体験型の食空間「nôl」が伝えたい思いとは?

キッチンと客席がフラットになった一体感がある空間

「nôl」の店内は、色彩のトーンもデザインもシンプルで統一されている。客席は、調理シーンのすべてを見渡すことができるカウンター席のほか、料理人が生産者の思いを汲み取って丁寧に説明してくれるテーブル席を用意。

スタイリッシュで洗練された印象のキッチンだが、シグネチャーメニューに欠かせない野菜の端材を乾燥させるディハイドレーターが置かれていたり、キッチンの裏手には微生物が生ゴミを分解することで堆肥に変えて資源化するコンポストを活用したりと、環境への取り組みがうかがえる。食後には、キッチンツアーも開催しており、食事を超えた実体験としての記憶にも刻まれる。

まさに、食事を文化や芸術のレベルで考える「ガストロノミー」という概念を体現した店だ。

野田氏が日本を離れている時も、丹野氏と密に連絡を取り合っている

「十数年前までガストロノミーは、いわゆる高級レストランだけの用語だったのが、今はガストロノミーツーリズムとか、ガストロノミーサイエンスとか、領域が広がってきています。でも元来ガストロノミーはそういうものでした。その地域の特性や習慣、文化なども含めて食体験できることをガストロノミーと位置付けたはずが、人間の豊かさや便利さを求める中で分断されてしまい、目の前の完成された料理からその背景にある生産者の方やそれに紐づく環境のことを想像しづらくなってしまいました。そうやって分断されてしまったものをもう一度接続し直すようなきっかけになったらと。そのためにも、レストランの取り組みとしても領域を広げてさまざまなジャンルの方と意見交換し、越境協創できたらと考えています」(野田氏)

非日常へ誘うような「nôl」のエントランス

「nôl」が店を構えるのは、馬喰町駅や浅草橋駅、小伝馬町駅から徒歩圏内にあるDDD HOTELの1階。ホテルのエントランスを入って左手にレストランの入り口がある。店名の「nôl」とは、レストランが掲げるテーマである「normalize」(正常化する)からの造語。食の本来あるべき適切な姿をゲストに教えてくれる。

ちなみにホテル内には、“Look at coffee in a different light”をコンセプトにした「Cafe & Bar abno」があり、こちらも野田氏のプロデュース。対をなすような遊び心を感じるネーミングだ。デザイン、食、アートなど、さまざまな分野の個性が集うコレクティブ・ホテルであり、“本当に必要なものを、必要な分だけ、最高の品質で”というコンセプト。「nôl」のディナーの余韻に浸りながら、DDD HOTELに宿泊するのもいいだろう。

「nôl」での食事を体験すると、食への向き合い方が変わるのではないだろうか。インタビューの中で「まずは畑に行って土に触れてほしいですね」と語っていた野田氏。おいしさを感じた次の動きに繋がるきっかけを与えてくれる一軒でもある。

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取材・文:外川ゆい 
撮影:大谷次郎