鴨焼き
そしていよいよ、カウンター内の中央にしつらえられた炭焼き台で、メインイベントとも言える、鴨焼きが始まる。備長炭の上に、玉鋼(たまはがね)と言われる、日本刀の原料となった鉄で作られた鉄板が、30分近くじっくり温められている。
その玉鋼は、戦後は日本刀を作る以外には使用を禁止されているほどの貴重品だそうだ。現在「感情」で使用しているものは、300年ほど前に製造されたものだとか。普通の鉄板に比べて、無数の小さな穴があいているため、熱伝導率がよく、ふっくらと焼きあがる。
豊田さんが炭焼き台の前で、薄切りにした鴨のロース肉を、2度3度、玉鋼の上で返して焼き上げる。焼き立てを口に入れると、さっくりと歯が入るのに、肉自身はふっくらと弾力があり、これが鴨だろうか、と驚嘆させられる。
その後に口いっぱいに広がる、品のよい旨みの余韻が長く、いつまでも口福な時間が続く。コースでは、ロースを3枚ほど焼くほか、つくね、ささみなど、異なる部位を焼いて楽しませてくれる。また、現在は合鴨だけであるが、ジビエのシーズンを迎えたら、天然ものとの食べ比べも考えているそうで、楽しみはつきない。
小松宏子さん
玉鋼で焼くからなのか、焼きの技術によるのか、鴨の品質によるのか、とにかく、その歯応えは味わったことのないものでした。鴨の肉の濃い赤い色は、窒息鴨を使っているからだそう。旨味が濃いのもそのためです。
つゆそば
あっという間にコースも終盤、締めのそばであるが、これは、鴨のコンソメで食べさせるつゆそばだ。
「鴨は丸一羽でとっているので、腕の肉など料理には使えない部位をミンチにして、コンソメを引いています。それを締めのそばに使っているんです。コクのあるだしをさらに濃厚にするために、中華の鶏油(チーユ)をふり、最後に青柚子をすりおろして、爽やかさも添えています」と豊田さん。
まぎれもないコンソメの美味と、手打ちそばの好相性に思わず陶然とさせられる。
小松宏子さん
コンソメ好きとしては、そばのつゆがコンソメという、心憎いアレンジにやられました。鴨一羽まるごとの旨味を堪能したという充実感に満たされます。
料理はこの他にデザートが提供され22,000円。
ワインとのマリアージュもお楽しみ
話が最後になったが、内装は、京都の建築家・木島 徹氏の手になるものだ。絶妙なライティング、美しい炭台、季節の掛け花……。建築好きが訪れても充分に楽しめるだろう。
またワインセラーもあり、品揃えも豊富だ。ゲストの好みに応じて、ワールドワイドな1本をセレクトしてくれる。こうした料理以外のことも含め、鴨好きが、ますます鴨好きにさせられてしまう店「感情」。一品料理も季節感たっぷりで心憎いアレンジが利いているし、ぜひ、ジビエが出るころに、また、伺ってみたい。