〈「食」で社会貢献〉
2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。
今回訪れたのは、通常では市場に流通せず破棄されてしまう規格外野菜や未利用魚をおいしく活用した料理を提供することで、フードロス削減に貢献している「もったいない食堂」。三浦海岸に近い住宅街にあり、2階のテラスから海が見える開放的な空間も魅力の食堂だ。
スタートは「もったいない野菜をなんとかしたい」との思いから

「遡ると、子どもの頃から青果店に近所で採れた野菜が売っていないことに違和感があったんです」と語るのは、オーナーの西村まさゆきさん。
大人になり、農家を継いだ友人の祖母にその疑問を投げかけたところ、農産物は流通のための規格に合う「規格内野菜」と、その基準を満たしていない「規格外野菜」とに選別されていること。また規格外野菜は売り物にならないため、ほとんどが破棄されていることを教えてもらったという。
「全国共通の規格を設けることで、決まったサイズの段ボールの中に、サイズも品質も一定の野菜が何個入っているかが箱を開けなくてもわかる。つまり取引する上での信頼ですよね。これにより買う側は安心してオーダーできるし、農家さんもたくさん買ってもらえて安定した収入が得られる。消費者にも農家にもちゃんとメリットがあって悪いことではないんです。ただ、その一方で弾かれてしまうものが出てくる。規格外と言っても、形がちょっと不揃いだったりするだけで、味や品質は問題ないので捨ててしまうのはもったいない。それも売れたらもっといいんじゃないの?と考えたのがスタートでした」

そこでまずは、友人とともに規格外野菜を回収して販売する事業計画を立てた。しかし、野菜を無料で譲ってもらえるとしても、運搬費や人件費など、必要経費を加味して価格設定をすると、スーパーよりも高い値段になってしまうことが判明。
「SDGsの意識が広まった今なら売れるかもしれませんが、それをやろうとしたのは10年ほど前。この値段で買う人はいないと判断し、泣く泣く断念しました」
それでも、規格外野菜をなんとかしたいという思いは沸々とし続けていた。やがて2020年にコロナ禍でキッチンカー販売の補助金が支給されることを知り、新たな考えが浮かぶ。
「高い野菜は売れなくても、料理なら買ってくれる人がいるんじゃないかと。さらにキッチンカーなら設備投資も少なく済むということで、2021年に青空レストランのような形でオープンしました」
その時から、コンセプトに共感した現在の料理長・安斎敦郎さんが調理を担当することに。
キッチンカーはすぐに評判となり、翌年には固定店舗での販売に移行、さらに規模を拡大して2024年8月に現在の場所に移転した。

こうして、念願だった規格外野菜の販売が、料理を提供する形でついに実現。その時からルールを決めて実践しているのが、野菜は無料で提供してもらうのではなく、農家さんに決めてもらった値段で買い取るということ。
「それを成立させるために、お店から10分圏内の距離にある農家さんに限定して取り引きすることにしました。回収のための経費や、仕分けしてもらう手間や時間をかけることなく、農家さんが“今日あるよ”と連絡をくれた時にすぐに取りに行けるように」

近隣の農家や畜産などの生産者、漁師など、理解して協力してくれる人が少しずつ増え、最近では自ら届けてくれることも増えてきたそう。
「量も値段もわからない状態で仕入れることも多く、正直怖い部分もありますが、基本的には言い値で全量買い取っています。もちろんそれは、食べに来てくれる人たちがいるから。ただおいしい料理ではなく、コンセプトをきちんとお客様に伝えることで、ちょっと高い定食でもそれが生産者さんのプラスアルファの収入になっているとご理解いただいています。協力したいと思っていても、これまでは接点がなかったとおっしゃる方が多いですね」