驚嘆と歓喜! 限界から生まれる唯一無二の一皿

本田:最初やるときにさ、料理の方向性っていうのは、どうしようと思ったの?

鈴木:ないです。方向性と言っても、今できる限界でしかないから。あんまり余計なこと考えてないです。でも絶対的においしいものを作りたい。

本田:料理を作りながら、方向性を作ってきた。

鈴木:作りながらできてくるんです。自分のやりたいこととか、これからやることが。

本田:発酵も最初からやっていたの?

鈴木:少し、やっていました。デンマークで発酵やっていて、面白い技法だなと思ってやり始めました。最初は、機械の使い方もよくわかってなかったので、そんなに上手くできなかったですね。でも、いろいろチャレンジしてるうちに、どんどん今みたいになっていきました。

本田:最初からお客さんは来た?

鈴木:オープンから1回も席が空いたことがないんですよ。

本田:この場所で、何で?

鈴木:最初は全部知り合いです。ピザ屋のときのお客さんが、皆来てくれました。軽井沢や東京からお客さん誰も来なくて。

本田:それで、店は成り立っていたの?

鈴木:最初から1、2カ月先まで埋まったんですよ。オープン当初からずっと今まで、お客さん同じなんです。最初の1,000円ランチの頃に来てくれた人も、今の金額で来てくれる。

本田:それはすごいね。普通はだんだん、お客さんも変わるもんだよね。

鈴木:いなくなる人もいるけど、でも、ほぼずっとオープンしたときからの同じお客さんが来てくれます。

本田:それは珍しい。最初のときに頑張ったおかげで、お客さんが付いているということだ。

鈴木:その延長線ですね。でも、最初の頃は、やっぱり勢いでやっていて、料理も粗かった。いろいろ大変で、全然ダメダメでした。

本田:徐々に今みたいなスタイルになっていった?

鈴木:そんな感じですかね。この先もどうなるか全然わかんないです。今のような料理じゃなくなるかもしれない。

本田:メニュー開発はどうしてんの?

鈴木:毎日ずっとやっています。ずっと考えて、めちゃくちゃ試作しています。

本田:だよね。相当しないとできない。

鈴木:自分の料理には自信があるんです。でも詰めの甘い料理を出したくない。コースは3カ月ごとに変えます。だから使えない食材も実際には出てくるんですね。ピンポイントで1カ月間しか出回らない野菜みたいな食材は使えない。そのときにしかない食材と、そこで閃いたアイディアで作る料理も本当に素晴らしいと思います。けれど、それが本当に自分が納得のいった料理として出せるのかって言ったら、自分は出せなくて。後悔するし、反省して、その素材を再構築していくと思うんです。その作業があまり好きじゃない。全ての料理を今の自分のレベルでちゃんと自分のフィルターを通して出したい。そのこだわりが強くて、ずっとそうしています。

本田:ランチやって、ディナーやって、商品開発する時間はあるの?

鈴木:料理やりながらやっています。仕込みとか朝来て、バーッと終わらせて。皆に仕事いろいろ振って、自分は商品開発の試作をやっています。

本田:営業は週5日で、その中でメニュー開発してる。

鈴木:時間があるからできるもんじゃないですから。時間たくさん取って、皆で集まって、さあ考えましょう。それでイコールできるわけじゃない。誰よりも考えることが重要です。自分が作ろうと考えたものって、他の人も考えつくじゃないですか。こんなのうまそうだなって。そういうアイディアは誰でもいくらでも出ると思うんです。でも、実際やってみるのは全然違う。やってみて、ある程度いいところにいっても、どれだけまだ駄目なのか、どれだけ疑問を持つのかを考える。難しい料理は出してないけど、自分なりに考えて作っています。

本田:キッチンも人が結構いるよね。どういう感じで増えてきたの? 募集して来た?

鈴木:めっちゃ応募、来るんですよ。定員が空くのを待っている人もいるぐらい。

本田:マジで? 今、皆、困ってるよ。

鈴木:興味を持ってもらえる部分が少しはあるんじゃないですか。募集してますって言わなくてもめちゃくちゃ応募が来ます。東京からも、地方からも。そこはありがたいですね。

本田:何でこんなに知られるようになったと思う? 口コミの評判とか?

鈴木:好みは分かれると思いますけど。逆に本田さんから見てどう思います?

本田:オリジナリティもあるし、他で食べられない料理。わざわざここまで来る価値がある。食べた人は皆、すごい、ナズいいよって言う。俺も何人かに言われた。だから、行かなきゃなと思ったんだけど。予約、全然取れなくて。結局は人だね。

鈴木:初めの頃、食べてもらったお客さんには、絶対もう一回食べてもらいたいと思ってます。こういう感じでやっているんで、絶対成長するじゃないですか。だからもう一回見てもらいたい。

本田:まだまだ進化する余地はいくらでもある。

鈴木:まだまだ、全然。

本田:どんどん良くなっている。

鈴木:そうじゃないと自分が楽しく仕事できない。自分の感覚で次のステージに行く。メニューも3カ月に1回変わって、一歩一歩自分で成長していく。そこの快感がやっぱりすごくいいですね。

本田:インプットはどうしてんの? 例えば料理を食べに行ったり、海外行ったりとか。それともそういうのは一切やらない?

鈴木:全くやらないですね。本を読まないですし、料理の勉強のために食べに行くこともないです。

本田:じゃ、料理のアイディアは、自分で?

鈴木:他からのアイディアはまずないですね。そこは一つも入れたくないです。

本田:常に試作して。

鈴木:試作ですね。無いものを一から作るから、全部失敗するときもある。だから、かなり時間がかかります。

本田:そうだよね。何が正解かもわかんないよね。

鈴木:わかんない。自分がめちゃくちゃうまいなと思って、料理を出す。それまではなんだかわけわかんない料理を作ってるんですよ。

本田:食材はどう? 生産者のつながりとかはどうしてんの?

鈴木:普通に直に行って、話をしています。生産者さんから紹介してもらうこともあります。皆、よく知っているんです。実際、自分で食べてうまいと思ったら、すぐ話します。東京だとすごくいい食材が集まってくるじゃないですか。その中で料理を作る。それもすごく楽しいし、難しさもありますが、今、この場所でやってみて、地方の方がやりやすいんじゃないかなと思います。

本田:逆にね。

鈴木:なんでかというと、消去法になる。東京は食材の数が多くて、例えば魚の数も海と川とで全然違う。地方では限られた食材から、そいつをどうやってうまく料理してやろうかって考える。より何層も何層も考えなきゃいけないという状況に陥るんですよね。皆がそうではないかもしれないけど。僕はそういうふうになりやすいから、地方の方が合っているんだと思います。

本田:素材の味で勝負しますっていうと、和食なんかはそうだけど、フレンチにしてもイタリアンにしても、そこじゃないじゃん。食材はそれなりにいいものはあるけど、そこまでじゃない魚とかをさ、いかにおいしくするのかが料理みたいなところがある。

鈴木:超いい魚をいい感じで出しても和食には勝てないですからね。

本田:料理でどこまで素材をおいしくするかということだよね。

鈴木:自分の中ではその方向性しかないですね。

本田:もちろん素材のいいものを食べたい。それとは別に料理っていうことで言うと、どこまでおいしくできるか。それこそ全然原価がかかってないものをおいしくするか。かつての「京味」の亭主、西さんとかある意味そうじゃないかな。高級食材じゃないものをいかに仕事して、どのぐらいレベルが上がっていくかっていうところをやっていた。料理とはそういうものだという。それをナズもやっているよね。