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〈今夜の自腹飯〉
予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?
箸が止まらない、珠玉の「香港魚介のスペシャルセット」
「ナチュラルに、ヘルシーに本場香港の味を」をコンセプトとした「シーズナブル香港料理 E360°(イーサンロクマル)」は、2022年8月にオープンしたばかり。だが、すでに口コミが広まっている。それもそのはず、この店のシェフは香港のミシュラン常連レストランや全日空ホテル、コロナ禍により惜しまれながら閉館となった千葉県一宮のオーベルジュ「EN 燕 The Garden」で多くの食通を虜にしてきたWah Kee Chow料理長なのだ。香港料理ファン、待望の新店である。
そんな実力派の腕前を、恵比寿・新橋グルメ通りのボタニカルな寛ぎ空間でカジュアルに体感できる。店名の「E」は“E”veryday、そして「360°」は円卓を表しており、中華の会食で円卓を囲むように毎日食事を楽しんでほしい、という願いが込められている。
ディナーは「ライトコース」(3,200円)を軸に、お好みでメインや〆の食事を注文するスタイル。コース内容は季節に合わせて変わり、常に旬の食材が連なる。現在のライトコースにあたる「香港魚介のスペシャルセット」は、季節の前菜6種盛り、点心、スープ、広東風 季節鮮魚の蒸し料理と「ライト」とは言い難い充実ぶりだ。
名物の釜焼き叉焼を含む、目にも美味なる「季節の前菜6種盛り」
看板料理は、やはり「叉焼」だ。香港料理の要である釜は、本場広州から直送で仕入れたもの。その中で、火入れの時間や温度を細やかに調整して、じっくりと焼き上げていく。しかしながら、叉焼は「焼く」以前の工程も重要だ。肉を丁寧に処理することで、味の染み込み方が変わってくる。焼く2日前から素材を漬け込むタレは、料理長オリジナル。麦アメ、ハチミツ、中国酒、複数の味噌を配合した自家製醬を使用した、唯一無二のスペシャルな叉焼なのである。
口に含むと、やわらかくほぐれつつもしっかりとした食べ応え。噛む度に風味が増し、飲み込むのが惜しくなるほどうまみが変化していく。なお、叉焼はアラカルト(1,480円)で注文できるほか、香港チャーシューランチ(1,200円または1,500円)やテイクアウトのお弁当(1,000円)でも味わえる。
「季節の前菜6種盛り」にはめずらしい食材もさりげなく含まれている。例えば、コリコリとした弾力が癖になる「クラゲのシェフオリジナルXO醬あえ」は、クラゲの稀少部位である頭部を使用したものだ。仮にアラカルトで注文した場合、この価格ではとても食べられない。「本格香港中華を気軽に楽しめる」も方針の一つとはいえ、驚きの内容である。
メインは「シーズナブル」な鮮魚。秋はふっくらと蒸された鮭を楽しめる
メインとなる「広東風 季節鮮魚の蒸し料理」は、夏の間は鯛の姿蒸しだったのが、秋は鮭へと更新された。焼くでも炙るでもなく丁寧に蒸し上げられた繊細な食感と深い風味、鮭本来の味わいにはっとする。盛りつけの美しさも印象的だ。身近な魚だからこそ、その巧みさが浮き彫りとなる。
「広東風」というと、中華のイメージから油や辛味を想像するかもしれない。だが実際のところ、広東料理は「蒸す」ことを得意とし、中国四大料理の中でも素材の味を引き出す薄味が特徴である。本メニューでも鮭の豊かな香りと味わいが、最大限生かされている。次の季節も、目が離せない。
熟練の「点心師」による、繊細な手仕事
スペシャルセットにも含まれる点心は、本場香港仕込みの「点心師」が、一つ一つ手仕事で作り上げている。中華料理において「点心師」は資格の要る専門職だ。定番の「海老蒸し餃子」も人気だが、フロアマネージャーは「スッポンのコラーゲン入り小籠包」がイチオシで、曰く「そのまま、何もつけずに食べるのがオススメ」とのこと。もっちりとした皮の中に凝縮されたうまみが、舌の上でみずみずしく花開く瞬間を味わってほしい。寒くなってきた頃に登場予定の「上海蟹の小籠包」も注目である。
5時間かけて煮込まれた、滋味溢れる「烏骨鶏の蒸しスープ」
栄養のたっぷり詰まった烏骨鶏と生薬を、手間暇かけてじっくりと煮込んだスープ。トウジン、オウギ、竜眼、クコの実などの生薬をふんだんに使用している。烏骨鶏のコラーゲンや生薬のエキスが余すところなく抽出され、コク深い味わいと共に疲れた心身に染み渡っていく。美容・健康に良いとされ「飲んだ翌朝に実感する」と常連客にも好評だ。
お酒好きには堪らない、まろやかな甕出し紹興酒
カウンターに鎮座する甕(かめ)は飾りではなく、シェフセレクトの10年ものの紹興酒だ。20年もののボトルもあり、ストレートでもソーダ割でも楽しめる。長い時を経て熟成された紹興酒は角が取れ、独特な甘みのあるふくよかな味わいとなる。飲み過ぎがこわいほどの飲みやすさだが、後には残りにくいとのこと。