2015年「世界のベストレストラン50」で南米のレストランとしては初めて第4位を獲得したペルーの「Centra…

オープン前から食通たちの間で話題のレストラン

石の質感にこだわった外観。このドアを開けるとペルーの旅が始まる。

「セントラル」と言えば、世界の美食家がわざわざ訪れることで有名なペルーのリマにあるレストラン。その「セントラル」のシェフであり、ディレクターの ヴィルヒリオ・マルティネスシェフがプロデュースする店ということで、「MAZ」はオープン前から食通たちの間で注目されていた。

東京メトロ・永田町駅と直結した「東京ガーデンテラス紀尾井町」3Fにある「MAZ」。
来日していたヴィルヒリオ・マルティネス氏に、なぜ日本に出店することを決めたのか、その経緯を聞いた。

南米を代表するシェフ、ヴィルヒリオ・マルティネス氏。

ペルーは、新鮮な魚介に恵まれた沿岸地帯からアンデスの高山地帯まで、海抜ごとに生態系が変わる。それは、日本に置きかえるならば季節感と言えるだろう。

ヴィルヒリオ・マルティネス氏はこれまで何度か来日するうちに、食を愛し、芸術的な表現にまで昇華する日本の文化に興味を持ち、「もっと日本で過ごしてみたい」と考えるようになった。また、日本のゲストが自分の料理や世界観に興味を持って、楽しんでくれることに手応えも感じたという。さらに、ヴィルヒリオ氏とともに世界各地で開催される美食イベントに参加してきた、彼の右腕サンティアゴ・フェルナンデスシェフも、自然や風景にアプローチする自分たちを理解し、評価してくれる日本のゲストのために料理をしたいと考え、このプロジェクトを進めることになったという。

ペルーの海を表現した海抜0mの「海霧(Ocean Haze)」

大気を表す青い泡はすぐに消えてしまうので、提供されたらすぐに食したい。

「MAZ」のメニューは、料理をペルーの異なる高度が織りなす9つの風景と生態系で表現した「VERTICAL EXPERIENCE(9つの異なる高度の旅)」24,200円と、「VEGETARIAN VERTICAL EXPERIENCE(9つの異なる高度を持つ野菜のメニュー)」24,200円の2コースのみとなっている。

「9つの異なる高度の旅」の中から一品を紹介するとなると、見た目もインパクトがある「海霧」だ。小さな器に盛り付けられたこの料理は、海上の大気を、泡状にした天然色素のブルースピルリナで表現している。泡の下にはクリーム状のグリーンスピルリナと、ハーブと合わせて軽くグリルしたタコが入っているので、スプーンを器の底まで入れて、素材やソースを一気にすくって口へ運んでほしい。

ほんのりハーブの香りがついた柔らかいタコと、塩味がきいた青の泡のソースの相性は抜群で、カクテルやワインがすすむ一皿だ。

ジャガイモを堪能する海抜3260mの「アンデスの森(Andean Forest)」

「アンデスの森」はジャガイモが主役の料理。

アンデス山脈が原産地とされるジャガイモは、ペルー料理に欠かせないアイテムだ。「アンデスの森」は、そのジャガイモを堪能する料理となっている。

写真右奥は、古代インカの調理技法にインスパイアされて作られたもの。ミネラルをたっぷり含んだチャコ粘土にハーブの灰を混ぜ合わせ、中にジャガイモを入れて蒸し焼きにしている。ハーブの香りと、塩味がついたジャガイモは、ホクホクしていて香りも豊か。その芋を緑色のディップにつけて食す。ソースにはアンデスのハーブと唐辛子が混ぜてあり、スパイシーな味付けになっている。

左手前の器には豚肉のシチューが入っている。だが、ここでも注目するべきは、一緒に煮込まれているジャガイモである。ジャガイモは、アンデスの山で収穫したものを冷たい川の水に晒し、その後天日で乾燥させ、自然凍結乾燥させた「チュニョ」というペルーの固有の食材。そんなアンデス山脈の寒暖差が生み出した大地の恵みと言えるジャガイモを豚肉と一緒に煮込むことで、肉のうまみがたっぷりと染み込みこんだジャガイモが堪能できる一皿になっている。

カカオを丸ごと味わう海抜750mの「アマゾニア(Amazonia)」

アマゾンの果実が堪能できる8品が揃う。

最後はテテオブロマ属(神々の食物)の3つの果実「マカンボ」「コポアス」「カカオ」を、皮から実まですべて食べ尽くしてもらいたいというコンセプトの「アマゾニア」。

写真の手前、黒い器に入った茶色のソースは濃厚なチョコレートソースだが、これだけ濃厚なチョコレートソースはあまりない。発酵、ローストしたカカオ二ブを粗くペースト状にし、そこにヤーコンのシロップで甘味づけをする。レストラン内で作られる純度の高いチョコレートソースでカカオの味をダイレクトに味わうことができる。

ほかにもコポアスのシャーベットや、カカオの実の汁をゼラチン状に固めたものなど、珍しい皿が8品も並ぶ。これらは3つの果実のみで構成されているのに、味も食感も全く違うから驚きだ。その多様性こそが熱帯雨林がもたらす宝物であり、「アマゾニア」では、まるで樹木になった果実を食べながらアマゾンを散策しているような、そんな悦びを感じることができるだろう。