「ゼレシュクポロ」「ミルザガセミ」「キャバブ クビデ」。何のことかさっぱり分かりませんよね。実はこれ、ペルシャ料理。味がまったく想像できませんが、これらが未体験の絶品料理だったら? そんな未知の美味に出合えるのが、京都・左京区の「アラシのキッチン」なのです。

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは、口コミ数が少なかったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり、点数が上がると予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はグルメライターの猫田しげるさんに、京都にあるとっておきのペルシャ料理店を教えてもらった。

教えてくれる人

猫田しげる
グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。現在はウェブライターとして関西を中心に活動。おいしい店はもちろん、それ以上に「クセの強い店」を愛してしまう。表向きは普通に会社勤めしているサラリーマン。あまり更新できていないブログ「クセの強い店が好きだ!」もよろしくお願いします。

アラシさんの店。だから「アラシのキッチン」

水タバコも吸えます

扉を開けるなり「イラッシャ~イマセ~!」とテンション高めの店主が迎えるこちら。オーナーのアラシ・ソダギャランさんはイランのテヘラン出身、14年ほど前に来日し、2013年にこのお店を開きました。京都大学付近は昔から異国料理店の多いエリアですが、そんな中でも「ペルシャ料理」はなかなか珍しいものです。

オリジナルTシャツでキメるアラシさん

店内はトルコランプや水タバコなどが飾られ、エキゾチックな雰囲気。ランチタイムは京大生や教授などで賑わいますが、夜はどこからか同胞のイラン人や中東好きな人々が集まってきます。毎週土曜夜にはベリーダンスショーも開催され、セクシーなお姉さんたちが妖艶な踊りを披露してくれます。しかも鑑賞無料。土曜はごはんを食べに来たらベリーダンスを観られちゃうラッキーデーなんです。

トルコランプも買えます(笑)

メニューを見ても謎のカタカナばかり並んでいますが、日本語で説明もあるのでだいたい分かります。ちなみにペルシャ料理のほかにインド料理もあり、どうして?と聞いたら「インド料理の方が分かりやすいから!」とのこと。いいですねえそのノリの軽さ。

カレーもインド人シェフが作る本格派

本場のキャバブは食べておくべき

メニューを見るだけでもだいぶ楽しめます

そして本題の料理。メニューが100種近くあるので何度訪れても網羅しきれず「次こそアレ食べよう」という課題ばかり増えていきます(笑)。でも、まずお店自慢の「ペルシャキャバブ」は食べておきましょう。

ミックスキャバブは4,300円。単品1,350円〜

キャバブは基本的にビーフ、ラム、チキンの3種。1本からオーダーできますが、盛り合わせの方がお得で見た目も豪華です。色とりどりの肉串が敷き詰められた大皿が登場すると、毎回拍手してしまいます。写真左から「ヴァルブキャバブ」(ラム)、「ジュージェキャバブ」(鶏モモ肉)、「キャバブネギン」(ラム&ビーフのミンチとチキン)、「キャバブ クビデ」(ラム&ビーフのミンチ)。

「キャバブ クビデ」は牛肉とラム肉を粗めにミンチにしてあり、弾力がありながらジューシー。サフランやタマネギ、レモンジュース、スパイスで調合したタレに漬け込み、タンドリーで焼き上げます。しっかり羊の匂いはするけれど、臭みはナシ。口の中が一気にアラビアンになります。

「ジュージェキャバブ」が黄色いのは、サフランをしこたま使ったタレで漬け込んでいるから。ちなみに「キャバブ(ケバブ)って肉の串焼きっすよね?」と聞いたらアラシさん「違うよ! 肉も野菜も焼いたら全部キャバブ。日本の焼鳥みたいなもの!」と割と強めに否定していました。

種類によって漬けダレも変えています

「キャバブネギン」はラム&ビーフのミンチに、なんとジュージェキャバブのチキンが埋め込まれているというハイブリッド構造。羊、牛、鶏を全部一緒に食べるという、日本にはあまりない発想の料理ですね。これもサフランの香りと羊肉の独特な匂いが相まって、エキゾチックな旨さです。

甘酸っぱい「ゼレシュク」が決め手の鶏モモ煮込み

ゼレシュクポロ1,700円。どの料理もボリューミー

次は「ゼレシュクポロ」です。「ゼレシュクって何ですか?」「バルベリーね」「ブルーベリー?」「ん〜、ちょと違う」というやりとりを延々繰り返していましたが、ネットで調べたら「イランでよく食べられるベリー系のフルーツ」と出てきました。

ライスの上にのっているのがゼレシュクです。料理としては鶏モモ肉withライス。トマトソース、タマネギ、ニンニクなどで仕上げたソースで鶏肉を弱火で1時間ほど煮込んでいます。肉にしっかり味が染み込んでいて、柔らかい。本当はかぶりついて食べたいところですが、バスマティライスにオンしていただきます。このライスの黄色もサフラン。

トマトの酸味とゼレシュクの甘酸っぱさがよく合う

待てよ。サフランって1g 1,000円ぐらいする超高級スパイスですよねえ。なぜこんなにふんだんに使えるのか?ウコンで代用していないのか?という疑問が頭をもたげます。

サフランを自家農園で作っているからこんなにたくさん使える!

サフランは1g 1,000円。奥の瓶、末端価格にして100万円くらいかと

聞くとなんと、アラシさんは祖国でサフランを育てて、輸入卸の事業もしているそうです。なるほど、だから高価なサフランをたっぷり使えるんですね。食材の他にも水タバコ、トルコランプ、イランのタペストリーなどの輸入販売をしているとか。実はやり手のビジネスマンか!