駅そば しらかみ庵

地方を巡る時、必ず駅そばには寄るようにしている。意外な発見があるからである。秋田駅の改札外のコンコースにも、秋田の駅弁店「関根屋」が展開する駅そばの店「しらかみ庵」があった。
店頭に立ってメニューを見ていると、不思議な文字が目に入ってきた。「ぎばさ」。怪獣の名前か? これは、海藻のことだった。海藻の一種であるアカモクを、秋田の人はこう呼び、愛しているのだという。これはどうあっても入って、食べなくてはいけない。
これから昼ごはんを食べる予定だというのに、無視して店に入り、温かい「ぎばさそば」を頼んだ。

かけそばの上には、濃い緑色で粘り気のある“ぎばさ”がたっぷりとのせられている。
まずつゆを一口飲んでみた。甘めのつゆである。次にぎばさとそばを、ひとすすりする。ぎばさのぬるぬるが、そばと一体になって、口元に登ってくる。
ぬるぬる、ずるずる、とろんとろん。
ぎばさの粘りが、唇、歯、上顎、舌、喉を通過していく。その中を細いそばが通り抜ける、この食感がなんとも心地よい。最近、人間は粘るものに対して、おいしいと感じるセンサーがあるという説があるらしいが、まさにそのセンサーを刺激しているではないか。ぬるぬる、ずるずる、とろんにハマり、一気に食べ終えた。
しかし丼の底には、食べ逃したぎばさとそばの破片が残っている。これを最後にずるると飲む。するとまたあの心地よい粘りが口を満たし、笑ってしまうのだった。
実はこの「しらかみ庵」には、もう一つの名物があった。「稲庭『生』うどん」である。秋田名物の稲庭うどんを出す店は、市内に多くあるが、そのほとんどが乾麺であり、生を出す店は珍しい。910円は、駅そばにしては高価だが、追加注文した。しつこいようだが、これから昼ごはんを食べるというのに、追加注文をした。

白く輝くうどんが、ざるに盛られて、登場する。乾麺の艶とは違う、しっとりとした輝きがあって「早く食べてね」と、誘いかける。濃いつけ汁におろし生姜とネギを落として味を締め、稲庭うどんをつけて食べる。
つるるる。つるるる。
稲庭「生」うどんは、唇に優しい。ふんわりと唇をさすりながら口の中に入ってくる。そして、10回ほど噛めば、消えていく。うっすらと、麺自体に甘みがある。時折硬い麺があり、20回ほど噛むこともあるのが、生うどんらしい。これもその食感を楽しみながら、一気に食べ終えた。
やはり、地方の駅そばは、楽しい。




