「甘いもの好き」以外の心もとろけさせる魅惑のデセールコースとは?

富士山麓のいでぼく牛乳を使ったミルクプリンとジェラート(22,000円〜のコースの一例)。ガラス作家、杉江智氏の器も涼やか

よほどの甘いもの好きでない限り「徹頭徹尾デザート」というのは、なかなか想像しがたい世界ではあるが、室岡さん自身も甘党ではないと言うように、コースはデセール尽くしでありながら、なんとも季節感にあふれた軽やかな仕立て。6品前後が供されるコースは22,000円でノンアルコールのペアリングも含まれる。

ミルクプリンを半分食べたところでプロヴァンスのオリーブオイルをかけて。雑味がまったくないピュアな風味が、すこやかな牛乳の甘みを引き立てる

季節や使う食材によって値段が若干変動するのは、フルーツをふんだんに使うというのもひとつの理由。「日本の四季を目や舌で感じてもらえるように」構成されるコースは、室岡さんが生まれ育った静岡県の朝霧高原から届けられる「いでぼく」の牛乳を使ったデザートからスタートする。

1皿目を味わうと、そこに感じるのは生産者やその食材が育まれる“背景”への慈しみと感謝の心。そこに丁寧に自分のアイディアと繊細な技術を重ねる室岡さんの哲学が見える。

長谷川氏も驚嘆した水カカオ。カカオのなかでも超希少品種と言われるパカリというメーカーのアリバカカオと深煎りコーヒーのさわやかな苦みを生かした逸品

次の品への期待に胸を膨らませていると、ネーミングにも心惹かれる水カカオが登場。これは、長谷川稔シェフも絶賛したという室岡さん渾身の“スペシャリテ”でもある。「水のようにすーっと体に入っていくイメージです。エクアドル産のアリバカカオという希少品種のカカオを使い、かき氷の部分はコロンビア産のコーヒー豆をグラニテにしています」

ローストしたカカオ豆を水に漬けこみ、エキスを抽出。寒天でゼリー状にしたもの、ローストして砕いたカカオニブ、カカオの余韻が長いジェラート、カカオパルプを練りこんだチュイル、コロンビア産のコーヒー豆を使ったグラニテのハーモニーに心酔

口の中がさっぱりとリフレッシュされる茨城の小玉スイカを使ったデセールが。ココナッツのムースとスイカのジュレの組み合わせは、暑い夏にこそ冴える味わいだが、ペアリングの自家製すいかソーダと合わせると爽やかさが倍増。フルーツ使いを得意とする室岡さんらしく、スイカに合わせてすだちのジュレも加えるセンスにも脱帽。

スイカ。写真は茨城県の高島農園で育てられるあんみつ姫という品種を使用。スイカの青っぽさとココナッツムースのコンビネーションに夏を感じ、晴れ晴れとした気分に

「Haruka Murooka」では、メインのデセールが2種類登場する。ひとつはさっぱり、もうひとつは濃厚と風味の濃淡をつけることで、コースのストーリー性もさらに際立つ。途中で野菜を使った一品を入れることも。こってりとした甘さだけではなく、甘みの多面性を感じてほしいという思いが伝わるのが、茨城県産のイバラキングという品種のメロンを使ったパフェだ。バニラのセミフレッドでコクを出しながら、アップルミントとレモングラスでハーブの爽やかさを添え、ヨーグルトでまろやかな酸味を加えたメロンパフェの多層的なおいしさにメロメロになる。

メロン。フルーツ本来の味を大切に生かしながら、ハーブなどを使い、甘みの足し引きを
「メロンがジューシーなので、レモンで風味付けしたタピオカを入れることもあります」。“主役”を引き立てながら独自のセンスを丁寧に重ねる

フルーツを使ったアシェット・デセールは、まるで宝石のような美しさで食べ手の記憶に残るが、今の季節はやはりマンゴー。室岡さんが「とろけるような食感は唯一無二」という宮崎県産の時の雫を贅沢に使った一皿が運ばれた瞬間、カウンターからはひときわ。大きな歓声が起きる。

糖度が高い濃厚なマンゴーは、果肉の甘みを上品に引き立てるココナッツアイスや中国茶のジュレと一緒に。ただ、華やかなだけではない“花も味(実)もある”特別なデセールは、今の時期だけのお楽しみというありがたみも相まって、鮮やかな美味の記憶を心に残す。

時の雫。太陽の恵みに育まれた甘みが凝縮したマンゴーはバラの花に見立てて。盛りつけの美しさに目と心を奪われる

室岡さんの世界観が細部に宿るデセールコースは、60日先までTableCheckから受け付けているが、土日は8月末まで埋まっているという人気ぶり。フルーツ使いの名手とあって、春夏秋冬で違う楽しみがあるのも通いたくなる理由だ。スイーツ好きはもちろん、そうでない人も記憶に残る“甘い時間”を求めて、ぜひ一度足を運んでみてほしい。

※価格は税込

文:小寺慶子、食べログマガジン編集部 撮影:八木竜馬