町の人に愛される個性的でチャーミングなパン屋さんを巡る新連載がスタート。地域に根ざした“町のパン屋”から垣間見ることができる、その土地ならではのライフスタイルや魅力とは。第1回は、横浜・白楽「Le mitron(ル・ミトロン)」へ。若きオーナーのこだわりが詰まったパンと一緒に白楽駅周辺の魅力にも迫ります。

【おいしいパンのある町へ】

Vol.1
神奈川・白楽「Le mitron(ル・ミトロン)」

ウッドを基調とした趣のある店内。店主こだわりのアンティークのインテリアにパンがディスプレイされる。おしゃれ雑貨店を連想させる空間は、一歩足を踏み入れた途端に心躍る。

駅より徒歩14分の立地ながら、オープンとともに人が殺到

横浜で古くから栄える「六角橋商店街」を通り抜けた先、横浜市神奈川区の閑静な住宅街・神大寺に、地元の人が足繁く通う人気のパン屋さんがあるという情報を入手。最寄駅は東横線の各駅停車駅「白楽」。さらに駅から徒歩14分という決して便利ではない立地ながら、週末には500人以上、平日でも300人もの集客を誇るという。
ある女性は隣街から自転車で、あるおばあさんはシルバーカーを押しながら。地元の人以外もここでしか買えない絶品のパンをもとめてやってくるそう。幅広い人を魅了するその吸引力の秘密を探るべく、まずはオーナーの大場知幸(おおば・ともゆき)さんにインタビュー。

地元・横浜で、パン屋を開きたい

白楽からほど近い街・大口で生まれ育ち、高校を卒業するときには「いつか必ず地元・横浜で、自分のパン屋を開いてみせる」という目標を掲げていたという大場さん。パン屋でのアルバイトを経て、パン屋の起業を専門とするコンサルタント会社に就職。パン作りの技術と運営のノウハウを身につけ、30歳を目前とした4年前に「ル・ミトロン」をオープンした。今では店から徒歩1分の場所にスープ専門店「ル・ミトロン・カフェ」、さらに白楽の駅前と大口の住宅街にコッペパン専門店「ル・ミトロン・コッペ」の4店舗を展開している。

アウェイからスタートしたパン作り

「知り合いのパン屋のオーナーからタイミングよく、ここのテナント情報を入手したのがこの場所にお店を構えたきっかけです。駅から離れているのは気になりましたが、人通りが多く、大通りに面しているというのが決め手になりました」。周囲に店舗が少ないことから、なかなか地域との関わりが生まれず、オープン当初は頭を悩ませたという。「このままではよくないと、街の人と交わるイベントを開催することを思い立ちました。そこで始めたのが、毎年恒例の夏祭り」。
「店先にスーパーボールすくいや、かき氷の屋台を開くことで、少しでも街のみなさんに楽しんでもらえたらいいな、と。パン屋は地元の人に愛されないといけない、というのが僕のモットーなので」。そんなアイデアは住宅街に住む子どもたちから大好評となり、今では「今年はいつ開催するの?」という声がかかるほどだとか。

“地元の人から愛されるパン”のための、終わりなき旅

自発的なイベントを通して少しずつ地域の人との親睦を深めていく過程で、街の人のリアルな声に耳を傾けながら、その答えを探していった大場さん。その思いがどうパン作りにも反映されているのか。人気商品とともに、その魅力をご紹介。

リピート率No.1! 小麦にこだわった「神大寺トースト」


「菓子パンや惣菜パンは、毎日食べるとどうしても飽きてしまう。だからこそ日々の食卓に並ぶ食パンは、徹底的にこだわっています」。
圧倒的な人気商品だというベーシックな食パン「神大寺トースト」は、カナダ産の最高級小麦を使用。麦を大胆に削り、やわらかな中心部のみで作られた贅沢な小麦により、雑味のない上品な味わいに仕上がっている。一斤250円

具材たっぷり!不動の人気を誇る、こだわりの「自家製カレーパン」


100種類以上の豊富なバリエーションを誇る菓子パン・惣菜パンのなかでも群を抜いて支持を得ているのが、具材がたっぷりと詰まったカレーパン。「前日から肉に下味をつけて、丸1日かけてコトコト煮込んだカレーは、自分でもかなり自信を持っています(笑)」。
「ただ、あまりの重労働に、一度は中止しようと思ったことも。でもこれを求めて来てくださるお客様のためにも、続けていくことを決心しました」。野菜や肉の食感をほどよく残しつつ、丁寧に煮込まれたフィリングは、カレー専門店にも勝るコクが。190円

男性客の心を掴んでやまない、ボリューミィな惣菜パン


主婦やOLなどの女性客が大半を占めることが主流だというパン屋の傾向に反し、多くの男性ファンを持つ「ル・ミトロン」。その理由は、オーナー自身が好きな食材を活かした惣菜パンにあると語る。
「個人的に、胃にガツン!とくる惣菜パンが好きなんです。ソーセージも大きく、とびきりジューシーなものを選び、チーズやベーコンなどもたっぷりと盛っているのが、うちの商品の特徴。これを目当てに通ってくださる男子学生や独身男性が、たくさんいます」。(右)ソーセージ280円(左)ラタトゥイユ280円

老若男女から愛されるコッペパンサンド


コッペパンで最もこだわったのが生地のしっとり具合。「もともと、コッペパンが苦手だったんですよ。小さい頃に食べていたコッペパンの、生地のパサパサ感が……。そんな苦い思い出もあり、しっとりとした生地のコッペパンにチャレンジしました」。

「とくにご年配の方は、コッペパンに目がない印象です。幼い頃に給食で食べていた記憶がよみがえり懐かしいのかもしれません」というオーナーの言葉通り、取材中も年配の人たちが続々とコッペパンサンドを購入する場面に遭遇。孫とともに好きな具材を選ぶ光景がなんとも微笑ましく、世代を超えて愛されることがうかがえる。

本格的なフランスパンやデニッシュと、日本で古くから親しまれる素朴な味を並列させるオーナーのバイタリティが、地元の人はもちろん近隣の老若男女を惹きつけるのかもしれない。(右から)タルタルフィッシュコッペ190円、牛肉コロッケコッペ150円、焼きそばコッペ150円、チキン南蛮コッペ190円
なお、コッペパンの好評を受けて、白楽と大口でコッペパン専門店「ル・ミトロン・コッペ」をオープン。時間があれば立ち寄ってみては。

 

大場さんに聞く、白楽の一押しグルメ

白楽の六角橋商店街に構えるコッペパン専門店と本店を行き来する合間で、昼食を取るのがルーティーンだという大場さん。ジャンキーな食事が好きだという彼が「白楽に来たら、絶対に行ってほしい!」と絶賛する、2店舗を教えてくれた。

白楽駅前の名物グルメ「六角橋 焼小籠包」

「地元の人で、知らない人はいないんじゃないかな」という、六角橋商店街屈指の名店。カウンターのみの小さな店構えながら、連日行列が絶えないのだそう。「その名の通り、焼き小籠包の専門店。じゅわっと溢れ出す肉汁が、たまらないんです。何個でも、ぺろっと食べられちゃいます」

神奈川大学の学生が押し寄せる「ラーメン 末廣家」

横浜名物“家系ラーメン”の人気店が軒を連ねる白楽で、オーナーが太鼓判を押すのがここ。「一時はハマりすぎて、毎日のように通っていましたね(笑)。食べるのは、チャーシュー麺一択。初めて食べた時は、こんなに美味しいチャーシューがあるのか!と衝撃を受けました。もちろんスープも絶品です」

もっと知りたい白楽の“おいしい”

食べログでキャッチした、白楽のグルメ情報はこちら
取材・文:中西彩乃
撮影:山本マオ