年に1回、食べログユーザーからの投票で決まる「The Tabelog Award」。全国に星の数ほどある飲食店から選び抜かれる受賞店の魅力を伝えるとともに、店主の行きつけの店をご紹介。表参道のフレンチ「ラチュレ」の店主が思わずリピートするお気に入りの店とは?
〈一流の行きつけ〉Vol.11
フレンチ「ラチュレ」表参道
高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。
当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。
第11回はフレンチ「ラチュレ」のシェフ・室田拓人氏に話を伺った。2018年にBronze受賞を皮切りにして、2019年、2020年、2021年、2022年と4年連続でSilverを受賞。2021年には「食べログ フレンチ TOKYO 百名店」にも選出されるなど、輝かしい栄光を手にしてきた。そんな「ラチュレ」店主のお気に入りとは?
自然の恵みが詰まったジビエを美食フレンチに昇華
トレンドの発信地・表参道に店を構える「ラチュレ」は、ハンターシェフの室田拓人氏が腕をふるうフランス料理の店である。特徴は多様なジビエを使い、丹精込めた繊細な技術で、洗練されたフランス料理に仕立てること。訪れる客人はジビエとフレンチのシームレスな融合に驚き、感動を覚え、すっかり魅了されてしまうという。
「ラチュレ」は昼夜ともにお任せのコースを提供する。まず注目したいのは挨拶代わりに登場することの多い「ブラッド マカロン」。上品な甘さと程よい塩味が心地よい逸品は卵白の代わりに鹿の血を使う。「捨てられてしまうものを無駄にせず、おいしくいただけるように」という室田氏の思いを感じとることができる。
パテアンクルートにはフランス料理の技法がすべて込められている。「ラチュレ」では猪、兎、熊、鹿、雉など、季節や仕入れ状況に合わせてさまざまなジビエをパテにする。パテとジュレをパイで包み込んで焼きあげる手間ひまかかった一皿には室田氏の思い入れも深い。
「うちの料理はジビエと言われないとわからないほど、溶け込むように料理に存在しています。ジビエがお好きな方にも、これまであまりジビエに親しんだことのない方も味わっていただけると思います」(室田氏/以下同)
野生動物であるジビエは、本来個性にあふれている。「これまで食べてきたものや運動量、育ってきた環境や締め方、流通の仕方などによって、それぞれが違う」と室田氏は言う。それぞれの味わいの個性を最大限に生かしたり、ときに不要な個性を上手に排除したりしながら、自在にジビエを扱い、伝統的なフレンチと組み合わせて新たなおいしさを創出するのが室田氏の真骨頂だ。
「もともとフランス料理は無駄を出さない料理です」と室田氏は語る。その言葉の通り、自然のすべてを活かすことに情熱を傾けている。野生に育ち食物連鎖を繰り返してきた肉は、人の手では決して生みだせない滋味深い食材。室田氏は血も、骨も、脂肪も筋も、余すところなく使用する。“獣害”として捨てられてしまう野生の命は室田氏の手にかかれば、至高の料理へと昇華されていく。
地球への敬意と感謝を次世代につなぐ
ハンター資格を持つ室田氏は自ら狩猟にも出かける。これまで出会ってきた信頼のおけるハンターとの人脈と、食材に愛情と情熱を持つ生産者とのかかわりを大切にしながら独自の仕入れルートを開拓してきた。
同時に料理人としての社会的存在意義を自覚し、世界中の関心事となった、サステナビリティや食料問題とも正面から向き合っている。
その実践の一つが故郷の千葉に広がる「ラチュレ農園」。ここでは有機農法による体に優しい野菜を研究している。また、市場価値がないとされてしまう見た目が悪い野菜も分け隔てなく育てる。それらが並ぶのはもちろん「ラチュレ」のテーブルなのだ。
東京のトップシェフが集まり、日本の海と食文化を未来に紡ぐ「シェフス フォー ザ ブルー」への参画や、子ども食堂や食育イベントの主催、メーカーの商品監修など、室田氏の活動は多岐にわたる。
室田氏のポリシーは自然への敬意と感謝を忘れないこと。そんな思いに共感する美食家たちが支持する「ラチュレ」。ここでは未来を紡ぐ美食体験が待っている。