年に1回、食べログユーザーからの投票で決まる「The Tabelog Award」。全国に星の数ほどある飲食店から選び抜かれる受賞店の魅力を伝えるとともに、店主の行きつけの店をご紹介。乃木坂の懐石料理「山﨑」の店主がリスペクトする名店とは?

〈一流の行きつけ〉Vol.10

懐石料理店「山﨑」乃木坂

高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。

当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。

第10回は懐石・会席料理「山﨑」の山崎志朗氏に話を伺った。2020年、2021年、2022年と3年連続でSilverを受賞、2021年には「食べログ 日本料理 TOKYO 百名店」にも選出され、確固たる地位を築きあげた店主のお気に入りとは?

食材への敬意を胸に、真に謙虚な料理人

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出典:pateknautilus40さん

乃木坂でのれんを掲げる「山﨑」は、1987年生まれの若き才能が花開く懐石料理の店である。店主であり料理人の山崎志朗氏は、完全紹介制の料亭「もりかわ」(赤坂)で8年ほど修業時代を過ごした。独立前にはイノベーティブフュージョンの「チウネ」、スペイン料理「アカ」で経験を積む。異なるジャンルの料理を介して山崎氏は日本料理を再確認し、改めて解釈をしたという。

そんな山崎氏は2018年8月に「山﨑」をオープンさせてから3カ月でミシュラン一つ星を獲得という快挙を成し遂げ、食に一家言のある人々をうならせている。しかし山崎氏は「今があるのはお客様の口コミのおかげです」と慎ましい態度を貫く。

「山﨑」では四季折々の食材を使ったおまかせコースをいただける。ソムリエでもある山崎氏が選び抜いた美酒とともに、五感に豊かな幸福を与えてくれる〜12品ほどの料理を心ゆくまで味わえるのだ。

写真:お店から

山崎氏の信念は「何を食べたのか明確にわかる料理」を作ること。自らの仕事はあくまで「食材ありき」だという考えがあるためだ。

「料理は食材が手元に存在しないと何もできません。食材があっての料理なのです。時に雑味を消す技術を施したり、時に味わいの輪郭線を引き直したりと工夫をする。そういうことが自分の仕事だと思っています」(山崎氏/以下同)

食材への敬意を払い、生産者や流通を担う者への感謝を忘れない。だからこそ料理人である山崎氏は「最もおいしい時に、最もおいしい食べ方をすること」に執心するのだ。

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出典:pateknautilus40さん

手間ひまかけたご馳走で贅沢な気分と最上級のくつろぎを

自身の料理では「贅沢な気分と味わいの無理のなさの両立」を目指しているという。

「せっかくの外食ですから、上質な素材でつくるお料理をたっぷりと食べていただいて、贅沢な気持ちになってくださるとうれしいですね。同時に、店は“レストラン”でもあるので、文字通り、安らぎやくつろぎにも浸っていただきたいです。高級だけど、肩に力を入れる必要のない、無理のない味わいとなるよう、丁寧に仕上げています」

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出典:pateknautilus40さん

寒い時期に旬を迎えるズワイガニ。「山﨑」では石川県産のズワイガニのブランドである「加能ガニ」をしゃぶしゃぶでいただける。

活きたまま届くカニを生の状態でだしに漬け込み、うま味をカニの身に凝縮させるのがポイントだ。身を漬け込んだだしは一度沸かし、あくをこしたらそのまましゃぶしゃぶに。さらにカニ味噌は甲羅に入れて、炭火で加熱。焼いた甲羅の香りをつけたカニ味噌をかけて、カニそのものを余すところなく味わいつくす。

写真:お店から

夏に登場するオコゼはお吸い物でいただく。活〆のオコゼから骨を抜きとり、ハモのように身に細かく切り込みを入れ、くず粉をはたいたお吸い物は、ネギ、ショウガ、酒を使う丸仕立てで味わう。オコゼの身の甘さとだしの調和を堪能したい。

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出典:foodie_m.cさん

店では客人の会話の邪魔にならぬようにと、やや控えめな料理の説明にとどめると言う山崎氏。それでもこちらから伺ってみると、一つひとつの食材や調理方法を快く語り、口調には食材そのものへの敬意がにじむ。

そして「どんな食材も産地で食べるよりおいしい料理にして出さないと、東京で食べていただく意味がない」と山崎氏は静かに、力強く断言する。食材を尊ぶまっすぐな姿勢を「山﨑」のやさしい滋味と深いうま味に見てとれるだろう。