“常連になりたい”レストランが下町に誕生
家の近くにこんなレストランがあったら、と、つくづく思わせられるフレンチビストロが、門前仲町に7月21日グランドオープンする。その名は「渡辺料理店」。“りょうりてん”ではなく、“りょうりみせ”と読ませる。そのあたりに、オーナーシェフの渡邉幸司氏のこだわりが感じられる。
氏の経歴は華やかだ。ホテルを出発点に1999年には渡仏、ブルゴーニュ、エクサンプロヴァンス、アルザス、パリと各地の星付きレストランでフランス料理のエスプリを学んだ。その後、銀座レカンに入店し、総料理長であった十時氏の「GINZA TOTOKI」の立ち上げに携わり、再度、銀座レカンに戻り、7代目の総料理長を務めた。退社後は、魚のことをもっと勉強したいと、豊洲でも働いたという勉強家だ。
そしてこの7月、念願の自身の店のオープンに至ったわけだが、黒板メニューのみの、アラカルトでカジュアルなビストロスタイル。しかも場所は門前仲町駅から至近の路地の中ほど。
渡邉氏にその意図を聞くと「自分は、ランチ1,000円の店から、グランメゾンまで、幅広い店で働いてきました。その30年の経験から学び、身に着けたことを生かしつつ、フランス料理の本来の楽しさを伝える店を作りたかったんですね。何人かで来て、ワインを1本あけて、料理はシェアしながらわいわいと、というような。けれど、料理はクラシックなフレンチのよさを生かして、丁寧に手をかける。そんな店を作りたくて、自宅のそばにこうした店を構えました」と言う。
店内は、シェフの定位置の前にはカウンターが5席、テーブル席が12席。おひとりさまからグループまで、幅広いニーズに応えてくれるのも嬉しい。奥様であるマダムの接客も心温まる、家庭的な雰囲気がなんとも心地よい。
基本を押さえた骨太な料理
さて、今回は、日々20品ほど用意されるメニューの中から代表的なものを紹介してもらった。まずはシャルキュトリーの盛り合わせ。フレンチ好きなら、この一皿を見ただけで、たまらないはずだ。
パテドカンパーニュ、ジャンボンペルシエ、ブーダンノワール、白レバーのムースの4種。一口食べるとムースの滑らかさに驚き、パテドカンパーニュの旨味の強さに驚く、といった具合で、どれもが、基本に忠実にかつ、手をかけて作られていることがわかる。
「シャルキュトリーはやはり、フランス食文化の凝縮したものですよね。だからこそ、初心にかえる気持ちで丁寧に作っています」とシェフ。添えられたパンは近隣に6月にオープンした「たむらパン」のもので、これまた美味。3~4人でシェアできる量で4,000円程度。もちろん、人数に応じた盛り合わせも可能だ。
2品目は「魚のタルタル添え」2,100円。黒いシックな魚に、花が咲いたように、美しく野菜が盛り上げられている。
その下にはワカモレが敷かれ、上にシマアジ、サーモン、帆立、タコのマリネがたっぷり。さらにその上には紅芯大根、豆苗、おかひじき、ブロッコリースプラウト、菊を和えたものを盛っている。
魚介は季節に応じて、おいしい魚介を組み合わせるそう。豊洲で働いて培った魚介の仕入れ先からの旬の美味が楽しみだ。爽やかでいながら、ボリュームのある魚介のおいしさがたまらない。
3品目は王道とも言える、和牛ホホ肉の赤ワイン煮込みだ。
驚くほどナイフがすっと入り、口に含めば、柔らかくも弾力のある、ホホ肉独特の食感の間から、旨味が口いっぱいにあふれ出る。煮汁を漉して仕上げた赤ワインソースが重すぎず、柔らかな気品を称えている。
聞けば、ソースににんじんのペーストを加えているのだそうだ。それによって、こくが増すと同時に、まろやかさと軽さも出るという。だから、皿の上にもにんじんのピューレを盛り、にんじんの葉をあしらっている。余計なものの何一つない、ロジカルで完結した盛り付けは美しいとしか言いようがない。1皿3,900円だ。こうした王道のフレンチが食べられる店が少なくなった今、渡辺料理店は貴重な存在であるとも言えよう。
早くも予約が殺到
「ワインはフランス産ばかりで、ボトルで4,000円、5,000円、6,000円台から揃えています。もちろん、グラスも揃えています。料理1品とワイン1杯からでもOKですし、コースを組んでしっかり食べていただいてもいい。ぜひ、ニーズに応じて楽しんでください」
すでに7月は予約がいっぱいだという。ますます忙しくなること請け合いだ。なるべく早く予約をとることをおすすめする。
※価格は税込。