1967年のオープンから広島県民に長く親しまれてきた「広島アンデルセン」。老朽化による建て替えのため2016年に旧建物での営業を終了し、2020年8月にリニューアルオープンした。これまで大切にしてきたものを受け継ぎつつ、新たな価値を生み出し提供する店舗として、“パンのある暮らしの豊かさ・楽しさ”を届けている。
〈広島人のソウルフード・ローカル飯〉
1948年、高木俊介(たかき しゅんすけ)・彬子(あきこ)夫妻と従業員2名で広島市比治山本町にて創業、1951年に「株式会社タカキのパン」(のちに「タカキベーカリー」と改名)を設立。その後、社運を賭けて訪れた欧米視察でデニッシュペストリーに出合い衝撃を受けた同氏は、1967年にベーカリーとレストランの複合店「アンデルセン」(現・広島アンデルセン)を広島市中区本通に開店した。
「本物のおいしいパンを届けることで、食事を楽しく、暮らしを豊かにしたい」という信念を持ち続けながら、広島アンデルセンを旗艦店とし、「アンデルセン」「タカキベーカリー」「リトルマーメイド」の3つを主要ブランドとする事業を全国、そして海外へと広く展開している。
お手本はデンマーク。パンがもたらす幸せを提案
広島、本通商店街の真ん中に位置する「広島アンデルセン」。1925年に旧三井銀行広島支店として竣工、被爆後に改修された建物を購入し、1967年にオープンした。“旧(ふる)いものを活かし、その中から新しい商売をする”という点は、創業者がオープンに合わせて行った、欧州視察中に立ち寄ったイタリアの洋菓子店からヒントを得たのだそう。“旧い建物”を生かしながら、店内ではこだわりのパンをはじめとし、パンを楽しむための食文化を発信している。
広島で地域の人と共に長く歩んできた同店だが、老朽化・耐震性の問題から建て替えが決定。2016年に営業を終了した後、2020年に約4年の建て替え期間を経て、待ちに待った“新・広島アンデルセン”が誕生した。
1Fは「ベーカリーマーケット」と位置づけ、約100種のパンとパンに合うデリカテッセン、ワイン、チーズなどを用意。さらにスイーツや「ジャン=ポール・エヴァン」のチョコレート、フラワーまでを展開し、テーブルを彩る諸々の品々を広く取り扱う。
これほどまでに長く大規模にグループのパンが愛されているのは、創業当初より“本物”にこだわり続けてきたから。戦後まもなくの創業初期は、配給された小麦粉を預かりパンに加工する委託事業を行っていたが、量は少なくなっても、きちんとふるいにかけて外皮や不純物を取り除き、口当たりの良いパンを焼いていたという。
手間をかけたパンは次第に評判となり、人々に喜ばれ「どんな時代でも求められるものは本当においしいもの」という事実に気付かされたそう。さらなるおいしさの追求として現在も続けているのが、蓄熱性の高い石窯の導入だ。グループ事業でも多く採用しているほか、広島アンデルセンでは世界中の窯の中から選んだルクセンブルクの石窯を用いている。
パンの専門家・ブレッドマスターがおすすめする看板商品
とにかく種類が豊富なので商品を選ぶのに迷ってしまうが、ここでぜひ相談したいのが、店舗に在籍しているパンの専門家・ブレッドマスター。アンデルセン独自の資格制度で、研修を経て資格を取得したスタッフは、麦の穂をデザインしたバッジを身に着けることができる。パンの製法や素材、味の特徴、おいしい楽しみ方や保存方法にいたるまで、気軽に相談に乗ってくれるのでぜひ尋ねてみたい。今回は、特に人気のパンをいくつか紹介してもらった。
the Bread
グループ内農場で育てたライ麦の発酵種と、アンデルセン・デンマーク店の発酵種をかけ合わせて生まれた自家製発酵種を用いるthe Breadシリーズ。ハード系にカテゴライズされる9品のうち、代表格となるのがこちらの「the Bread」だ。飽きのこないシンプルな味わいで、噛むほどに小麦の香りと甘みを堪能できる。好みの厚さにスライスしてもらえるので、スプレッドやパテと合わせていただきたい。
デニッシュペストリー
創業者がデンマークのホテルの朝食で食べて心を動かされたという「デニッシュペストリー」は、その後3年間の試行錯誤を経て、1962年に同店が日本で初めて発売した思い入れのある品。
発売当初から愛されてきた“アンデルセンと言えば”の定番のパンで、数種ある中でも二枚看板は、卵とミルクのカスタードクリームにアーモンドの香ばしさが引き立つ「スパンダワー」と、マジパンを隠し味にした爽やかな風味の「ダークチェリー」。ほか、季節の果物を使ったデニッシュもそろうので食べ比べるのもおすすめ。