最近、西岡さんがとくに夢中になっているのが、他の寿司店ではあまり見かけることのないメカジキ。かつてはマグロと人気を二分する存在だったが、いつしか扱う職人も店も減っていった。その理由について西岡さんは「メカジキのうろこは先端が尖っているのでそれをきちんと取り除かなくてはいけないし、筋をどれくらい残すかも職人の腕の見せどころ。細やかな仕事が求められるので敬遠する寿司店もあるかもしれませんが、自分的にはナンバーワンの魚です。小魚と同じくらい腕が鳴るし、思い入れもとても強いです」。

開店当初こそ魚の熟成に注力していたが、いまはネタが勝ちすぎないように一体感を重視するようになった。そのなかで、メカジキは唯一、長い時間をかけて熟成させるネタだ。2カ月乾燥熟成をさせたというメカジキを口に運ぶと、しっかりした歯ごたえのなかに驚くほど濃厚なうまみが凝縮している。「僕があつかうのはお腹の部分。お客さんがメカジキってこんなにおいしいの、と驚く顔を見て心のなかでガッツポーズしています(笑)」

ネタとのバランスを突き詰めるべく、シャリもその都度変えてきたが、このところは、粘り気が少なく、甘みがおだやかな天日干しのササニシキに落ち着いている。華やかな香りがありながら、米酢のようにすっきりした“吟醸赤酢”と酒粕由来のパンチを感じる赤酢を半分まで煮詰めてブレンドして仕上げるシャリを使った握りは口のなかでのほどけ具合が素晴らしく“ネタとシャリの一体感”とはこういうことかと目からうろこが落ちる。

小寺さんイチ押しの珍しい握りはこれ!

他の寿司店では見ることの少ない「メカジキ」

メカジキはコースの大トリとして登場。かみごたえがあり、うまみの濃さがケタ違い。ほかの寿司店では滅多に出合うことのないレア感も相まって“口福感”もひとしお
 

現在「にし岡」では、つまみ7品前後に握りが10貫で1万8,000円のコースを提供している。土日限定で1万2,000円のランチも用意。

「メカジキ」は、かつてはマグロと並ぶ“主役ネタ”だったというが、最近用意している寿司店はめずらしい。1週間かけて真空状態で水分を抜き、表面に冷風を当てて乾燥させる。個体によっては脂がしっかり回るまで2カ月寝かせることも。

 

小寺さん

初めてメカジキをいただいた時、とんでもない衝撃を受けました。あまりスポットが当てられることのない魚のポテンシャルを引き出す才能は唯一無二だと思います。

つねにベストを更新する寿司に心までしっかり握られる

3〜4月に旬を迎えるサヨリ。美しい銀皮を生かした姿形にも注目。小骨をしっかりと抜いてから塩で締める。透明感のなかに深いコクを感じる

この時期の羽田沖の「サヨリ」はあおさをたっぷり食べているので脂ノリが抜群。柚子をかませて爽やかな風味に。淡白な魚とされるが、今の時期は表面にしっかり脂がのっている。

小トロ。“分かれ身”と呼ばれる背びれの下の部分。「赤身の酸としっとりと味蕾を包むような脂のバランスが一番いい」とマグロ好きからも好評

「小トロ」は筋が強い部位ではあるが、あえてそれを残すことでしっかりとしたかみごたえに。コクのあるシャリとの相性は言わずもがな。力強いうまみにうなる!

自他ともに認める“小魚”フェチは個体を見極め、風味を最高の状態に引き上げる!

小肌の提供の順番は脂がのったトロのあと。温度は低めに、酸をしっかりときかせるのが信条。しっかりと締まった身をかみしめるとじゅわりと清冽なうまみがあふれる

米酢の爽やかさがあったほうが味にメリハリが出ると、「小肌」は酢〆にして4日ほど寝かせる。ぐっと引き締まった身に旨みが凝縮するという。

 

小寺さん

熟成を突き詰められています。個体の性質を見極めなければ同じ香りに着地することになった、と語られていたのが印象的。味、香り、食感の全方向を見つめた仕事に感服します。

子持ちヤリイカを握りにする、という発想もユニーク。上品なツメの香りとむっちりした食感の融合を楽しみたい

子持ちヤリイカは湯引きしてからサッと煮て、煮汁を詰めたタレを合わせる。煮付けとは違うアプローチを考えていたときに思いついたという一貫。