お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第31回は、上質で洗練されたお店が集う、東京・仙川のスイーツスポットを紹介します。
【猫井登のスイーツ探訪31・前編】仙川のスイーツショップを巡る
食べログマガジン編集部
今回のスイーツ探訪は仙川特集ということで、京王線仙川駅に降り立ちました! ずばりどんな街なんですか?
猫井先生
住所としては調布市ですね。桐朋学園の女子部、音楽部門や白百合女子大学といった名門校があり、上品なイメージで、高級スーパーのクイーンズ伊勢丹があったり、オシャレなカフェがあったりとスタイリッシュな雰囲気の街です。「調布の自由が丘」と呼ばれたりもしていますね。スイーツ的にも、いいお店が揃っています。
食べログマガジン編集部
どんなスイーツに出合えるのか楽しみです!
猫井先生
まずは駅を出てすぐにある「仙川駅南」の交差点を覚えてください。今回はこの交差点を起点に、左に1軒、直進方向に1軒、右側に4軒のお店を廻ります。前編では、右側の4軒のうち3軒のお店を訪問しましょう! まずは「食べログ パン 百名店 TOKYO 2020」に選出されている有名店からスタートです。
【1軒め】開店前から行列のできる名物パン屋さん「AOSAN 仙川店」
食べログマガジン編集部
すごい行列! そしてお店の外までパンのよい香りが漂っていますね。店主は、どんな方なんですか?
猫井先生
店主は、奥田充央さん・マキさんご夫妻です。充央さんは、フランス菓子の職人を目指し、神戸のフランス菓子店に就職。その後、ドイツ菓子を勉強するため、東京・吉祥寺のドイツ・スイス菓子の名店「ゴッツェ」に移られます。ゴッツェでは自然酵母を使ったドイツパンを売っていたこともあり、次に自家製酵母パンの草分け的存在の調布「ルヴァン」(現在の店舗は代々木八幡)で修業されます。そこで、同じくルヴァンで働かれていたマキさんと出会い、ご結婚。2006年にお二人でこちらのお店をオープンされました。
食べログマガジン編集部
まず食べるべきはどのパンでしょうか?
猫井先生
まずは「幻の食パン」とも呼ばれる「角食」(角型食パン)でしょうね。
食べログマガジン編集部
「幻」って、どういうことですか? 製造量が少ないとか?
猫井先生
平日で100斤、週末は120斤製造されると聞いていますが、開店前からこの行列ですからね。あっという間に売り切れてしまうということでしょうね。
食べログマガジン編集部
食パンが一番人気って、高級食パンじゃないパン屋さんだと珍しい気がするのですが、どうしてそんなに人気なんですか?
猫井先生
こちらのお店では、いろいろな素材を加えるのではなく、長時間かけて発酵することで生地をおいしくする方法をとっていて、それが支持されているということだと思います。その長時間発酵生地の代表格が「角食」なんですね。仕込んでから焼き上げるまで、3日間かけていると言われていますから。
食べログマガジン編集部
3日も!
猫井先生
まずは種を起こして一晩冷蔵発酵させ、翌日にミキシングをして、冷蔵庫でもう一晩発酵。翌朝に分割・成型をして焼き上げるそうです。手間ひまかけて作られた「角食」は、しっとり、もっちり。そのままでも、焼いてもおいしく食べられるように作られていて、粉の旨味が感じられ、サンドイッチにしても具とよく調和します。
食べログマガジン編集部
買ったらまずはそのままかぶりつきたいですね! 角食以外にはどんなパンがおすすめですか?
猫井先生
個人的にはタルト類が気に入っています。名店「ゴッツェ」の味わいを継承するハイレベルな味わいです。あとは菓子パン類。今の季節だと、マロンペーストとマロングラッセを巻き込んだ「マロンロール」はいかがでしょう? 甘めの生地がお好きな方は、菓子パン生地で作られた、細長い形の「キャトル」がおすすめですね。
猫井先生
こちらのタルト類も菓子パン生地も、あっさりとした味わいでしつこくなく何個でも食べられる感じで、リピーターが多いのも頷けます。