【噂の新店】「シノワズリ372」
新宿三丁目、銀座と「レンゲ」を押しも押されもせぬ人気店にした西岡シェフが過去から現在、そして未来へ向かって感謝の気持ちを込めた店を築地にオープン。料理人人生の新たな章がスタートしました。
東京の中国料理を牽引してきた西岡シェフの新天地

築地駅から徒歩2分ほど。大通りから1つ裏手の道に佇むのは「シェフス」「チャイニーズタパス レンゲ」「レンゲ エキュリオシティ」と東京の中国料理を牽引してきた西岡英俊さんの新天地「シノワズリ372」です。

店内へ入るとオープンキッチンカウンターから西岡さんが迎えてくれます。カウンターに並んだ8席の椅子は広めの作りで席間隔もゆとりをもたせているので居心地がいい。ペールピンクの壁とセージ色のカウンターの色合いにセンスの良さを感じます。

和菓子職人だった西岡さんは師と仰ぐ「シェフス」創業者、故・王 恵仁氏と出会い、中国料理人の道へ進みました。調理師専門学校に行きながら王氏のもとで約3年間修業します。その後、スペイン料理、イタリア料理などを経験して王氏が立ち上げた「シェフス」に入店。4年後に退職し、製菓製パンを学び友人のパティスリーを手伝ったのちにワーキングホリデーでニュージーランドに行き和食を経験。帰国後は商品開発やコンサルタント業に携わり、2009年に独立。「シェフス」を手伝いながら新宿三丁目に「チャイニーズタパス レンゲ」をオープンしました。

“引き算の中華”と呼ばれる繊細な味を確立した王氏から受け継いだ素材そのものの味を引き出し研ぎ澄ました“上海家庭料理”に、さまざまなジャンルを経験したボーダーレスな新感覚の料理をニューワールドワインと共に楽しむ中国小皿料理(タパス)レストランは、予約できなかった人が立ち飲みスペースで席を待つほどの超人気店となり、2015年に「レンゲ エキュリオシティ」と名を改め銀座に移転。そして、2024年、始まりの新宿3丁目、移転した銀座7丁目、到着した築地2丁目の数字を取って名付けた「シノワズリ372」をオープンしました。
過去の料理を融合し、未来へつなぐ新しい料理

ベースになるのは6皿からなる15,000円のおまかせコース。その後、一品料理や〆もの、デザートが追加できるスタイルです。こちらは3皿目に提供される前菜の盛り合わせ。新宿で創り出したタパススタイルで「四川風よだれ鶏」や「クラゲのマリネ」など一口サイズのつまみが温かいもの冷たいもの合わせて9種類盛られています。中国料理だけでなく和食やフレンチのエッセンスを取り混ぜたバラエティに富んだ味わいに、どうにも酒が進んでしまいます。

西岡さんが「麻婆豆腐」を作り始めると中華鍋で炒めたいい香りが漂います。すると豆腐を入れ少し煮込んだところでなぜか火を止めます。基本的に中国料理は炒めはじめたら仕上げまで時間との勝負というイメージがあるので理由を問うと「ゆっくり火を入れると豆腐から水分が出ないから」とのこと。3〜4分休ませて再び火をつけ、鍋の中の温度が上がったら卵液をそ〜っと回しかけ、10秒ほど炒めて完成です。

しっかり火は入っているものの卵はふんわり、豆腐はプルプルでやわらかい、なのに崩れないのがすごい! 極め付きは上品で繊細、且つコクと香りも存分に感じる上海蟹の餡。30年以上もの間、よりおいしくなるようにと改良し続けてきた西岡さんの技の冴える一皿です。

今度はキッチンからリズミカルに卵白を泡立てる音が聞こえてきます。こちらは新宿で提供していた「フカヒレの淡雪炒め」と銀座で提供していた「フカヒレステーキ」をミックスして進化させた、“シノワズリ372版”のフカヒレ料理。

「フカヒレは蒸した後、真空にして味を浸透させています。以前は丸ごと焼いていましたが表面をカリカリにするために米粉を振ってカットしてから焼くようにしました」と西岡さん。フカヒレはカリカリで歯切れ良く、手で泡立てた卵白はフワッフワでエアリー。食感のコントラストが楽しくて、あっという間に完食してしまいます。

本日のコースの最後を飾るのは麺、スープ、浅葱だけという、いたってシンプルなラーメン。ですが、西岡さんが作るのでもちろん只者ではありません。「上湯、鶏、アサリ、金華ハム、魚など常に数種類のスープを用意している」と言い、この日使用した上海蟹のコンソメはみそを外した上海蟹の身と殻、長ネギと生姜と酒で一番出汁を取り、鶏ひき肉を加えて仕上げています。甲殻類の香りとコクと甘みに鶏のうまみが複雑に絡み合い、一口で卒倒しそうなほど。

「こういうスープに一番合う麺を選びました」と言うように、小麦の香り豊かな麺とスープが一緒に喉を通ると至福の瞬間が訪れます。シンプルにみせて食べるとさまざまな味が次々と現れ、主張しながらも最後には調和して落ち着く、こんなラーメン他に類をみません。
店名に込めたもう一つの意味とは?

まだまだ食べられる!という人にアラカルトメニューも用意しています。名物の焼売や酢豚に炒飯も魅力的、でもどんなにお腹がいっぱいでも食べたいのがデザートの「モンブラン」です。「モンブランって仕上げに栗のペーストを絞るのが至難の業。だったら逆にすればいいんじゃない」と発想したのがこちら。和栗とイタリア栗を合わせて細かくし、手で裏漉しすること2回、栗のペーストを作ります。その上にクレームシャンティをたっぷりのせ、某有名フレンチシェフから教わったというメレンゲを手で砕きながら散らします。

甘さ控えめで栗のうまみが際立ち、もう、手が止まりません。まさか中国料理店で、専門店に匹敵するほどの「モンブラン」が食べられるなんて!と問うと、「母が栗を剥いてくれるんで」との返答に思わず笑ってしまいますが、実は製菓製パンも学んでいる西岡さん。洋菓子もプロ級の腕前なのです。

出されるすべての料理が主役級なのに食べ疲れしないのは、中国料理にありがちな油っぽさをまったく感じないから。大きくて厚いクラゲは1週間かけて水で戻し、2mmの細さで千切りし、栗のペーストは2回も裏漉しするなど、仕込みや調理工程に一手間も二手間もかけることで食材のうまみや味わいが引き出され、最低限の調味料でおいしくなるのだと、西岡さんの料理は教えてくれます。

中国趣味という意味の「シノワズリ」は師から継承した中国料理を経験した多種多彩な料理のエッセンスを融合し、独創的な料理に仕上げる西岡さんにぴったり! また「372」という数字は“集大成”の他に“みんなに”という意味があり、これまでとこれから店に携わるみんなが幸せになるようにという気持ちを表しています。また一つ、東京のレストランシーンを楽しませてくれる店が誕生しました。
※価格は税込