秋田でマッキー牧元さんの心を打った2軒とは?
とんかつ咲々

「明日の昼、マッキーさんにぜひ行ってもらいたい店があるんです」と、秋田の名店「日本料理 たかむら」の高村さんに言われた。店名は「とんかつ咲々」という。
「電話入れておきますので、たかむらセットを食べてください」。高村さんは、このとんかつ屋に何度か通ううちに、一番ベストな組み合わせを考えたのだろう。
翌日、タクシーに乗り、郊外にある店に向かった。街道沿いとはいえ、住宅街中に、ぽつねんと佇む店である。
「たかむらセットをお願いします」
そういうとご主人はニヤリと笑って作り出した。
やがて、現れしたかむらセットは、海老フライ、クリームコロッケ、ヒレカツの盛り合わせで、脇にはミニカレーが添えられている。

こりゃあ、大人の「お子様ランチ」ではないか。
「わぁ」
出された瞬間、童心に戻って、思わず声を出してしまった。
まず屹立した海老フライがいい。海老フライというものはやはり真っ直ぐでなくてはいけないという哲学が貫かれている。
すくっと伸びた海老フライの尻尾が天を指し「さあ、頬張って」と、ささやきかける。たまらず、なにもつけずに齧り付いた。
くりっ。
痛快な歯応えで海老は弾け、ほんのりと甘いエキスを流す。塩をかければ、さらに甘みは増し、タルタルをつければ、ご飯が恋しくなる。
そのまま海老フライを全部行きたかったが、ぐっと我慢してヒレカツへと行く。細かい衣を纏った一口ヒレカツを、素のままで齧る。揚げ切りがいい。油切れよく、衣はカリリと音をたて、歯は肉にめり込んでいく。次は塩、次はソースと練り辛子をつけ、ご飯で受け止める。
さあ、次はクリームコロッケである。クリームにほんのりと海老の香りがあって、優しい。こいつは、半分食べてから残りの半分は、高村さんの教えに従い、少しつぶしてご飯にのせ、タルタルをかけた。即席ドリアである。ご飯と一緒に頬張れば、一人で笑いを堪えている、変なおじさんが生まれた。ああうまい。
再び海老に戻り、タルタルにレモンを搾ってかけ食べ、辛口ソースもちょいと垂らしてみたが、海老が負けていない。

さあ最後はミニカレーといってみよう。これは半分残しておいたヒレカツと合わせ、ミニカツカレーである。カレーはキャラメル香がきいていて、好物の湯島「デリー上野店」のカシミールカレーに似ている。そういえば赤坂「とんかつ まさむね」の名物カツカレーも、カシミールを目指していますといっていたな。
カレーは辛い。だがこの甘い香りが、とんかつと合うのだな。
厨房を見れば、折しもご主人がロース肉の塊を取り出し、掃除をしはじめた。真空パックではないようである。そこも信頼できる。ご飯も味噌汁も、キャベツも上出来。
次回はロースカツを頼もう。ちなみに、この盛り合わせセット、メニューにはない。高村さんが通って編み出した、この店の最適解なのであった。


