【噂の新店】「mærge」

白金で人気絶頂だった「ラ クレリエール」の柴田シェフが店を閉めて1年余り。休業期間は国内外を旅して海外のシェフとコラボレーションしたり、自身の目と舌で食材を集めたりと充電もバッチリ! 世界一のレストランカンパニーになるという夢を叶えるために「mærge(マージ)」が南青山にオープンしました。

「ラ クレリエール」から「マージ」へ

「約束の庭 クレリエール」と名付けた庭を抜けるとエントランスが

表参道駅から7〜8分歩いた先の静かで穏やかな時間が流れる地、そこに溶け込むように佇むのが「mærge(マージ)」です。店名は余白、額縁を意味する「marge」と、融合を意味する「merge」を重ね、“まだ名もない素材にも額縁をかけ、食材と食べ手のあたらしい関係をつなぐ”との思いが込められているそう。

「名もない食材に光をあてる」と語る柴田さん

オーナーシェフは柴田秀之さん。「レストラン モナリザ」でプロの料理人としての人生をスタートさせ渡仏。帰国後はいくつかのフランス料理店に勤めてから再び「レストラン モナリザ」へ戻り、丸の内店、そして恵比寿本店で料理長を務めました。2016年に独立し、白金に「ラ クレリエール」をオープンします。6年連続で有名グルメ本の星に輝き人気を誇っていましたが、三つ星を獲得して世界一のレストランカンパニーを目指すため1年ほど休業し、2025年「mærge」と名前を変えて南青山にオープンしました。

木の温もりを基調としたメインダイニング

柴田さんが一から作りあげたのは「木」「火」「土」「金」「水」を表す自然哲学である「五行」をコンセプトにシンプルな贅が散りばめられた空間。メインダイニングは高い天井、R壁の弧にリンクした丸テーブル、その曲線に合わせた椅子がやわらかな印象を導きます。真っ白なテーブルクロスのみで色は料理で表現するのだと予感させます。

テーブルは樹齢300年のクラロウォールナット材

個室は職人が手作業で一枚ごとカットしながら貼った壁がアメリカのセドナの掘削した岩肌を表現し、照明はメキシコのセノーテにあるような水中鍾乳洞に光が優しく降りてくる様をイメージしているそう。光と岩が交錯する空間は神秘的で心が落ち着きます。どこにいても思いやこだわりを感じられ、レストランとして何を表現したいのかが見えてきます。

食材の価値を上げる珠玉の料理

ふわっと湯気がたちのぼり、バターの香りが漂います

こちらでは11品のおまかせコース(36,300円・税込)を提供しています。前菜の後に供されるのがこちらの「カレ・ド・ブール」。四角いバターという意味のこの料理、主役はバターをたっぷり使った焼きたてのクロワッサンです。

オシェトラプレミアムキャビア、スペイン産チョリソー、梅山豚のリエット、発酵クリーム、赤玉葱のピクルス、24ヶ月熟成のコンテチーズ、6種類のハーブサラダ

ワゴンの上にはキャビアやチョリソーが並び、好みのものを選んでクロワッサンの上にのせてもらいます。「選ぶ楽しさをどうやったらコースに入れられるか」と考案したそう。

「カレ・ド・ブール」

悩んだ末、すべてのせてもらうことに。それぞれの味が主張するかと思いきや、ほんの少しリエットの残り香を感じるくらいですべてが調和しています。一口サイズながらもクロワッサン独特の食感とバターのうまみをしっかりと味わえます。

薪火を操る上岡彰彦シェフ

厨房では次なる料理の準備が始まっていました。温度の管理が難しいとされる薪火。焦がさず焼くには炎をあげないことが大切だそう。「パンデロロメインレタス」は時間をかけてしっかりと焼き上げ、香りづけに少しだけ焦げ目をつけます。食材を見て、ポテンシャルを損なわずに最適な焼き加減に仕上げる上岡さんの技術に圧倒されます。

「海洋深層水を撒いた畑で育ったパンデロロメインレタスのグラデーション」

薪火でつけた焦げ目の苦みから徐々にミネラル感たっぷりの瑞々しさへと味の変化を楽しんでいると、ロメインレタスの下からホヤのリゾットが顔を出し、ホヤの肝とタプナードを混ぜたソースとペコリーノチーズがうまみを、パッションフルーツのエキュームが酸味をというように味をつなぎます。「素材そのものの味からソースやリゾットが加わって初めて“料理”となります。料理をする意味は最後に詰まっている、という一皿です」と柴田さん。

腕を振るう渡邊 丈人さん

渡邊さんがジャガイモのクレープを焼き始めました。クレープと言うよりは小さいパンケーキという感じの「クレープ・ヴォナシエンヌ」は43年間三つ星を獲得し続けたジョルジュ・ブラン氏の祖母であるエリザ・ブランさんが考案し、フランス・ヴォナにある「ジョルジュ・ブラン」に長年受け継がれている料理です。

甘い香りがたまらない

柴田さんはフランス料理ではほぼ使われることのない鱚でこの伝統料理をアレンジ。生地にはしっかり火を通しますが鱚の中心はレアに仕上げるという高い技術で焼きます。

「鱚とジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース」

「トリュフ料理はポール・ボキューズシェフの『トリュフのスープ』のように世界のトップシェフのシグネチャーディッシュとして存在しています。この料理がそういう存在になるように」と思いを語ります。溶けるような食感のクレープと鱚にクリーミーで豊潤なソースが絡む、心震わす一皿です。

「食材の調理法を第一と考えます」と奥村シェフパティシエ

シェフパティシエは「タテルヨシノ」「Q.E.D.CLUB」などで研鑽を積んだ奥村充也さん。アダムとイブが登場する「エデンの園」からインスピレーションを得たこのデザート、リンゴの火入れが肝だと話します。

「禁断の果実」

真っ白な皿の上に真っ黒いリンゴと真っ赤な液体というインパクトの強いデザートに、これは一体何だろう?と興味津々。食べてはいけないとわかっていても手が出てしまう、まさに「禁断」のイメージ!

“こんなの食べたことがない!”

飴を限りなく薄くして作った炭リンゴの中にはタルトタタン、カルバドスで風味をつけたマスカルポーネのムース、ミルクのアイスを詰め、味のアクセントにアダムとイブが身体を覆うために使ったイチジクの葉にちなんでイチジクの葉のオイルを忍ばせています。何と言ってもタルトタタンが圧巻!ですが、その余韻に浸る間もなく異なった香り、食感、温度、味が次々と現れては口中を喜ばせるのです。こんな小さなデザートがこれだけ大きな感動を与えるとは!

志高い最高のチームで世界一のレストランカンパニーを目指す!

シェフ一人ではなくチームで夢を叶える

「柴田の最大出力とレストランの再定義、これが今『mærge』でやろうとしていることです。考えたのはこの一皿を作るにはこれくらいの人数が必要で、その人数が働くにはこの規模の厨房が不可欠となる。すると店はこれくらいの広さとなり、それを運営するにはこのくらいの経済力が必要だということでした。つまりどんな店を作りたいかではなく、この一皿にはどんな店が必要かだったのです。

“完結しない美”を残す空間がここにあります

また、欲しい食材が手に入らなくなっている現状を打破するために生産者のビジネス設計にも携わっています。26年間料理人をやってきて、おいしいだけでは世界一のレストランカンパニーになれないことを理解したので、これから『mærge』が目指すのは三つ星を獲ること、ファインダイニングの食体験でトップになること、お客様に満足していただくこと、この3つです」と意気込みを語ります。前人未到の偉業を成し遂げ、5年、10年、15年、そして100年後の壮大な夢を叶えるために「mærge」は走り続けます。

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文:高橋綾子 撮影:八木竜馬