趣向を凝らしたつまみの連続に、コース序盤から心をつかまれる!

「にし岡」ファンが「握りと同じくらい楽しみ」というのが、つまみ。自身の店を構える前は和食店で働いていたとあって、つまみにも卓越したセンスが光る。握り同様に「魚が主役」ゆえ、素材を活かすことは大前提。コースのなかに7品前後が盛り込まれるが、そのどれもが創意に満ちていて“握りの前哨戦”という域を超越した逸品が次々に登場する。

カキとあおさ海苔。岩手県産の大ぶりのカキを煮含めてあおさ海苔の餡をたっぷりと。ふくふくとしたカキのミルキーな風味を“海の香り”が引き立てる

春のおだやかな海をイメージしたこの時期のつまみは、ふっくらとしたカキにあおさ海苔の“潮気”を合わせたものや、ほんのりとした苦みと桜の香りが上品な白魚の桜蒸しなど。時期によっては成熟したセイコガニのうまみに陶然とするカニご飯や、温度と時間を少しずつ変えてベストな状態を探ったという半熟イクラ、クリームチーズのようにねっとりとろけるカワハギの肝和えなどが登場し、センスと細やかな仕事が光るつまみに日本酒もどんどん進む。

白魚の桜蒸し。桜と一緒に蒸した白魚の下にご飯が。桜の餡が春を感じさせる。和食出身とあって、季節感を意識した逸品にもセンスが光る
 

小寺さん

西岡さんは素材を活かしながらも季節感を盛り込んだつまみを出していただけるのが楽しみ。お酒が進みすぎるのもうれしい悩みです(笑)。

つまみひと皿、握りの一貫一貫に魚愛がほとばしる「にし岡」。気鋭の寿司店と呼ぶにふさわしいこの店に足を運べば、奇をてらわずに実直に寿司道を極めんとする若き職人の熱い思いに胸を打たれるはず。

派手なパフォーマンスや突飛な食材の組み合わせがないぶん、純粋に寿司を楽しむことができるのも“寿司バブル”と言われるいまにあってじつは貴重だ。すでに“完成形”とも言えるが、気力みなぎる仕事には未知数の可能性を感じる。

5年、10年先も通いたくなる店に足を運んでみていただきたい。

※価格は税込です。

撮影:八木竜馬
文:小寺慶子