イタリア料理 アンジェリーノ

「こんにちは。いらっしゃいませ。お待ちしておりました」。店の扉を開けると、梅山シェフが快活な声で出迎えてくれた。シェフを見た瞬間「ああ、ここはおいしい」と、直感した。シェフの体から「おいしい」が滲み出ている。おいしいもんを追求して食べてきました、という幸せオーラが笑顔から滲み出している。

1皿目のスープから、心を掴まれた。ほのかに黄色がかったスープは、どこまでも穏やかである。まろやかなうまみの中から、独特の香りが漂っていた。
群馬県高崎市にある「榛名めん羊牧場」で育てられるラムの骨と肉でとったスープだという。穏やかさとクセのある香りの抱擁は、他にはない個性を生み出していた。

「プリモピアット」(はじめに提供される料理)は、名物のクスクスをお願いする。
最初に何気なく、クスクスだけを食べて目を丸くした。旨みのような、甘みのような味がほのかに潜んでいて、それが心を柔らかくもみほぐす。
「僕がトレヴィーゾで働いていた時にチュニジア人がいて、彼から教わったやり方で作っているんです」
クスクスは普通、湯で蒸すが、それを先ほどのスープでさらに蒸していくのだという。それにより淡い味がクスクスにつく。そんなクスクスが、先ほどの羊や野菜の煮込みの優しさと共鳴する。

続いて、メニューで見つけてどうしても頼みたいとお願いした「スパゲッティ・アッラ・ブッテラ」が運ばれた。一見トマトソースのスパゲッティである。
「イタリアの下宿先のマンマに教わったんです。あまりにもおいしく、なぜレストランにはないかと尋ねたら、これは家庭料理だから出さないのよって教わりました」
濃い。トマトソースの味を親しみやすく濃くした感じである。卵黄とグラナパダーノを混ぜ合わせ、トマトソースと分離しないよう合わせたものだという。コショウのないカルボナーラのトマトソース版といったところか。
アマトリチャーナとカルボーラの結婚か。
目をつぶれば、太ったマンマとシェフが大笑いしながら食べている姿が浮かんできた。

メインは「9歳のマトンのミスジ肉のロースト」である。新玉ねぎが添えてある。9歳のマトンだというのに臭みがない。よく動かしていたのだろう。前足の肉は旨みが強く、噛む喜びに満ちていた。

最後は、22度も糖度があるという「あまい雫」といういちごと、奥様が作った「アップルパイ 紅茶のソース」をいただく。甘みの中に酸味が利いて、生地もしっかりと焼き込まれた上等なアップルパイである。
地元を愛し、食材に敬意を払って作るイタリアンに出会えてよかった。




