みを最大限まで引き出す。その皮目は、紀州備長炭で一瞬だけ炙る。キャビアの塩味、花ワサビのほろりとした苦み、E.V.オリーブオイルの芳しさが共鳴。コースの序章でたちまち、心を鷲掴みにされるだろう。

魚料理「マナガツオ」にも青山シェフならではの独創性が窺える。
「出汁の引き方には、和食の発想を取り入れました。だけど、着地点はイタリアンになるよう実験を重ねました」とシェフ。魚の骨を焼き、ニンニクやドライトマト、ハーブやケイパーなどを加え、どこまでもクリアな出汁を作り上げた。
いっぽう、骨付きのまま炭火で焼き上げたマナガツオは、締まりの良い身質ながら、ホワッとした独特の食感。そこに、アクアパッツァを彷彿とさせる出汁の風味が重なり合う。その出汁は、乳化による白濁が一切ない。澄み切った味わいと、しみじみと広がる深淵な旨みが印象的だ。

パスタでたちまちイタリアの風。抑揚のあるコース展開が魅力
「コース構成で大切にするのは、抑揚の付け方ですね」
自家製のタリアテッレを用いたアラビアータには、愛知・篠島で揚がる天然トラフグの白子を惜しげもなく使う。頬張れば、炭火で炙った白子の濃厚かつクリーミーな味わいと、トウガラシの鮮烈な辛み、トマトのコク深い味わいが見事なハーモニーを奏でる。ムッチリとしたタリアテッレとの絡みもすこぶる良い。
コース前半の、優しく繊細な一品とは打って変わり、シンプルにイタリアの王道を感じさせる一品。その中で、地産の旬「トラフグの白子」が、生き生きとオーラを放っていた。

「地産」といえば「タコのリゾット」に用いるマダコも日間賀島より。タコを頬張れば、目を見張るに違いない。その風貌は、外皮などが一切剥がれておらず弾力がありそう……。しかし頬張れば、ふわっと柔らかな驚きの食感で、噛むほどに濃厚な旨みがじわじわと押し寄せる! 「トロットロなのに皮は剥がれないよう、和食の技法を取り入れながら工夫を重ねました」と青山シェフ。タコの煮汁で炊いたカルナローリ米との相性は抜群だ。

肉料理は直球かつシンプルな味づくりが魅力。この日は、近江牛のフィレ肉を炭火焼きで。遠火と近火、寝かせを繰り返し、見目麗しいロゼ色に仕上げた。「愛知・豊川の農家さんから今朝届いたばかり」というアスパラガスは、近江牛に引けを取らない存在感。みずみずしくジューシー、清らかな甘みがずっと続いた。

ゲストの多くは、ペアリングを楽しむ
セラーに眠るワインは、フランス産がその多くを占める。ブルゴーニュを中心としたキレイな味わいのものを軸に、イタリアのセレクション、自然派までボーダレス。トスカーナ州、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ地区の偉大な造り手、カーゼ・バッセの「ソルデラ」など、レアなイタリアワインも。「ワインは“おまかせで”とおっしゃるお客様が多いです」と青山シェフ。ペアリングは15,000円〜。魅惑のコース構成はもとより、ワインのラインアップからも目が離せない。

“日本人である自身のフィルターを通して作る、この地ならではのイタリアンを”。その揺るぎのない信念を軸に、食の感度が高いゲストを唸らせる“深化”が、現在の「イル アオヤマ」の新境地だろう。マダムが奏でる絶妙なサービスと共に堪能してほしい。
※価格は税込