年に1回、食べログユーザーからの投票で決まる「The Tabelog Award」。全国に星の数ほどある飲食店から選び抜かれる受賞店の魅力を伝えるとともに、店主の行きつけの店をご紹介。広尾のイノベーティブ・フュージョン「CHIUnE」の店主が繰り返し訪れるお気に入りの店とは?

〈一流の行きつけ〉Vol.14

イノベーティブ「CHIUnE」広尾

高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。

当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。

第14回はイノベーティブ・フュージョン「CHIUnE」。移転前の2018年を皮切りにGoldを5回受賞する輝かしい実績をもつオーナーシェフ、古田 諭史(さとし)氏に話をうかがった。

己を信じる強い信念から生まれた唯一無二の料理

カフェモカ男
出典:カフェモカ男さん

最寄り駅は広尾、西麻布の裏路地に佇むイノベーティブ・フュージョンの名店「CHIUnE」。店の名前は、古田氏の出身地・岐阜県の棚田が連なる光景を意味する「千畝(ちうね)」から。2009年に24歳で岐阜市にフランス料理店「Satoshi.F」を開業、7年後に東京に移転するタイミングで「自身のルーツである岐阜を大切にしたい」とこの言葉を選んだという。

ちなみに古田氏の実家は創作中華の名店「開化亭」。「小学4年生頃から高校を出るまで店を手伝う中で、お客様からお褒めの言葉をもらう両親の姿を見て憧れを抱き、仕事をするなら料理人しかないと早い時期から決めていました」と古田氏。

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出典:pateknautilus40さん

「シンプルイズザベスト」「究極の引き算の料理」などと絶賛される古田氏の料理。聞けば岐阜での開業当初、思うように客が入らなかった経験が、現在の料理スタイルに向かわせたという。

「どういう料理ならお客様に来ていただけるかを考えたとき、東京にあるような料理ではだめだと。どこまでも自分自身を掘り下げ、自分の料理を突き詰めるしかない」という結論に達した古田氏。約4年かけて、素材が持つポテンシャルを最大限に引き出した、古田氏にしか作れない唯一無二の料理を確立した。 「ともすると料理人は、おいしくしようと余計な調味料や仕事を足したがるものですが、必要のないものをそぎ落としシンプルにすることで引き出せる、味わいや香りがあります。自分が本当においしいと思うものを信じて自信を持つ。そこに徹してこれまで歩んできました」と古田氏は振り返る。

周りに流されず、食材の心を開くような料理をこれからも

サプレマシー
出典:サプレマシーさん

カウンター8席、一斉スタートの2部制で営業する「CHIUnE」。アイボリーを基調とする洗練された店内は、国内外で活躍するインテリアデザイナー・片山 正通氏によるデザインだ。空間全体も無駄がなくシンプルで、一枚板の広々したカウンターに臨むオープンキッチンは、まるでラボラトリーのような印象を受ける。

料理人として大切にしていることを伺うと「何よりも自分が一番おいしいと思う料理をおいしい状態でお客様にお出しすること」と古田氏。8席という席数は、古田氏が同時に提供できる現時点での最大限であり、そのおいしさのピークを逃さないため、写真を撮るよりまずは一口でもできたてを味わってほしいというのが古田氏の思いだ。

写真:お店から

食材を選ぶときに意識するのはコースの中での役割。「どんなに”おいしい”食材でも、おいしいが過ぎると調和を乱してしまいます」と古田氏。

続けて「おいしさは自分の技術によるのではなく、食材が心を開いてくれたから。食材がベストパフォーマンスを発揮してくれたときは、親友ができたようにうれしい」と、日頃クールな古田氏の顔がほころんだ。

東京に店を構えて8年目、予約困難な一流店に上り詰めた「CHIUnE」。そんな名店を率いる古田氏の信条は「食材や自分を囲むものへの敬意を払いながらも、むやみに周りの意見を取り入れないこと。流されず、濁らず、媚びることなく、誰かになろうとするのでもなく、どこまでも自分の料理を作ること」。

いつか挑戦したいこととして「日本でオーベルジュを開き、スペインにある海辺の町・ゲタリアなど、自分のことを誰も知らないような場所で料理を作ってみたい」と教えてくれた。己を信じて、迷いなく邁進する古田氏の今これからに目が離せそうにない。