〈大木淳夫の新店アドレス〉
7月も東京のレストランシーンに、多くの新店が誕生しました。その中でも、グルメ界的に特に注目のお店をご紹介します。
教えてくれる人
大木淳夫
「東京最高のレストラン」編集長
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より務めている。その他の編集作品に「キャリア不要の時代 僕が飲食店で成功を続ける理由」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。
好きなジャンルは寿司とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。最新刊「東京最高のレストラン2022」が発売中。
凄腕の料理人、ついに復活! ガストロノミーの注目店もいよいよオープン
まずは“トミーさん復活”でしょう。7月8日、 虎ノ門にオープンした中国料理店「港式料理 鴻禧(こうき)」。トミーさんこと覃志光料理長は、「福臨門酒家」などを経て2018年、錦糸町に忽然と現れた「SOUTH LAB 南方」の料理長として注目を浴びました。ところが2021年に閉店(その後、業態変更をして「インドシナ クォーター ベジアンドヴァン」として営業中)。同年4月、六本木にオープンした「香港広東料理 蓮記」に移籍するも、わずか1週間ほどで休業……。
いったいトミーさんは何処に、と噂になっていたところ、ヒットメーカー阿部光峰さんと組んで素晴らしい店を作り上げました。ザ・香港の料理を、香港では体験できないカウンター形式で堪能できます。トミーさんも楽しそうですし、SOUTH LAB時代に絶賛を浴びた傑作「鶏白子のペースト揚げ」や「クリスピーチキン」もいただけて、うれしい限りです。
食と文化の視点で見ると、7月1日に東京ガーデンテラス紀尾井町(かつての“赤プリ”の場所です)にオープンした最先端のペルーレストラン「MAZ(マス)」は注目でしょう。オープン日に日本のガストロノミーを代表する成澤由浩シェフからの祝花も届いていましたが、プロデュースのヴィルヒリオ・マルティネスさんは世界的に有名なシェフ。ペルーでは「世界のベストレストラン50」で今年、2位に輝いた「セントラル」だけでなく「マテル・イニシアティバ」という研究機関を、海抜3,500メートルのクスコにあるモライ考古学遺跡群に作り、雇用と教育にも力を入れています。
「MAZ(マス)」はヴィルヒリオさんの右腕であるサンティアゴ・フェルナンデスシェフが指揮を執りますが、どんなイノヴェーティブな料理を披露してくれるのか。コースは「9つの異なる高度の旅」と「9つの異なる高度を持つ野菜のメニュー」でともに24,200円です。
東京に進出するシェフの多くが「この街はどんな試みも受け入れてくれる」と語ります。逆に言えば私たちが世界で一番、様々な料理を享受できるということ。このチャンスを楽しみましょう。
7月1日はカリスマの話題店や新業態、大阪の人気店などが一斉に開店
実は同じく7月1日(金)、多くのお店がデビューしています。オープン前からエスニックファンをざわつかせたのが、大森の「インド宮廷料理マシャール」。「タージ」「アジャンタ」「シターラ」などで活躍し、もはや伝説レベルの日本インド料理業界の重鎮、モハメド・フセインシェフのお店です。
早速ランチで訪れたところ、すでに行列ができていて30分待ちでした。代名詞ともいわれるタンドール料理は、チキンもフィッシュティッカもシークカバブもなんともジューシーでスパイス使いが絶妙。必食でしょう。
1997年に創業し、3,800円のプリフィクスコースで一大ブームを起こした元祖・予約の取れない料理店「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」は、ダイワロイネットホテル新橋の1階になんと「焼肉ラ・ベットラ」をオープンしました(御大・落合務シェフは以前から焼肉屋さんをやりたかったそうです)。6,600円のコースは前菜、肉10種、締めはパスタ、カレー、ビビンバから選ぶ形ですが、ベットラ名物「ウニのスパゲッティ」があったら迷わずどうぞ。
カジュアルなところでは、有楽町の東京交通会館B1に、大阪で12店舗を構える人気大衆居酒屋「徳田酒店 有楽町店」がオープンしています。お昼前、11時からの通し営業! 1890年創業の酒販店が母体なだけに酒揃えも充実。しかも正1合で430円からと魅力的な値段です。名物は「京橋玉子焼」。「きゅうりビール漬け」もおいしいです。予約不可ですが、カウンターも居心地がよく、ひとり飲みにも最高でしょう。