〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直されはじめたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

猫田しげる

20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「あまから手帖」「FRIDAYデジタル」「旅の手帖」などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。

目利きも腕も確かな本格江戸前。なのにメディアが取材を敬遠する理由は?

錦市場のド真ん中に、社長の夢を叶えてオープン

今や歩く人の90%が観光客とも言える、京都・錦市場。そのド真ん中に構える「鮨しん」は2017年に開店後、2年間の休業を経て2023年2月にリニューアルオープン。昼は以前と変わらず予約不要でセットがいただけますが、夜は14,000円のコース1本で勝負する完全予約制の本格江戸前寿司としてパワーアップしました。

四条駅、京都河原町駅、烏丸駅からそれぞれ徒歩5分と便利な場所にあります

この高級感のある設え、好立地で14,000円とは大変お値打ちです。ちなみに昼のランチは2,500円からとさらにリーズナブルです。

カウンターは14席。18時30分からの一斉スタート制です

実はコチラ、京都の雑誌社の社長が飲食会社を立ち上げてオープンした寿司店なのですが、今は雑誌社とは別会社になり、社長も飲食会社の専任となっています。つまり全く関係がありません。しかし社長曰く「雑誌社がやっている寿司店だと思われていて、他の雑誌が取材に来てくれなくて寂しい……」とのこと(笑)。

 

猫田さん

競合にあるメディア同士だと、ライバル会社のお店をなかなか紹介しづらいものです。でも関西のメディアさん、こちらは純粋な飲食会社の経営なので、臆せず誌面で取り上げて欲しいものです!

シャリは“幻の米”を使用。握るのは名店で経験を積んだベテラン職人

大将の多々納誠さんは、13年の経歴を持つベテラン寿司職人。神戸の名店などで経験を積み、こちらに抜擢されました。魚は舞鶴を中心に全国から旬のものを仕入れ、シャリの米は岐阜県産「ハツシモ」を使用。冬まで刈るのを待ち、初霜がおりて甘みがのってから収穫される“幻の米”と名高い品種です。

右から、井上真和さん、多々納誠さん、野口貴之さん

酢は米酢と赤酢を使い分け。白身魚やエビ、イカなど淡泊なネタには米酢と塩と砂糖を混ぜた白シャリ、赤身魚やトロなど脂の強いネタには砂糖不使用の赤酢の赤シャリを使用しています。

14,000円のコースは、握り10カンと料理4品を交互に

では早速、お任せコースの一部をご披露。内容は月替わりで、基本的に握り10カンと料理4品という構成。先付→茶碗蒸しかお椀→握り3カン→焼き物→握り3カン→揚げ物かしゃぶしゃぶ→握り4カン→汁物→デザートという大満足のフルコースです。

 

猫田さん

しかも「同月内に2度来られる方には同じものは出しません」とはうれしい気配り。ひと月に2度なんてヘビーユーズできる方も羨ましいですが……(笑)。

先付としての一品はマグロの山かけ、贅沢にイクラをのせて。マグロの仕入れは部位によって産地を変え、赤身は宮城の塩釜から。冷蔵庫で7日間風を当て続ける「乾燥熟成」によって旨みを閉じ込めたマグロを漬けにしています。

つくね芋と長芋を半々で合わせることで究極の粘度に!

醤油にもこだわりがあり、濃口醤油とたまり醤油、砂糖を配合して甘めに仕上げるのだそう。醤油を使う寿司や料理にはこの甘口醤油が使われ「鮨しん」のベースの味を支えています。餅に付ける砂糖醤油のような香ばしく甘じょっぱい味で、砂糖不使用の酸味がある赤酢とのバランスが考えられています。

魚はLINEで鮮魚店から。その日の朝に取れたものを直送!

舞鶴や宮津に馴染みの魚屋があり「その日の朝にLINEで注文して、夕方には届きます」とのこと。寿司業界にもIT化の波が……!

時期により他の産地からも仕入れますが、舞鶴は日本海に面した外海と若狭湾という穏やかな内海のため魚種も多く、栄養状態の良い魚が育つのだそうです。

まずはアオリイカ。凄まじい数の飾り包丁が入っていますね……! 聞くと150ほど切り込みを入れているとか。そのため弾力を残しつつ口の中で柔らかくほどけ、ねっとりとなめらかな口当たりに。

この日のイカは長崎産でしたが、時期により舞鶴の白イカや剣先イカなども

上の黒い粒は、備長炭塩。炭の香りをまとってほんのりスモーキー、角がなく舌にピリッとこないまろやかな塩味になっています。

突然バーナーで炙るパフォーマンスが始まりました! こちらは、舞鶴産の身厚なサワラ。皮目を炙ることで香りが立ち、脂が溶けてよりコクが強まるというトリックです。

そう言えばこの個性的な付け台、清水焼作家に特別に作ってもらったものだとか

こちらも醤油はオリジナルの甘めのものを。口中で「香・甘・旨」の三重奏が繰り広げられ、飲み込むのがもったいないほど!

フレンチのメインのような一皿⁉ 焼き魚はたで酢のソースで

おおっと、フレンチの魚料理のような一皿が登場しました。こちらは焼き物の一例。スズキのたで酢味噌、ホタテの取り合わせです。苦みのあるたでって、大人になると旨いですよねえ(笑)。スズキの上にはたでの葉の素揚げ。

スズキは独特な香りがあるので、負けじとクセの強いたでと合わせたそう。なんという攻防戦でしょう、良い意味で青臭いたで酢味噌がスズキの淡泊な身に絡み、スズキ本来の川魚のような個性的な味わいが引き立っています。甘く酸味のある酢味噌もエエ仕事してます。

 

猫田さん

スズキも手の込んだ一品でしたが、ホタテはバター醬油でソテーした上にキャビアまでのっけてます。間違いなくおいしいやつ~。