〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

客席と料理を盛りつける場所が一体化!

客席は8席のカウンター席の他に、4席のテーブル席がある。

ホテルで海が見える客室のことを“オーシャンビュー”と呼ぶが、それにならうなら、東京・外苑前の「restaurant origami」のカウンター席は、さしずめ“キッチンビュー”と呼ぶことができよう。もちろん造語であるが、その名のとおり、キッチンの調理風景をライブ感たっぷりに堪能できる、極上の客席という意味だ。

この“キッチンビュー”を可能にしているのは、料理を盛りつける場所と客席が一体となった、フラットなカウンターにある。厳密には料理を盛りつける場所は3cmほど下がるが、客席との間に遮るものが何もないため、客の目にはほぼフラットな状態に映る。この至近距離の臨場感が客をドキドキ、ワクワクさせ、これから出てくる料理の期待感を高めていく。

まず、アペリティーボからスタート

大理石の上に天板を設置。一部を三角に切ることで、客席と料理を盛りつける場所との境界線にしている。

オープン間もないため、当面は基本ディナーのみだが、土曜・祝日のみランチ営業も行い「おまかせランチコース」7,000円を楽しむことができる。一方、ディナーは「シェフのおまかせコース」9,000円と、アラカルトでメニューを構成。中でもコースがおすすめで、ワインを3~4杯飲んで15,000円ほどが予算の目安である。

「シェフのおまかせコース」の内容だが、まず小さなつまみが3~4品出されるアペリティーボから始まる。料理内容はその時々で異なり、取材時は「鱈」「玉蜀黍(とうもろこし)」「ホワイトアスパラ」の3品が登場。

「鱈」は、タラを牛乳で煮てすり潰し、ビスケットに塗って食べる、イタリア伝統料理の“バッカラ マンテカート”。「玉蜀黍」はひと口スープとして出てくるので、ホッとひと息つくことができる。そして「ホワイトアスパラ」はホワイトアスパラガスを茹でて、焼いて、ふわふわの玉子ソースをかけたものである。

甘酸っぱく味わうイサキのカルパッチョ

「イサキのカルパッチョ」は、スモモの“固形ソース”とともに味わう。

アペリティーボで小腹が満たされた頃を見計らって、前菜が2品続く。この日の内容は「イサキのカルパッチョ」と「そら豆とペコリーノチーズ」。イサキは、神奈川・小田原から仕入れる朝獲れのもの。スモモと交互に盛りつけられ、彩りよく自家製フェンネルの花のピクルスが添えられる。そして、赤ワインビネガーとオリーブオイルがサッとかかる。

このスモモは店で追熟して甘みが高められており、固形にもかかわらず、口に入れるやトローッと溶けていく。これはもう具材というより、イサキのおいしさを引き立てる“固形のソース”である。さらに、酸味のあるフェンネルの花のピクルスで味が引き締められ、絶妙な甘酸っぱいカルパッチョに仕上がっている。

また、2皿目の前菜の「そら豆とペコリーノチーズ」は、ズッキーニの花にそら豆とリコッタチーズを詰めてフリットにしたもので、焼いたそら豆とペコリーノチーズのソースが横に添えられている。

料理と相性のよいワインが充実

「プロセッコ“シェイクミー”」6,200円はおりを引かない、にごりスパークリングワイン。

アペリティーボと2品の前菜を食べたところで、ワイン1杯がちょうど空くペースである。同店は各種ボトルワインの他、グラスも赤・白各2~3種用意。利用する人数で使い分けがきいて重宝する。ここまでのメニューだと、ボトルで頼むならスパークリングワインの「プロセッコ“シェイクミー”」6,200円がおすすめだ。

きっと好みが見つかる3種から選ぶパスタ

「タリアテッレ 赤牛 ボロネーゼ」は、赤ワインの「パタポン ルージュ 2020」とのペアリングを楽しみたい。

料理は続いて“魚料理”で、この日は「穴子の赤ワイン煮込み」。味つけに赤ワインが用いられるものの、赤・白・ロゼのどのワインにも合う。そのため、2杯目のワインも白でいこうか、赤ワインに変えようか、思わず迷ってしまう。もちろんロゼという選択肢もあり、何を頼むか、次のパスタに合わせるのも一興だ。

コースのパスタは3種から選べるようになっており、この日は「スパゲティ 釜揚げしらす ロザマリーナ」「タリアテッレ 赤牛 ボロネーゼ」「ヴェスヴィオ 蛸 アマトリチャーナ」がラインアップ。

ここで「タリアテッレ 赤牛 ボロネーゼ」を選んだなら、次は赤ワインに移りたい。さて、銘柄は何にしよう? ボトルで頼むなら「パタポン ルージュ 2020」9,500円がとりわけ相性がよいという。

挽き肉と平打ち麺の相思相愛の関係性

赤牛のスネ肉の挽き肉が、力強い食感を生み出している。

「タリアテッレ 赤牛 ボロネーゼ」は、ソースのゴロゴロした肉の食感がとても力強く、平打ち麺のタリアテッレと相思相愛のおいしさで、互いの存在をこれでもかと引き立てあっている。肉は赤牛のスネ肉を店で挽き肉にしてゼラチンも一緒に混ぜ込んでおり、深みのある味わいが何ともたまらない。

パスタソースに合わせて麺を使い分ける

本場、イタリアの麺棒で生地を伸ばしていく。

同店の選べるパスタは、ソースに合わせて麺を使い分けているのが特徴で、手打ちパスタ、乾麺のロングパスタ、乾麺のショートパスタ又はラビオリといったパターンが多い。

この日のパスタで言えば「タリアテッレ 赤牛 ボロネーゼ」は手打ちパスタ、「スパゲティ 釜揚げしらす ロザマリーナ」は乾麺のロングパスタ、「ヴェスヴィオ 蛸 アマトリチャーナ」は乾麺のショートパスタのヴェスヴィオを使用する。

中でも手打ちパスタは同店の大きな売り。イタリアで購入した本場の麺棒を用い、リズミカルに生地を伸ばして仕上げていく。麺台はシナの木を採用。表面がツルツルした麺台に比べ、麺に凹凸ができることからソースがからみやすくなり、おいしさをグンと高めている。

“一品入魂”! メインの肉料理

「対馬産 鹿肉 ロースト」は、断面に口どけのよいイギリスの結晶塩をはらりとふりかける。

パスタに続く、肉料理は「対馬産 鹿肉 ロースト」が満を持して提供される。一般にコースはメイン料理を選べるケースが多いが、同店は逆にメインが固定で、代わりにパスタが選べるのが特徴だ。もちろん、どの料理を選べるようにするかは、店それぞれの考え方次第。

同店の場合、今回の「対馬産 鹿肉 ロースト」だと、鹿肉を220℃のオーブンで1分加熱し、いったん取り出して5分休ませる。この作業を数回繰り返して仕上げていく。他の料理も同時進行で調理するため、タイミングがちょっとでもズレると味に影響が出てしまう。そこで、メイン料理はあえてこの一品に絞り、“一品入魂”の調理を行っている。

赤ワインの「ヴェネツィアD.O.C.」7,800円が、さらに料理のおいしさを引き立てる。

メイン料理に用いる肉の部位はカメノコで、普通「カメノコ」と聞くと牛肉の小分割部位を連想しがちだが、実は鹿肉にもある。鹿肉は足1本を仕入れており、足の先の固い部分などは煮込みにし、炒めたチコリとともにローストの横に盛りつける。また、ローストは塩をして焼くが、断面にも塩をふる。

塩は早くとけて口当たりがいい、イギリスの結晶塩が用いられている。ひと口頬張ると塩と肉の香りが口の中いっぱいに広がり、力強くもどこか品のある鹿肉のおいしさを感じ取ることができる。さらに咀嚼していくと、それぞれのおいしさが一体化。また、薬味としてレーズンの赤ワイン煮のコンディメントも添えている。